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Chapter.2 ラットヴィル編

Episode.15 伝わらなくても

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 「コニー、探したぞ」
立ち直った俺は泣いているコニーに近付き、そう声をかける。

「…………」
コニーは俺の言葉には答えず、うつむいたまま顔を此方こちらに向けようとはしない。

「ごめんな、ブレットさんを探すって話、叶えられそうにない」
そのままのコニーに俺は謝罪し、ブレットさんを探すのは無理であると伝える。

「……何でですか?」
コニーは当然の返答を俺にする。

「それは、言えない」

「言えないって、どうして?」
答えられず、言いよどむ俺へコニーは更に尋ねる。

「…………」

「ロストさんはお父さんについて何か知ったんですか?」
もはや黙るしかない俺にコニーは追及を続ける。

「答えて下さいよ」

「……ごめん」
最初から分かっていた事だが、ブレットさんの事を聞かれたら俺は謝るしかない。

「謝って欲しい訳じゃない、お父さんの居場所が知りたいんです」

「……ごめん、ブレットさんの居場所は教えられない」
そんな彼女に伝えるのには残酷すぎる言葉を俺は口にする。

「……っ!」
その言葉にコニーはまた目に涙を浮かべる。

「ただ言えるのは……」
でも、伝えたい事があるから言わなければならない。

「ブレットさんはコニーの事を本当に愛していたと思う」
気休めだとしても、嫌われると分かっていたとしても……

「いや、今でも愛しているはずだ、コニーをずっと見守っているんだよ」
それが昨日、俺が出した答えのつぐないであると思うから……

「……そんなの、そんなの意味ありません」
コニーはそう告げると立ち上がり、俺を睨みつける。

「私は側にいて欲しいんです、目に見えない想いなんていりません」

「それは……」
彼女の言う事はもっともだ、俺も同じ立場なら似た様な事を言うだろう。

「……もういいです、ロストさんを信じた私が馬鹿でした」

「…………」
その言葉に俺は何も言う事が出来なかった。
何故なら何かを言う資格はない、そう思ったからだ。

「……帰ります」
コニーはもう話す事はないらしく、俺を無視して横を通り過ぎ立ち去ろうとする。

ただ去り際にコニーは言った。
ロストさんの嘘つき、と。

あの時、彼女が見せてくれた笑顔はもうない。

「……ごめん」
俺が奪ってしまったのだ。

その後、俺達はダリアさんに挨拶を済ませて村を発つ事になった。

「ロストさん、コニーがすみませんでした」
挨拶をした時にダリアさんが申し訳なさそうに頭を下げた。

「いえ、俺こそ娘さんを傷付けてしまってすみませんでした」
頭を下げるダリアを見て居たたまれなくなり、責任を感じていた俺も頭を下げる。

「いえ、ロストさんは娘の為に言ってくれたんですよね? なら、悪くありません」
ダリアさんは優しいのでそう言ってくれるが、俺は自分を責めるのを止められそうにない。

「何時か娘にも真実を話そうと思います、時間はかかるかもしれませんが……」
その時が何時になるかは分からない、ただコニーが傷付かずに済みます様にと願わずにはいられなかった。

Episode.15 伝わらなくても

ダリアさんと別れの挨拶を済ませた後、俺達は村を出発した。

「…………」
帰る道中、来た時よりも足が重く歩く速度が遅くなってしまう。

「ロスト、ちょっと聞いてるの?」

「あ、ああ、ごめん」
俺は村での一件が忘れられず、上の空でフィオの言葉が頭に入ってこない。

「少し、休むかのう」
ルドルフさんはそんな俺を気遣い、休息をとる様に勧めてくれる。

「すみません、ありがとうございます」
俺はその厚意に甘え、座れそうな岩を見つけて腰を落ち着かせる。

「世の中には救える命と救えない命がある」
同じ様に腰掛けたルドルフさんが俺にそう語りかけてくる。

「今回はそれが後者だった、それだけの事じゃ」
割り切った考えを口にするものの、ルドルフさんの顔は悔しそうな表情をしていた。

「そう、ですね」

「あんたが気にしたってしょうがないわ」
フィオもルドルフさんと似た様な表情を浮かべている、俺よりこういった事に慣れた二人でもやりきれない想いはある様だ。

「ルドルフさん、俺はどうすれば良かったんですか?」
ルドルフさんにそう尋ねながら、俺はコニーに最後言われた言葉を思い出していた。

嘘つき、その言葉が俺に重くのしかかる。

「それは誰にも分からん」
ルドルフさんは暫く考え込んだ後、俺の疑問に返答する。

ただそれは俺の望む答えではなかった。

でも、自分の中で導き出した答えもルドルフさんと同じにしか行き着かない。

正解なんて誰にも分からないのだ。

「じゃが、お主の気持ちはあの子に伝わったはずじゃ」
今は理解できんかもしれんが……ルドルフさんはそう続ける。

その言葉を聞いて俺は少しだけ気分が晴れた気がした。

「ほら、まだまだ屋敷まで遠いんだから気落ちしている余裕なんてないわよ?」
少し回復した俺にフィオは何時もの調子で話しかけてくる。

「はいはい、分かってますよ」
彼女なりの励ましに感謝しつつ、充分に休んだ俺は立ち上がった。

「ほっほっ、その意気じゃ」
ルドルフさんも立ち上がり、俺達二人のやり取りを楽しそうに眺めている。

こうして、俺の初めての旅は終了した。

その後、何度かルドルフさんに仕事への同行を勧められたが全部断ってしまった。

今回の件で俺は自分の無力さを実感したし、ルドルフさんの仕事の邪魔にもなると思ったからだ。

非力な俺は屋敷での生活が一番性に合っているのかもしれない。

しかし、その数か月後にとある事件が起きて生活が一変してしまう事に現時点での俺は知るよしもなかった。

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