【完結】あなたの愛を知ってしまった【R18】

凛蓮月@騎士の夫〜発売中です

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41.交わらない思い

 
 片時も王太子妃を離さない王太子の話は社交界で瞬く間に拡がり、間もなく妃が第二子を懐妊したことで誰もが国の安寧を祝福した。

 王太子がアカデミーに通っている間に浮気していた事は人々の記憶の片隅に追いやられ、過去にあった事は水に流して今が良ければいいではないか、と今では笑い話となっている。

 傍から見れば幸せそうな夫婦だが、ルーチェの気持ちは重苦しい。
 アカデミーに通っている間に溺愛されていたならばそれは真実になっただろう。
 だが、過去にされた事をルーチェは忘れられない。
 今が良くても付けられた傷はその場所や言葉で生々しく蘇る。
 更にシュトラールはわざと思い出させるように閨の場で言うから屈辱は増すばかり。
 苦しみばかりを与えるかと思えばドロドロに甘やかす、時折見せる誠実な態度が上手く彼を突き放せない。
 シュトラールは結局、側室も愛妾も娶っていない。添い寝係を呼んだ事も、勿論一夜限りなど一度も無い。

 結婚後にルーチェ以外を抱いたのはリリィがいた時だけで、それ以外はルーチェだけを妻としている。それもまた、腹立たしい。
 悪戯に過去を刳り返しては傷を塞いで、ルーチェはもう自分の気持ちに自信が持てなくなっている。
 愛するのはシアンのはずだ。
 甘やかして欲しいものをくれる彼の愛がルーチェの望むものだ。
 シアンといる時は穏やかに過ごせ、セックスも全てが満たされる。
 望めば何度でもしてくれるし触れ合いたい、と思うのもシアンだ。

 けれど、シュトラールからの歪な愛も振り切れない。
 傷付けられて侮辱されて苦しいのに拒めない。
 どうにかして屈服してやりたいと思い結局翻弄されているようで苛立ちが募る。

 何もかも思い通りにいかなくて、悔しくてムキになって――結局抜け出せない沼に嵌っているようだった。

 だがルーチェは諦めていない。
 この先何十年とある時間。今まで通り私的な時間はシアンといればいい。
 ルーチェの姿が見えないと執務に手がつかなくなるシュトラールのせいで削られてはいるが、それでもシアンとの時間は作っていた。


 一方のシュトラールはルーチェが自分を振り切れないのに味を占めたのか逃げようとするルーチェを囲い込む事にした。
 この先を何十年と夫婦をやっていくのだ。
 今は愛されていなくてもじっくり分からせていけばいい、と長期戦でいくことにした。
 いくらシアンと愛し合おうが所詮実を結ばぬ間柄。
 自分は正式な夫なのだから堂々としていればいい、と開き直った。
 もうルーチェへの気持ちが愛なのか憎しみなのか自分でも分からない。
 ただ、ルーチェが自分に強い感情を向けてくれるなら何でもいいと思っている。

 今は第二子懐妊中だからルーチェはシアンと睦みあう事はしないだろう。
 ルーチェの弁えている性格をシュトラールは信頼していた。
 シュトラールからの求めも義務を果たしたからと応じていないが毎晩抱き込むようにして眠るのはそうしないとシュトラールが眠れないから。
 眠れないと執務も捗らず、周りに迷惑となるからだと言われればルーチェも渋々応じるしかない。

 こうしてシュトラールは徐々に懐柔していき、第二子を出産した後、医師の許可を得たその日から閨を再開した。

「ルーチェのお腹空っぽになったからまた埋めないとね」

 夫の異常な行動に血の気が引く思いだったが逃げたくても逃げられず、ルーチェは囚われた。

 だがシュトラールは気付いていない。
 子を設ければ設けただけルーチェの中のシュトラールの優先順位は下がり、ルーチェの私的な時間はシュトラールのものにはならない事を。

 子を設けてもルーチェの中ではそれは義務でしかなく、シュトラールへの愛には繋がらない事を。

 いくら身体で繋ぎ止めたとて愛は永遠に得られない事に気付いても気付かなくても、ルーチェの愛は遠くへ行くばかり。
 愛と憎しみを越えたものはもう既に諦めと惰性だった。

 それでもシュトラールはルーチェを求める事を諦めない。
 苦しみも悲しみも憎しみも全て与えて与えられたい。
 穏やかさを得られないならルーチェの負の感情を向けられたい。
 そうする事でしか愛を感じられないが、逆に言えば負の感情は全てシュトラールに行くのだ。
 強くて醜くて痛くて重苦しい、ルーチェの感情を愛に変換してシュトラールは受け止める。

 歪んでしか愛し合えない事にいつしか幸せを見い出せる。
 長い時間をかけてゆっくりと、憎まれて愛されてじわじわと蝕んでいく。

 二人の邪魔になるものは尽く排除していった。
 側室の子らはみな臣籍降下させ、遠くの領地へ封鎖した。

 国政は大臣たちを中心として、オスクロル公爵を利用したりされたりと上手く回しているから問題無い。
 王妃の気持ちが離れて腑抜けた父親を反面教師として立ち回り、ルフトの立太子と共に国王として即位した。
 それと同時にルーチェも王妃となり、そばには常にシアンの姿があった。
 それでもルーチェの夫は自分だけだと言い聞かせ、公務の時は片時も離さなかった。

「ルーチェ、愛しているよ」

 光を失った王は、過去に自分で壊した愛を彷徨いながら求め続ける。
 そばにいるのに遠くて恋しい。
 報われる事のない思いを抱きながら。

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