死に戻った私は、冤罪で殺された娘の幸せだけを求めます

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第一章/時を戻った私

14.ユリアーナの望む夫婦像


 一週間が経過して、アルビーナ様とエッカルト様が電撃離婚したと社交界で噂になった。

 帰り際、私が忠告した執事が、アルビーナ様の食事に何か仕込まれているのに気付き、アルビーナ様の実家のハイツマン伯爵家に連絡をしたらしい。
 力関係で言えばボルク伯爵家よりハイツマン伯爵家の方が上だ。
 連絡を受けたハイツマン伯爵が娘の様子を見に来たら、出迎えたのはティアナだった。
 それに不快感を顕にしたハイツマン伯爵がアルビーナ様の部屋に行き、娘の惨状を見て大激怒。

 言い訳をするエッカルト様を薙ぎ倒して、実家に連れ帰ったらしい。
 デニスも連れ帰りたかったけれど、ボルク伯爵家の跡取りなのでその場で判断はできず、今のところボルク伯爵家にいるらしい。
 彼はクラーラに心酔していたからどうなるかは分からない。
 私としてはティアナとクラーラという悪環境に置くよりは、アルビーナ様と暮らしてもらったほうがマシだと思うけれど、貴族の後継者問題はいつの時代も頭を悩ませる。
 母としては子と引き離されるのは身が引き裂かれるほど辛いだろう。
 なんとかデニスをアルビーナ様のもとへやれないか、そのために公爵家の権力を使うか、と思案する。
 アルビーナ様が大丈夫であれば、エッカルト様はティアナを後妻として迎えればいい。
 クラーラを養子として迎えるつもりならばデニスをアルビーナ様に渡しても問題ないように思えた。

 後継者問題といえば、六大公爵家は血筋を絶やしてはいけない割に王子が生まれると婚約者候補となりやすい。
 公爵家のみで候補を絞ると王家の血が濃くなりすぎる為、伯爵家まで候補にしているのだ。

「ねえ、ユリアーナ」
「はい、お母さま」
「あなたは……どんな結婚がしたい?」

 私はつい先日届いた招待状を見ながらユリアーナに聞いた。
 最近六歳になったばかりのユリアーナは、結婚と聞かれてもイメージなんか湧かないだろう。
 もし湧いたとしても、両親は冷えきった仲で、夫は家に寄り付かず、妻は部屋に篭りきりだった。
 悪いイメージしか見せていない。

「私は……お互いに思いやり、尊重しあえる夫婦になりたいです」

 大人びた答えに胸が痛む。
 温かな家庭を知らないからこそ望む形。
 王子──いえ、王太子相手はそれが望めないだろう。
 クラーラを排除しても、王太子は一夫多妻が認められているから。
 ユリアーナと想い合い、結婚の約束をしたとて恋に狂い愛に狂えば合法的に他の女性を娶ることができる。
 貴族が秘密裏に囲うのとは訳が違う。
 側妃となり、権力さえ持てるのだ。

 うん、やはり王太子殿下との婚約は阻止しなければ。

「ユリアーナ、今度ラルス殿下の友人を広く募集するお茶会が催されるの。貴族の義務として行かなければならないのだけれど」

 私はひと息ついてお茶を口に含む。

「そこでユリアーナも友人を作るといいと思うわ。いいな、と思える方がいたら、男女問わず交流を深めてみて」

 ユリアーナはごくりと息を呑み、背筋をぴっと伸ばした。
 前回ユリアーナの味方になる子はいなかった。
 全てクラーラに奪われたからだ。
 ラルス殿下の寵愛がクラーラにいっていた為、ユリアーナに味方する旨味が無かった。
 だから、ずっと孤独だった。

「わ、私にできるでしょうか……」
「大丈夫よ。あなたはとても優しくて穏やかな子よ。いつものユリアーナらしくいれば、きっとあなたを好きになってくれる子がいるわ」

 どちらかと言えば引っ込み思案で奥ゆかしい気質の子だ。
 王太子妃など魔境に入らず、貴族夫人として夫と支え合い尊重しあえる関係になれたらいい。

「あ……でも、後継者より、次男、三男の方がいいですよね……?」

 ユリアーナの思いがけない言葉に目を瞬かせた。

「どうしてそう思うの?」
「私は、ブランシュ公爵家を……継ぐのですよね? その……弟や妹ができる可能性が無いのでしたら……」

 ひく、と口の端が引き攣った。
 そ、それはどういうアレかしら。ど、どう答えたらいいかしら?

「え、と、その……」
「大丈夫です、お母さま。私は今のままで構わないのです。ブランシュ公爵家は私にお任せくださいね」

 お、……重い。
 六歳になったばかりの少女に、公爵家の後継者としての役目を押し付けているようで親として情けなくなってきた。
 前回はカールハインツが婚約を取り付けてきた。
 クラーラという後継者がいたからだ。
 今回はクラーラは公爵家に入らない。
 私とカールハインツの間に新たに子を儲けるつもりも全く無い。
 だからといってユリアーナの選択肢を狭めたくは無い。

「ユリアーナ、気にしなくていいのよ。あなたが選ぶのが後継者でも構わないわ」
「でも……」
「あなたの弟や妹がいなくても、ブランシュ公爵家は養子を迎えればいいことだもの。
 幸い分家の方々は沢山いらっしゃるわ」

 腑に落ちない表情のユリアーナだけれど、本来子どもが気にすることではない。
 直系がいいと言うならば、最悪、ボルク伯爵家に交渉し、離婚してからクラーラを引き取ればいい。

「ユリアーナ、あなたはあなたの思うように交流してほしいと思っているわ。だから、遠慮しないでね」
「分かりました。……ありがとうございます、お母さま」
「そうと決まれば明日にでも仕立て屋を呼んでドレスを仕立てていただきましょう。
 ユリアーナをうんと可愛く着飾らなくちゃ」
「え……あ、あの、私、普通でいいです……」

 恥ずかしそうにするユリアーナに愛しさが込み上げる。
 きっとユリアーナの魅力に気付いてくれる令嬢令息は沢山いるだろう。
 味方は多いにこしたことはない。

「どんな色にする?」
「え、えと……その……お空みたいな青色とか……ひまわりみたいな暖かい色が……」

 恥ずかしがってはいるけれど、女の子らしくドレスを作ることに異論は無いらしい。
 今まで作ってやれなかった。だからとっておきのドレスを作ってあげなくちゃね。

 私とユリアーナがドレスに思いを馳せていた頃、扉の向こうで誰かが立ち去って行った。

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