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第1章 出会い
5話 魔女について
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俺は工房の食品棚に残っていたカップ麺を調理し、彼に振る舞う。
「ほら、どうぞ」
「なんだこの食べ物は」
羽織っていたドロドロになったマントとジャケットを脱いで、先程よりは少しラフな格好になった美青年は、差し出された食べ物を見ると顔を引き攣らせた。
流石にカップ麺を食べる文化なんてないよな。
彼の反応でさらに自分がこの世界で異質な人間であることが強調されていく。
郷に入れば郷に従えとはいうが、目の前にいる男を餓死させる訳には行かない。なんとしてもこれを食べさせないと。
今や世界の食べ物となっているカップ麺、コレならなんとか受け入れられるのではないか。
そう思ったのだが、彼の反応を見るに難しそうだ。
ここは正直に話して信頼を得ることに賭けよう。
「実は俺、異世界から来たんだけど、これはその世界のソウルフード、的なものでさ」
「異世界?」
彼はその美しい瞳を丸くさせて俺の言葉を復唱した。
「そう、別世界からこの工房ごと転移してきたんだよ。信じられないかもしれないけど」
彼からしたら突拍子もない話だろうが、俺を信じてもらうには、まず俺が真実を話さないと。
それが、どんなに嘘くさい真実であったとしても。
「嘘つけ、そんなわけあるか!」と怒鳴られる覚悟だったが、俺の言葉を聞いた彼の様子は予想に反して冷静だった。
「……なるほどな。なら、それを仕組んだのが魔女の可能性が高いな」
信じてくれた。それに、有益な情報までも教えてくれた。
俺はこれを機に、自分の分のカップ麺を啜りながら、疑問に思っていたことをぶつけてみる。
「その、ずっと言ってる魔女って、一体何なんだ?」
「本当に何も知らないんだな。魔女は禁忌の魔法を使う魔法使いのことだ」
「禁忌の魔法?」
「お前が巻き込まれた召喚術なんかもその例だ。他にも呪いや洗脳術、死体操術、法律で禁止されている強大な魔法を操り、人を害し、残虐非道の限りを尽くす魔法使いの総称だ」
好きなことをとことんやれるこの環境にとても満足していたが、俺はとんでもないことに巻き込まれているのかもしれない。
そんな現実に震えながら、どんどん情報を深ぼっていく。
「なんで魔『女』って女の人に限定するんだ?」
「昔、魔女に誘惑されて一人の王が国を滅ぼしたんだ。
そこから、悪い魔法使い=魔女という認識が広まった、と言われている」
「へぇ」
相槌を打って、カップ麺の麺をすくう。
俺が麺を啜る度に怪訝な顔をするものだから、フォークにそれを巻き付けて音を立てずに食べるようにしてみた。
彼は1度息を吐いて話を続ける。
「その魔女は絹のような黒髪に、1枚の布を巻き付けたような見慣れない衣を纏っていたと語られている。ここから出る術は分からないが、森の外に出る時は気を付けろ」
彼は俺の髪を指さしてそう注意喚起をする。俺の黒髪も偏見の対象ってことか。
初めて顔を合わせた時は暗闇だったから見えていなかったけれど、工房に入ってからも頑なに魔女だと言い張っていたのは、森にいる作務衣姿のヤツとかいう魔女の要素に加えて黒髪っていうファクターが追加されたからか。
彼の態度の理由が段々と紐解かれていく。
先程の言葉で引っかかったことをさらに尋ねる。
「出る術が分からないって言うのは……?」
「ここは昔から魔女が住まう森と言われて、一度入ってしまえば一生出られない迷路だ。禁忌の魔法を使うには誰にも邪魔されず、見つけられないところの方が都合がいい。だから、魔女が森全体に方向感覚を失う魔法をかけているんだ。そのせいでこの森に入った人間全員が消息不明になっているからこれは明白だ」
俺はそんな物騒な所にいたのか。
聞けば聞くほど、最初の俺に対する反応も当然のことだろうと思えてくる。
俺はガラスを作れたらそれでいいけれど、材料が不足したり、食糧が尽きたりすれば、この森から出られないのは相当まずそうだ。出る方法も考えておかないと。
出られる方法が俺も彼も分からないとなると、二人で生活していかなきゃならないことになる。
この世界のことを知れたり、人と話せたりするのは嬉しいが、ずっとはキツイというか、ガラスだけど向き合っていたいというか。
そんな懸念を胸に抱きつつ、俺は彼についての根本的な話が気になっていた。
「なんでアンタはこんなとこに迷い込んで……」
「……まあ、色々あったから、な」
「ふぅん」
