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40.もう幸せなんて願わない※
しおりを挟むルーチェとシアンの交わりを見て、シュトラールは抜け殻になってしまった。
ルーチェの愛は完全にシアンのもとにある。
出産したら好きにする、シアンと愛し合うと言ったルーチェに許可を出したのはシュトラールだ。
彼女が誰を愛しても構わないと言ったのも、シュトラール。
見えないならば、知らないうちならば何も思わなかったかもしれない。分かった振りをして何の覚悟もできていなかった事に打ちのめされていた。
しばらく経って、湧いてきたのは怒りと憎しみ。
自分はこんなに苦しいのに、ルーチェは幸せで満たされている事に苛立ち、シュトラールはもうルーチェの幸せの為にシアンに譲るなどという考えを棄てた。
元々ルーチェの夫は自分で、夫婦で子作りをする事は当然の権利だと開き直る。
「トラウ、側室の件は全て断ってくれ」
シュトラールの光を失くした瞳を見たトラウは、今までに無いほどゾッとして「かしこまりました」と頭を下げた。
シュトラールはすぐにルーチェへ伝言を頼み、トラウを通じて指示を出す。
集中して執務を片付けて、早めに仕事を切り上げた。
その夜、ルーチェは夫婦の寝室にいた。
侍女によって下着のような薄い夜着を着せられ、まるで初夜のようだと困惑していた。
「ルーチェ」
呼ばれた方を振り返れば書類上の夫がいた。
これから何をするなど分かりきってはいるが肌の粟立ちは止められない。
シアンに愛される事を知り、正直シアン以外と触れ合う事をしたくはなかった。
シュトラールから側室を娶ると聞いた時はホッしたのが本音だ。
もう義務として抱かれなくていい。
そう思ったら嬉しくて思わず泣いてしまった。
それなのにルーチェはまた夫婦の寝室で夫に抱かれようとしている。
出産後初の共寝になぜ、と思わない事もない。そのまま側室を娶ればいいのに、とも。だがシアンと離れるわけにもいかない。義務としてする事に抵抗もある。
義務と感情の間でルーチェは唇を噛み、何度も溜め息を吐いた。
「ルーチェ、今日からまた共寝ができて嬉しいよ」
シュトラールがルーチェを抱き締め耳元で囁くとゾワッとしたものが駆け巡り思わず鳥肌となって表れた。
「寒いのかな。温めてあげるね」
「あ、いえ、その……」
シュトラールは夜着を脱がせ、ルーチェの肌に手を滑らせる。うっすらとした赤い痕が己を挑発しているように感じて苛立ち上書きするように強く吸い付きガリッと噛んだ。
「……っ!?」
「ねえ、ルーチェ? きみの夫は誰だい?」
真顔で尋ねるシュトラールの表情は逆光で見え辛い。今までと違う雰囲気にルーチェの背筋が凍っていく。
組み敷かれて身動きを取れなくされて、つうっと指がルーチェの肢体をなぞる。
首筋から下に、胸の周り、おへそ、その下へ更に指が這う。
「ここに」
「!?」
「私の以外の精を受け入れたんだね」
円を描くようにくるりと回り、シュトラールはそこに口付ける。強く吸って、やはりがりっと噛み付いた。
「殿下……? なにを……」
「ああ、そうだ。掻き出さなきゃ」
ルーチェの言葉を無視して、シュトラールは指ではなくおへそから口付け、そのまま下へと移していく。
目的の場所まで唇をやると、まだ渇いたそこに舌をねじ入れた。
「でんっか!? そこはっ!」
ルーチェの抵抗も虚しくシュトラールはジュルジュルと音を立てながら吸い出していく。
「やめっ! はぁっん、んぅっいや……ひぁっ……ああっ!」
舌で中からあふれる甘液を掻き出し、指で甘粒をグリグリと捏ねてドロドロに溶かすように愛撫する。
ルーチェは初めての事に信じられない気持ちと羞恥で頭が焼けそうになり、力の入らない手でシュトラールを押し退けようとするが全身に電流が駆け巡るような感覚がルーチェを高みに昇らせた。
「ああ、いっぱい出てきた。すごいや。リリィなんかよりぐちゃぐちゃだ」
「……っ!!」
リリィの名を出した事でルーチェは屈辱を感じたのかぎりっとシュトラールを睨んだ。
