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Chapter.3 ウィンミルトン編

Episode.20 作戦開始

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 あの後、俺とフィオはクリフさんに寝床を提供してもらって一晩を過ごす事が出来た。

そして、翌日の朝――

「今日は三人と合流次第、盗賊共の住処すみかを暴きに行くわよ?」
クリフさんに礼を言い、家を後にするとフィオが早速今日の作戦について話してくる。

「ああ」
俺も彼女の意見には賛成なので従う。

その後、三人との待ち合わせ場所である町の入口で待機し、彼らが来るのを二人で待った。

「二人共、おはよう」
最初に来たのはロナだった、何でも猟師は朝早く狩りに出かける事もあるので早起きは得意らしい。

「お待たせ、遅くなってすまない」
次に来たのはエリック、彼の父親は鍛冶師かじしをしているらしく、朝はその手伝いをするので少し遅れた様だ。

そして、最後はトールなのだが……

「悪い、寝坊した」
約束から1時間が過ぎてようやく姿を見せた。

「遅い、罰としてしばらく一人で盗賊が来ないか見張ってなさい」
そんな彼をフィオが許すはずもなく、予定では全員で盗賊が来るのを見張るはずだったが彼一人にやらせる事にした様だ。

「うへぇ、まじかよ」
トールは嫌そうな顔をしたが、フィオには逆らえないと思ったらしく黙って従う。

「あいつが見張っている間、あたし達は休憩してましょう」
フィオのその発言により、俺達はそれぞれ思い思いに時間を過ごした。

「来た! あいつら来たぞ!」
暫くした後、トールの掛け声で盗賊団が現れた事を知る。

観察すると昨日見た赤ギザ、緑デブ、青ひげの面々だった。

今日も同じメンバーなのでフィオの人数が少ないという予想、あながち間違いではないかもしれない。

尾行びこうが目的なので様子を伺っていると、姿を見せたクリフさんに脅迫めいた事を口にして去って行く姿が確認できた。

「追うわよ?」

「分かった」
俺達は予定通り奴らを尾行し、洞穴ほらあなの中に消えて行くのを見届ける。

何となく察してはいたが、まともな所を住処にはしていない様だ。

「くそっ、あんな所じゃ中の確認は難しいぞ」
洞穴なので奴らの正確な人数までは把握はあく出来なかったが、住処の特定には成功した。

「大丈夫、あたしなら気付かれずに中を確認できるわ」
フィオはそう言うとひとっ飛びで洞穴の中に潜入し、数分後に戻ってきた。

「確認してきたわ、数は8……予想よりは多いわね」
彼女のその報告を聞き、俺達は目的か達成されたので町へと帰還する。

戻ると、俺達は早速盗賊退治の作戦会議を行った。

会議の議題はどうすればリスクを減らした戦いが出来るか、である。

皆、それぞれ案を出して良いか悪いか議論する。

フィオとトールは正面から突撃して武器と魔法でぶっ飛ばすという脳筋のうきんみたいな案を出し、エリックは寝込みを奇襲きしゅうして倒すという作戦を立案した。

ただ何方どちらも人数が多い為、攻撃を避けたり寝ていない可能性があったりでイレギュラーな事態が発生するというリスクがある。

ロナも罠を設置して盗賊団をおびき寄せて戦う案を挙げたが、二つの案と同じで罠にかからない奴が出てくる可能性があるので決して良い作戦とは言えない。

「ロスト、あんたは何か良い案はないの?」
フィオは行き詰まった状況を何とかする為に、何故か素人の俺に意見を求めた。

「え、俺?」

「そう、逆に素人のあんたなら何か面白い案が浮かんだりしない?」
彼女にそう言われ、俺は必死に何かないか考える。

「そうだなー……もういっそ戦うのは止めて、臭いものにはふたじゃないけど洞穴ごとふさいじゃうという作戦はどうだ?」
俺は却下されるの前提で馬鹿な作戦を口にする。

「…………」

「ごめん、ネタだから忘れてくれ」
その作戦に皆が黙ってしまい、俺は慌てて謝罪する。

「いえ、それ採用」

「……へ?」
フィオの返答に俺は間抜けな声を上げてしまった。

Episode.20 作戦開始

翌日、昨日決めた作戦を実行に移す為に俺とロナは皆と別れて町の入口で盗賊の連中が現れるのを待っていた。

俺とロナの背後にはアデラさんに協力してもらい、頂いた酒樽さかだるが3つ置かれている。

この酒樽は、今回の作戦において重要な役割をになっているので大切にしなければならない。

「ロスト、緊張してる?」

「いや、一昨日よりは平気」
盗賊の連中が来るまでは暇なのでロナと適当に談笑しながら時間を潰す。

「あ? 今日はあのダサいおっさんじゃなくてお前達か」
2時間後、ようやく例の三人が姿を見せた。

「どうも、一昨日はすみませんでした」
俺は三人の機嫌を損ねない様に笑顔で応対する。

「お前ら、また痛い目見たいのか?」
珍しく緑デブが喋る、無口な奴かと思ったけど喋れるらしい。

「違う違う、今日は一昨日のお詫びにプレゼントを用意したんだよ」
ロナは俺に続き、昨日考えてきた通りの言葉を口にする。

「プレゼントぉ?」

「はい、皆さんに喜んで頂ける様にお酒を用意しました」
疑いの目を向ける赤ギザに精一杯の笑顔で答え、背後にある酒樽を見せた。

「酒ぇ! 久しぶりの酒ぇ!」
緑デブが興奮し、俺達を退けて酒樽を抱きかかえる様にしがみついている。

「なんだ、ようやく俺達に従う気になったかぁ?」
赤ギザも機嫌が良くなったのか、嬉しそうに酒樽をながめている。

「酒はいいが、金はどうした?」
しかし、青髭は他の奴よりは冷静で金の要求も忘れない。

「お金は準備に時間がかかるからまだだよ」
ただ予想は出来ていたのでロナが上手く流してくれた。

「ちっ」

「兄貴、今日のところはこれでいいじゃないですか」
金がない事に腹を立てている青髭を赤ギザがなだめ、緑デブが酒樽を担いで満足そうにしている。

「早く帰って酒飲みたいっ!」

「お前らはしょーがねぇな」
青髭は緑デブに急かされ、仕方なく帰る事に決めた様だ。

俺達は三人が立ち去って行くのを見送り、次の作戦に向けて行動を開始した。
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