異世界人拾っちゃいました…

kaoru

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冒険の始まり

得手不得手 2

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「出来ないの?」

「うーん、ここからだと、ちょっと難しいな…」

「なぜここからなのですか?」

「ここからだと、よく見えないし、障壁で止めてるんだから近づこうよ」

「…いやぁ、俺はちょっと…」

 後込みする俺の前で、ミンテ以外の二人と一匹が、首を傾げる。ミンテは、俺の足にしがみついてる…

「あっ、ディルって、もしかして蜘蛛駄目なの?」

 うっ、リョウの問いかけが突き刺さる…

「…キモいだろ」

「だから、この距離なのですね。今までどうしていたのですか?」

「精霊達にお願いして、近づかれる前に退場してもらってたからな…子持ちは初めてだし…」

「えーと、それなら、障壁張ったまま、中で殲滅してしまえば良いんじゃないの?」

「そうしたいのは、山々だが…というか、一人だったらそれをやってるが、お前達の事考えるとなぁ…」

「どういうことですか?」

 ミスリルスパイダーは、その名の通り、ミスリルの様な外皮を持っているのだ。だから、高値で売れる。しかも、糸もかなり丈夫で、添付魔法もしやすい素材で上手く使えばかなり上質な衣服が作れる。
 
 俺は着れないけれど…
 
 ミスリルスパイダーだけではなく、蜘蛛系の多くは良質の糸がとれるのだが、その糸を量産するためにはもちろん、蜘蛛を捕まえなくてはいけなくて、成体になったものを従わせるのは骨がおれるし、糸も少し太くて加工しづらいのだ。なので、子のうちに糸を採取する。
 だから、冒険者は、卵を見つけたら、親を狩って飼育場に卵を持っていくと、高額で買い取ってくれるし、織り上がった反物も割り引きしてくれるのだ。

「丈夫って、どれくらい丈夫な糸なのの?」

「ミスリルスパイダーの場合は、鋼と同等の防御力を持つと言われてる」

「え?」

「うそっ」

「ホントだ。見る機会があったら、鑑定してみるといい」

「お金と反物のために、親は始末して、子は持ち帰るんだね」

「そういうこと」

「でも、ディル様は、これ以上は近づきたくないのですね」

「…そういうこと…です」

「うんーと、じゃぁ、ディルは、ここに居て、僕が近づいて、ディルの障壁の中で足と頭を切り落とせば良いじゃん」

「お前ねぇ、また、そうやって簡単そうに言うけど、お前一人で入って切り落とすのは大変だぞ。運よく、上手くいったとしても、孵化した子供が…」

 ぞわぞわ、ぞわわ…

 うわっ、自分で言って想像してしまった…

「誰も、入るなんて言ってないよ。外から二重に障壁張って、切ってみる」

「は?いや、外から他人の障壁に干渉するなんて無理だぞ」

「なんで?」

「何でって、障壁内は、俺の魔力により圧が掛かっているんだ。そこに割り込んだら、最悪、亀裂が走り、逃がしてしまうだろ」

「うーん、でも、タリクさんが、魔術はイメージが大切って言ってたよ。だから、ディルが割り込んでも良いって思えば割り込めるんじゃない?」

「…そうなの?」

 リョウの理論を聞いて、自分でもこんがらがってきて、思わずクラリーちゃんに聞いてしまった…

「さ、さぁ?父様から、イメージが大切と言うことは聞いていますが、そういう使い方が出来るのかは、聞いたことがないです。ココやミンテは知っていますか?」

『干渉は神様だけの権限のはず…では?』

『同じ属性であれば可能ですけど、同等、もしくは上位の者が下位の者に対してのはずです…確か…』

「うーん、難しい事は分からないから、やってみようよ。失敗したら、ディルとミンテちゃんには、近づけさせないようにするからさ」

「…」

「ずっと、このままって訳にはいかないでしょ?それとも、素材とか諦めて殲滅しちゃう?」

 い、いや、それは…できる限り防御力は高めておきたいからなぁ…

「うぅ…一か八かでやってみるか、もしも、駄目なら、殲滅だ」

「よし、じゃぁ、行ってくる」

 え…うわっ、アイツ障壁にへばりついて、観察してる…ぞわっ、ぞわわ…

 取り敢えず俺は、リョウが障壁内に干渉することを精霊達に伝えつつ、もしものために新たな障壁を精霊達にお願いしておく。
 クラリーちゃんとココは、五十メートル先、ちょうど中間ぐらいでリョウの様子を伺っている。
 すると、リョウの魔力が動き出した。
 胴体に合わせて障壁を張りガッチリと固定し、その障壁に沿って風魔法で切断…器用な使い方するなぁ…っつ、うわっ、…衝撃で孵化した!う、リョウのヤツ驚いて、中の障壁を霧散させやがった。

『うぎゃ、ク、クモの柱です。うようよ動いてます』

 ミンテ、人の足に爪をたてるな。そして、見ないようにしてるんだから、解説するな…

 えーと、鞄からハシード(毒草)の乾燥葉を出して粉砕、水に溶かしたものを、霧の精霊に託し、障壁の中へ(蜘蛛系に対して麻痺の効果がある)動きが鈍ったら、障壁を狭めて、狭めて、一メートル程の球体にして、闇精霊に中が見えないようにしてもらう。
 そうしておいてから、少し近づいた。

「僕より、ディルの方が器用だよね。こんなの出来るなら、逃げないで、サクッと倒せたんじゃない?」

 自分の目の前に浮かぶ黒い球体を、つつきながらリョウが呟いてる。

「本当ですね。捕獲したモノをこんな風にしてしまうなんて…初めて見ました」

 クラリーちゃんやココまで、近づいて見てる。

「それは、いいから、親の方解体して、ミンテに渡してくれ」

『ミ、ミンテ、持つですか?…持たなきゃ駄目ですか?』

「カコウバトもいるし、子も連れていかないとな…それとも、子の方がいいか?収納できないけど」

『子はイヤです。しゅ、収納します。リョウ、クラリー、解体したらここに入れるです』

 ミンテが尻尾を膨らまし、ココの所までダッシュして、張り付きながら、空間収納庫を開くとこちらを恨めしそうに見た。俺は、五十メートル離れたところで、作業の終わりを待つ。



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