バツが悪そうにあからさまにその宝石眼を逸らした様子を見て、俺はこれ以上深入りすることはなかった。
パッと話を切りかえて、別の切り口の問いかけをしてみる。
「アンタの言い様的には、人を傷つける禁忌以外の魔法もあるってことだよな?魔法は誰にでも使えるものなの?」
「いいや、一部の限られた者だけが魔力を持ち魔法が使える。大多数は魔力すら持たない普通の人間だ」
「なるほど。色々教えてくれてありがとう」
今これ以上、情報をもらえば頭がパンクすると思い、カップ麺がなくなるタイミングで、一旦話を区切った。
最後の一口を口に運び、ごくりと飲み込む。
そしてふと、彼の目の前に置いてある一口も減っていないカップ麺を見て言った。
「な、食わねぇの?」
「こ、こんな得体の知れない食べ物、食えるわけがないだろう」
俺のそんな問いに、彼はそのキリッとした眉を歪ませながら大きな声を出した。
「でも、食わないと死ぬぞ」
彼の気迫に怖じけずに、真面目な声音でそう言うと、彼は視線を右往左往させて、最後にやっと言葉を絞り出した。
「……分かった」
少し温くなったカップ麺を恐る恐る手に取って、フォークをカップの中に入れ、ぐるぐると混ぜて中身を確認する。
何か珍しいものを見つけたかのような驚いた顔で、フォークである具材を刺して俺に見せてきた。
「……これはなんだ?」
「エビ、だな」
「……そうか、小さいな」
そんな呟きの言葉でさえ、高貴さが滲み出ている。
俺の内心なんてお構いなしに、彼はからに新しい具材を探して尋ねてくる。
「これは?」
「卵。鶏のね」
「そうか、小さいな」
坊ちゃんだな!コイツ!
宝を探す子どものような、探究心溢れるキラキラ表情でさらに俺にフォークの先の具材の名を聞いてきた。
「じゃあこれは?」
「謎肉。何の肉なんだろ」
「謎!?お前っ!自分でもよく分からないものを俺の口に入れようとするな!」
この世の終わりみたいな顔でこちらに迫ってくる。
だが、やっぱりどんな表情をしてても綺麗だ。
俺は彼の前にあったカップ麺を横取って、謎肉と麺をフォークに巻きくるめて1口食べると、もうひと巻きして男の口に突っ込んだ。
「な、何をする?!」
「ほら、安心しろ。俺が毒味したから」
「……!」
数回の咀嚼の後、ゴクリという音とともに喉仏が動く。
そして、青空を閉じ込めた瞳を大きく見せて、ゆらゆらと揺らめかせる。
「美味いだろ?」
俺がニコリと微笑めば、その白く透き通った肌は少しだけ赤く染っていた。
「……悪くない」
「ほら、どうぞ」
「なんだこの食べ物は」
羽織っていたドロドロになったマントとジャケットを脱いで、先程よりは少しラフな格好になった美青年は、差し出された食べ物を見ると顔を引き攣らせた。
流石にカップ麺を食べる文化なんてないよな。
彼の反応でさらに自分がこの世界で異質な人間であることが強調されていく。
郷に入れば郷に従えとはいうが、目の前にいる男を餓死させる訳には行かない。なんとしてもこれを食べさせないと。
今や世界の食べ物となっているカップ麺、コレならなんとか受け入れられるのではないか。
そう思ったのだが、彼の反応を見るに難しそうだ。
ここは正直に話して信頼を得ることに賭けよう。
「実は俺、異世界から来たんだけど、これはその世界のソウルフード、的なものでさ」
「異世界?」
彼はその美しい瞳を丸くさせて俺の言葉を復唱した。
「そう、別世界からこの工房ごと転移してきたんだよ。信じられないかもしれないけど」
彼からしたら突拍子もない話だろうが、俺を信じてもらうには、まず俺が真実を話さないと。
それが、どんなに嘘くさい真実であったとしても。
「嘘つけ、そんなわけあるか!」と怒鳴られる覚悟だったが、俺の言葉を聞いた彼の様子は予想に反して冷静だった。
「……なるほどな。なら、それを仕組んだのが魔女の可能性が高いな」
信じてくれた。それに、有益な情報までも教えてくれた。
俺はこれを機に、自分の分のカップ麺を啜りながら、疑問に思っていたことをぶつけてみる。
「その、ずっと言ってる魔女って、一体何なんだ?」
「本当に何も知らないんだな。魔女は禁忌の魔法を使う魔法使いのことだ」
「禁忌の魔法?」
「お前が巻き込まれた召喚術なんかもその例だ。他にも呪いや洗脳術、死体操術、法律で禁止されている強大な魔法を操り、人を害し、残虐非道の限りを尽くす魔法使いの総称だ」
好きなことをとことんやれるこの環境にとても満足していたが、俺はとんでもないことに巻き込まれているのかもしれない。
そんな現実に震えながら、どんどん情報を深ぼっていく。
「なんで魔『女』って女の人に限定するんだ?」