つぷつぷと指は淫穴を出入りし、きゅうきゅうと吸い付くように絡めてくる事にシュトラールは歓喜した。
「あはっ、リリィと比べただけで指を離さないってか~わいい~」
指を増やしながらルーチェの反応を見てイイトコロを当てると、一点集中で擦り上げる。
ビクビクと跳ねるルーチェを押さえつけるように覆い被さると、声を押さえていた手を退け唇で塞いだ。
「んっ、ぅう……むぅんんっ」
ぴちゃぴちゃと音を立てながらルーチェの口内を蹂躙する。
愛していると言わない口なら永遠に塞いでしまいたいと舌を絡め唾液を混ぜ合わせた。
息苦しくなったルーチェは苦悶に身をよじる。
シュトラールはこのまま口付けを続けていればルーチェは死ぬだろうか、と想像して恍惚に蕩けた。
だが死んでしまってはルーチェとの愛の結晶を作れない。
今日から共寝を再開したのは再び孕ませたいからで、目的を思い出したシュトラールは名残惜しげに唇を離した。
「ああ、良かった。私の愛撫でもしっかり濡れてくれてホッとした」
肩で息をしながら頬を上気させ、それでもルーチェは夫を睨む。
「子どもは……側室と、とおっしゃっていたではありませんか」
「妻がいるのに他の女とだなんてできないよ」
「どの口がっ!」
抵抗しようとするが腕を取られて寝台に縫い止められる。再び口を塞がれ、片手は胸を揉まれ頂きを弄ばれ、嫌で堪らないのに力が抜けて抗えない。
それでも力を振り絞り押し退けようともがくとシュトラールは唇を離した。
「……そんなに、嫌かな……?」
今にも泣きそうな声に一瞬だけ怯む。
顔を上げたシュトラールは歪に笑いながらその瞳に光は無い。
「ねえルーチェ。愛しているよ。信じられないかもしれないけれど、ルーチェを愛しているんだ。
ルーチェの幸せを願っていた。私が傷付けた分、あの騎士に癒やされればいいって思っていた」
ルーチェの胸に熱い雫が落ちてくる。
「けれど、あの騎士に愛されて乱れるきみは美しくて、淫らで、苦しいのに目が離せなかった。
同時に私以外で気持ちよくなっていることに心底憎いと思ったよ」
涙でぐちゃぐちゃになったシュトラールを見て、ルーチェの奥がグツグツと沸いてくる。
身勝手な男に苛立ちが募り、手を振りかぶったが掴まれ阻止された。
「だからね、もう、きみの幸せなんか願わない」
ぴたりと蜜口に添えると、ゆっくりと腰を進めていく。
「ああ、気持ちいい……やっぱりルーチェの中は温かくて好きだな」
「やめ……て……」
「大丈夫だよ。……リリィよりいいから」
ざわりとシュトラールのモノを締め付ける。
ああ、と仄暗い悦びで一気に射精しそうになるのを堪えて身震いした。
「ルーチェ、ごめんね。今まで一回で終わって。私としてはルーチェの身体を労って大事に大事にしてただ気持ち良さを味わってもらいたかったんだけどね」
ぐっぐっと奥深く差し込み、中に入っている自身の形を確かめるようにお腹を擦る。
「ルーチェに愛を伝えるためにはそれじゃ足りないよね。何度も何度も求めないと、私の愛はそういうのだと、ルーチェは……リリィの時に知ってしまったんだよね」
「……っ!?」
再び逃さないとばかりに締め付けられ、シュトラールは確信した。
ルーチェは自身で気付いてはいないが、リリィの名を出すだけでシュトラールに執着するのだと。
絡み付いて離したくないとばかりに締め付ける。
屈辱に顔を歪め、睨んで来るがそれがシュトラールを愛していると言っているようでもっと歪ませたかった。憎しみでも強い思いを抱けば、シアンに向く気持ちは自分に向くだろうという考えもあった。
けれどこれは諸刃の剣で加減が難しい。
だから散々傷付けて、その後は分からせる為に何度でもドロドロに溶けるくらい愛そう。
ルーチェが気持ちの上ではシアンを愛しても、気付かぬ性癖を満たせるのは自分だけだとその思いは歪んでいた。
「勿体なかったな。ルーチェとアカデミーの特別室で愛し合えば良かった」
「ふ……ぅあ……」
「今からでも許可を取ればできるかな。ふふっ、王太子夫妻がお忍びでやって来てセックスすると知ったら生徒たちはどんな反応を示すかな」
