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第二章/ユリアーナの幸せ
20.子どもたちのお茶会
カールハインツからの許可が出たので、ユリアーナは早速ノワール公爵家とベルンシュタイン伯爵家に招待状を送った。
送る前に内容の添削をお願いされたので見てみれば、六歳とは思えないくらい丁寧に書かれていた。
「ユリアーナは字も上手ね。きっとエルナ様とシュバルツ様も喜ばれるわ」
感想を伝えるとえへへ、と照れたように笑った。
とても可愛らしい。
お気に入りの便せんに、自らの文字で綴り、大切そうに封蝋をする。それを新たな執事のサイラスに預けて出してもらった。
今回は初めて、かつまだ幼い子どもたちなので大人も目の届く範囲にいたほうがいいだろう、ということで、親も招待することになった。
そのため私もユリアーナとは別に、二人のご両親へ正式な招待状を出した。
ベルンシュタイン伯爵家とは馴染みがないが、闇の公爵家であるヴァイス・ノワール様とはお会いするのは久しぶりになる。彼は私たち世代よりも年上で、頼れるお兄さんのような存在だった。
「ヴァイス様とは、いつぶりかしら」
結婚式のときには呼んだと思うから、それ以来だとすると約七年ぶりになるのか。
子どもの頃は何も考えずに子どもたちで無邪気に戯れていた。
ヴァイス様は年上という事もあって少し大人びていて、小さな子が泣いていたらよく慰めてくれたっけ。私も何度もお世話になったものだ。
年を重ね、婚約の問題が出てくると、周りを気遣い始め、男女である私たちは自然と疎遠になった。
やがて私はカールハインツと婚約し、彼を意識し始めると彼だけしか目に入らなくなった。
そうすると、段々と年の離れた、しかも異性のヴァイス様とは殆ど会わなくなってしまった。
私たちより先に結婚したヴァイス様は、すぐに長男、次男と順調に後継者を儲けられた。
奥様との仲も良好だった。
だから前回の私は、彼に頼ろうとしなかった。
頼ってしまえば甘えてしまう。それに、交流も途絶えていたから、急に他の女から相談を持ち掛けられるなんて、奥様に申し訳ないと思った。
年長者の意見が聞けたなら、また違った結果もあったのだろうか。
『マリーはもう少しお淑やかにしないといけないよ』
──きっと、呆れたように笑ってくれただろうな。
ヴァイス様とは久しぶりにお会いするし、ベルンシュタイン伯爵夫妻とは初めてになるから一層気合を入れないとね。
そうして、私はユリアーナと相談しながらお茶会の準備を進めた。
「いらっしゃいませ。我がブランシュ公爵家へようこそいらっしゃいました」
ホスト役を買って出たユリアーナは、到着した二家族を出迎えるため前に出て挨拶をした。
相変わらずきれいなカーテシーだ。我が娘ながら素晴らしい。
「この度はご招待いただき、ありがとうございます」
まずノワール公爵令息シュバルツ様が丁寧に挨拶をする。
カラスの濡れ羽のような艶のある黒髪に赤眼という、まさに闇属性を表すような姿だけれど、持っている雰囲気は柔らかい。
整ったお顔立ちはどちらかと言えば父親に似ている。けれど彼の持つ空気は母親から譲り受けたものだろう。
「私も、今日という日を楽しみにしておりました」
続いてベルンシュタイン伯爵令嬢エルナ様がカーテシーをした。緊張しているせいか、少しぎこちないが、可愛さはユリアーナに負けず劣らずだ。二人が並んだらとても絵になりそう。
後ろにいらっしゃる伯爵夫妻は、ハラハラしながら娘を見守っている。エルナ様が顔を上げると、どこかホッとした表情になった。
私とは違って娘の成長を見守る、よき親といった感じだ。
挨拶が済んだところで、ユリアーナは二人を応接間に招待した。
そこで色々なお話をするのだと、自らが張り切って準備した場所だ。
「わあ、素敵な飾り付けですね」
「ありがとうございます。お母様とご相談して決めましたの」
「明るくていいね。ところで、よそよそしいから敬語はやめようって言ってたのに」
「「あっ」」
シュバルツ様がくすくすと笑うと、女の子二人は口元を押さえて目を合わせた。
どうしても淑女教育の名残が出てしまうのだろう。それは二人が真面目に取り組んでいる証でもある。
「シュバルツ様、レディの二人は丁寧な言葉遣いを学習している最中ですわ。徐々に慣れていくでしょうから、紳士として気長にお待ちくださいね」
シュバルツ様は目を瞬かせ、小さく見開いた。
「そうでしたか。二人は真面目に取り組んでいるのですね。では、僕も見習わなくてはいけませんね」
胸に手を当てて頭を下げた。それを見た女の子二人は、覚えたてのカーテシーを披露する。
態勢を整えて目が合うと、三人で思わず笑ってしまった。
あああああああああああ!