「昔、魔女に誘惑されて一人の王が国を滅ぼしたんだ。
そこから、悪い魔法使い=魔女という認識が広まった、と言われている」
「へぇ」
相槌を打って、カップ麺の麺をすくう。
俺が麺を啜る度に怪訝な顔をするものだから、フォークにそれを巻き付けて音を立てずに食べるようにしてみた。
彼は1度息を吐いて話を続ける。
「その魔女は絹のような黒髪に、1枚の布を巻き付けたような見慣れない衣を纏っていたと語られている。ここから出る術は分からないが、森の外に出る時は気を付けろ」
彼は俺の髪を指さしてそう注意喚起をする。俺の黒髪も偏見の対象ってことか。
初めて顔を合わせた時は暗闇だったから見えていなかったけれど、工房に入ってからも頑なに魔女だと言い張っていたのは、森にいる作務衣姿のヤツとかいう魔女の要素に加えて黒髪っていうファクターが追加されたからか。
彼の態度の理由が段々と紐解かれていく。
先程の言葉で引っかかったことをさらに尋ねる。
「出る術が分からないって言うのは……?」
「ここは昔から魔女が住まう森と言われて、一度入ってしまえば一生出られない迷路だ。禁忌の魔法を使うには誰にも邪魔されず、見つけられないところの方が都合がいい。だから、魔女が森全体に方向感覚を失う魔法をかけているんだ。そのせいでこの森に入った人間全員が消息不明になっているからこれは明白だ」
俺はそんな物騒な所にいたのか。
聞けば聞くほど、最初の俺に対する反応も当然のことだろうと思えてくる。
俺はガラスを作れたらそれでいいけれど、材料が不足したり、食糧が尽きたりすれば、この森から出られないのは相当まずそうだ。出る方法も考えておかないと。
出られる方法が俺も彼も分からないとなると、二人で生活していかなきゃならないことになる。
この世界のことを知れたり、人と話せたりするのは嬉しいが、ずっとはキツイというか、ガラスだけど向き合っていたいというか。
そんな懸念を胸に抱きつつ、俺は彼についての根本的な話が気になっていた。
「なんでアンタはこんなとこに迷い込んで……」
「……まあ、色々あったから、な」
「ふぅん」
バツが悪そうにあからさまにその宝石眼を逸らした様子を見て、俺はこれ以上深入りすることはなかった。
パッと話を切りかえて、別の切り口の問いかけをしてみる。
「アンタの言い様的には、人を傷つける禁忌以外の魔法もあるってことだよな?魔法は誰にでも使えるものなの?」
「いいや、一部の限られた者だけが魔力を持ち魔法が使える。大多数は魔力すら持たない普通の人間だ」
「なるほど。色々教えてくれてありがとう」
今これ以上、情報をもらえば頭がパンクすると思い、カップ麺がなくなるタイミングで、一旦話を区切った。
最後の一口を口に運び、ごくりと飲み込む。
そしてふと、彼の目の前に置いてある一口も減っていないカップ麺を見て言った。
「な、食わねぇの?」
「こ、こんな得体の知れない食べ物、食えるわけがないだろう」
俺のそんな問いに、彼はそのキリッとした眉を歪ませながら大きな声を出した。
「でも、食わないと死ぬぞ」
彼の気迫に怖じけずに、真面目な声音でそう言うと、彼は視線を右往左往させて、最後にやっと言葉を絞り出した。
「……分かった」
少し温くなったカップ麺を恐る恐る手に取って、フォークをカップの中に入れ、ぐるぐると混ぜて中身を確認する。
何か珍しいものを見つけたかのような驚いた顔で、フォークである具材を刺して俺に見せてきた。
「……これはなんだ?」
「エビ、だな」
「……そうか、小さいな」
そんな呟きの言葉でさえ、高貴さが滲み出ている。
俺の内心なんてお構いなしに、彼はからに新しい具材を探して尋ねてくる。
「これは?」
「卵。鶏のね」
「そうか、小さいな」
坊ちゃんだな!コイツ!
宝を探す子どものような、探究心溢れるキラキラ表情でさらに俺にフォークの先の具材の名を聞いてきた。
「じゃあこれは?」
「謎肉。何の肉なんだろ」
「謎!?お前っ!自分でもよく分からないものを俺の口に入れようとするな!」
この世の終わりみたいな顔でこちらに迫ってくる。
だが、やっぱりどんな表情をしてても綺麗だ。
俺は彼の前にあったカップ麺を横取って、謎肉と麺をフォークに巻きくるめて1口食べると、もうひと巻きして男の口に突っ込んだ。
「な、何をする?!」
「ほら、安心しろ。俺が毒味したから」
「……!」
数回の咀嚼の後、ゴクリという音とともに喉仏が動く。
そして、青空を閉じ込めた瞳を大きく見せて、ゆらゆらと揺らめかせる。
「美味いだろ?」
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