きゅんきゅんとお腹の奥が疼いていく。まるで期待しているかのようで情けなさにルーチェは涙を流した。対してシュトラールはルーチェの感情を揺さぶれたと歓喜して夢中で腰を振った。
「ああ、勿論、図書室へ行くあの道にある四阿でもしようね」
「や……いや……」
「思い出は上書きしないとね。沢山作ろうね」
王太子夫妻がアカデミーで淫らな行為をするなど、とても許されたものではない。
そんなバカげた事に付き合うつもりは無い。
早く終わって子種だけを出せばいいのにと思うルーチェだがシュトラールの言葉に奥が疼いて、それが自分で許せなかった。
「ルーチェ、これからは沢山きみに愛を注ぐね。シアンのなんか溢れるくらいに、ね」
「はあっ! ああっ! ぅあっあっ、や……ふぅううんっ」
激しくしていた腰の動きを一番奥で止め、シュトラールは子種を放った。根付くように執拗に捏ね、どくどくと奥へと押しやる。
ルーチェは深く息を吸いながら終わった事に安堵していた。しかしシュトラールはそのまま抜かずに再び腰を動かし始めた。
「でん……か……? もう……」
「まだまだだよ。一回しかしてないだろう?
これじゃルーチェに愛が伝わってないよね?」
妖しく笑うシュトラールはルーチェを抱きかかえて抜けそうなところにずどんと落とした。
「き、ひゃあ……ああ……ぅ、あ……」
「ルーチェ、ほらちゃんと息をして」
ルーチェの頭を持ち自身に抱き寄せ、人工呼吸をするように口付ける。力の入らない腕をシュトラールの背に回すと下から突き上げるように動かした。
「ルーチェこの態勢好きだよね。今夜はいっぱいルーチェのイイトコロを見つけようね」
「あ……あ……や……め……」
「愛しているよ、ルーチェ。きみがいくらシアンを愛して抱かれても、私の妻としてちゃんと義務を果たしてね」
――そう、これは、義務。王太子妃としての務め。そう思わねばやってられなかった。
シュトラールはやはり義務でしか抱かない。
彼が愛しているのはリリィだけだとルーチェの心は冷えていく。
「ルーチェ、絶対に離さない。死んでも離さないからね」
それでもシュトラールの気持ちはどこにあるのか分からなくて、知りたくて、ルーチェは無意識に手を伸ばす。
「シュトラール……様……」
虚ろな瞳のまま、縋るようにシュトラールの背中に回した手に弱々しく力を込める。
たったそれだけ。
ルーチェとしては何かに掴まりたかっただけの行為がシュトラールの気持ちを満たしていく。
「ルーチェ……ねぇ、ルーチェ、愛している。愛しているんだ。私たちは夫婦としてこれから長い時間一緒にいるんだ。だから、いつか……」
「や……シア……ン……」
ルーチェは寝室の壁に手を伸ばす。まるでシュトラールを素通りしてここにいない男を求めるように。
快楽で溶け切ってもルーチェが求めるのはシアンだった。
「いやだ……いやだ、いやだ、いやだ、ねえ、ルーチェ、私を見てくれ……」
「ひあっ、ああ……あ、あ……」
シュトラールの動きに合わせてルーチェも踊る。
二人で交わり求め合っているのに重ならない。
一瞬満たされてもすぐに渇いていく。
それでも夫婦だ。
シュトラールの唯一はルーチェだ。
けれど、ルーチェの唯一はシュトラールではない。上書きしてもすぐにまた上書きされる。
果てのない欲求はシュトラールの心を蝕んでいく。
ルーチェの夫は自分だけだ。
そう思わないともう自身を保てない。
このまま二人で一つになってドロドロに混ざり合えたらいいのに。
叶わぬ夢ばかりが浮かんでは消えた。
「ルーチェ、いつか死ぬときは、きみと一緒がいいな……」
ぽつりと呟いたシュトラールに、ルーチェは力無く凭れかかって溶けた思考の中で否定できない事に戸惑っていた。
久しぶりの夫婦の交わりはシュトラールが離さず、この日から寝室はおろか執務室まで一緒にしてしまった。
ルーチェの姿が見えないと手が震え執務にならないからとのトラウの訴えからだった。
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