かわ……かわいい、可愛い可愛いすぎるわ、なにこの三人萌える、ヤバイ、あああありがとうございます!
こんな可愛い時期を見逃してさっさと死んだ前回の私は本当にバカだ。バカすぎる。
カールハインツなんかほっといて、ユリアーナを見ていればよかったのに。
「お母さま、二人をサロンにご案内してもいいかしら?」
「えっ? え、ええ、もちろんよ」
「二人とも、行きましょう」
ユリアーナは二人の手を引きサロンへと足早に向かった。
光に導かれる様はまるであのときのようで胸騒ぎがする。
「公爵夫人」
低く穏やかな声にハッと我にかえる。
声をかけてきたのは、ヴァイス様だった。
気づけば恐縮しきりのベルンシュタイン伯爵夫妻が縮こまってしまっている。
いけないわ。招待した側として、きちんとおもてなしをしなければ。
「失礼いたしました。ノワール公爵様、ベルンシュタイン伯爵夫妻様、ようこそいらっしゃいました。サロンにお茶をご用意いたしておりますので、ご案内しますね」
そばに控えていた使用人に目配せをすると、「こちらへ」とお客様を案内してもらった。
「お手をどうぞ、レディ」
ヴァイス様に腕を差し出されたので、見上げる。
覚えている頃よりも年を重ねて、オトナの色気のようなものが垣間見えた。
「今日は奥様はいらっしゃらなかったのですね」
そう言うと、ベルンシュタイン伯爵夫妻様がピキーンと固まり、ヴァイス様は目を丸くして苦笑した。
「きみは最近社交界に出られなかったから知らないかな。奥さんはね、領地で静養中なんだ」
「ご病気でしたの? 存じ上げずすみません」
「気にしないで。さ、行こうか。私達が行かないとベルンシュタイン伯爵夫妻が恐縮しきりで倒れそうだ」
見てみれば伯爵は額の汗をハンカチで拭い、奥様は俯いたまま口元の笑みは引きつっている。
二公爵家が揃えば確かに気まずいよね。
ノワール公爵夫人のことを知らなかったのもマイナスだ。
その後、改めて親同士の自己紹介をしあい、ベルンシュタイン伯爵夫妻の緊張をほぐすことに成功した。
子どもたち三人は二人と一人に分かれても、いつの間にか三人で話していたり、お互いの話に耳を傾けたりしてとても楽しそうにしていた。
前回、ユリアーナはこうして友人同士で楽しめていたのだろうか。
カールハインツはずっと無関心だったし、使用人はマルテ以外接触していない気がする。
──最近、前回の生を思い出そうとしても記憶が曖昧なときがある。
公爵家令嬢のユリアーナがマルテ以外の使用人と接しないなんてあるはずがない、と思うが、ロッテの策略で絶対にないともいえない。
記憶があるうちに、何かに書き出しておいた方がいいのかも。
ユリアーナを幸せに導くための道標は、あった方がいいものね。
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