ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏

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第1章 出会い

10話 銀髪の美少女・エラ

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珪砂けいしゃ!珪砂!それ、投げてんの多分、珪砂!」

俺はそう言いながらスライディングで集まりの中に割って入り、うずくまっていた少女の前に立った。

突然の乱入者に俺と少女の前にいた数人は、目をぱちくりとさせ、投げる手を止めた。

「は?なんだコイツ」
「頭おかしいんじゃない?」

そして互いの顔を見合わせたあと、まだ自分たちが優勢だと判断したのか、そんな言葉を吐きながら、白い砂を次は俺に向けて投げつけた。

ーーこれは吸い込めば身体に悪影響を及ぼすものだ。人に投げていいものじゃない。

俺は身体は動かさず、彼女に被らないようにしつつ、顔を横に向いて、自分の肌触れないように避けた。
その拍子に頭を覆っていた布がズレてしまい、黒髪を晒してしまった。

俺の髪色を見た瞬間、その手を瞬時に止めて、彼らは歯をガタガタと震わせ、後ずさりする。

「み、見ろ!黒髪だ!魔女の血族だ!」
「灰被りが魔女を連れてきた!」
「逃げろ~!」

彼らはそう吐き捨てると、一目散に城壁の中に逃げて行った。

輪の中に走りこむまでは夢中だったけれど、いざ彼らの前に立ったら理性がやっと働いてきた。
この後どうしようと思っていたが、何とかなってしまった。

彼の言っていた通り、黒髪の効果は悪い意味で絶大らしい。

黒髪への感心も束の間、俺の頭は時間が経つと冷静になっていく。

異世界は危険だということが分かったのに、自分の身を守る術を探しに来たのに、初っ端から、珪砂への欲望に走ってしまった。

さっきの行いを反省した俺は、慌てて布を頭に被り直した。

「大丈夫、ですか?」

後ろを振り返って、うずくまっていた少女に手を差し伸べる。

「……あ、ありがとう、ございます」

差し出した手にひんやりとした小さな手が重なる。
彼女が立ち上がりやすいようにグッと引っ張った。

華奢だと思っていたが、膝を伸ばすと俺と同じくらいの身長で、身体が細いからなのか。

……というか。すんごい美少女!
太陽の光を受けて、銀の糸を束ねたような髪がさらりと揺れていて。

俺を真っ直ぐ見つめるその瞳は、淡紫で一面に広がるラベンダー畑を彷彿とさせる。

くっきりとした二重に、長いまつ毛は薄らとした影を落としている。

白磁のような肌に、淡い桃色の頬。
そして、血の色をほんの少しだけ宿した唇。
一見すると儚げなのに、どこか気高い。

古着を縫い合わせたような、1枚の茶色いワンピースでさえ、どこかの国のドレスのように錯覚してしまうほど綺麗に着こなしてしまっている。

彼女が本物のドレスを着たら、どんなに美しいんだろう。

異世界の美青年、美少女レベルに圧倒されていると、玲瓏な声が俺を現実に引き戻す。

「あの!何かお礼をさせてください」

「俺は何もしてないです。だから気にしないで」

「でも、貴方が来てくださったことで私は一難を逃れられました。だから、なんでもさせて下さい!」

あまりの気迫に俺もたじろいでしまう。

俺はしゃがんで、足元に落ちた白い砂の手触りを確かめた後、手に取ったそれを見せながら彼女に一つお願いをした。

「あ、じゃあ!これが欲しいんです。どこで売ってるか教えてもらえませんか?」

「……はい?この、ですか?」

灰被りと言われて投げつけられていたから、この世界の人たちはこれを灰だと思っているのだとばかり思っていた。
けれど彼女は砂だと認識していたらしい。
俺が言ってた珪砂って言葉も、知らなければきっと砂だとは分からないだろうし……。彼女の何気ない言葉に驚きつつ、俺は紫色の瞳に視線を向ける。

銀髪の美少女は目を丸くしていて、俺が手にしていた珪砂に視線を落とすと、戸惑いを含んだ声で答えてくれた。

「これは、好きに持って行ってくださって結構ですよ。……どうせ棄てられてしまうのですから」

「ありがとうございます!」

できるだけたくさんもらっていこう。
俺は散乱していた珪砂をかき集めていると、その様子をじっと見ていた彼女から尋ねられる。

「……あの、用途をお伺いしても?これをたくさん集めて、どうするのです?」

何かを探って確かめようとするような強い力を持つ瞳に俺は気圧されてしまい、簡単な答えのはずなのに、言葉の抽出が遅くなる。

「あ~、えっと」

「もしかして、ガラス?」

俺が答える前に、彼女が鋭い指摘をしてきた。

「そうです!何で分かったんですか?」

「珪砂と仰っていたので。珪砂はガラスに必須の材料でしょう?」

「そうです!そうなんです!」

そう、珪砂は二酸化ケイ素を主成分とする石英の砂。
ガラスを作るうえで欠かせない原料のひとつだ。

そんな珪砂のことを理解している彼女に、思わず感情が高ぶり、俺はその細い腕をぎゅっと握ってしまう。

すると彼女は、小さく笑いながら呟いた。

「面白い方ですね」

「えっと、何が……」

彼女の言葉の意味が理解できず、今度は俺が問い掛けた。

「この国ではガラスは禁忌なのに、それ作ろうとするなんて」

その言葉で俺の頭は真っ白になった。

「……え?ガラスが禁忌?」

「外国から来た旅人さんなら、ご存知でないかもしれませんね。
その理由も、この国の王子様のワガママだとか」

嘘、だろ。
王子様、ちょっと横暴すぎやしないか?
そんな王子様への不満が募ってくるが、それよりももっと身近な危機が迫っていることに気付いてしまう。

じゃあ俺は今、禁忌を犯そうとしていることをバカ正直に、この国の住人の彼女に話したようなもので……。

俺の顔が真っ青になったのを察したのか、彼女は穏やかな声音で俺を安心させた。

「安心してください。このことを騎士団などに話すなんてことはありません。だって、私もガラスが大好きなんですもの」

彼女は胸に手を当てて、その想いを真っ直ぐに俺に伝えてくれる。

「助けていただいた貴方の力になりたい。珪砂だけとは言わず、どうか私を頼ってください」

「じゃ、じゃあ協力を頼んでいいですか?」

「もちろんです。私の名前は、エラ。あなたのお名前は?」

「リヨです。敬語じゃなくて、楽に話してください」

「では、お言葉に甘えて。よろしくね、リヨ。私にも気軽に話して」

「うん、よろしく、エラ」

「さて、ガラスに必要な材料は、珪砂の他にあと2種類だよね?私に心当たりがあるの、着いてきて」

「ああ!」

ガラスのことをこんなにも分かってる人と偶然巡り会う展開なんて、アツすぎる。

エラはキラキラと輝く眩しい笑顔で俺の手を取って、城壁の門の方へ連れていってくれる。

門に入ろうとする時、エラはふと立ち止まった。

「あ、リヨ。これから、城壁の中の王都に行くことになるから、少しおまじないをかけさせて」

「おまじない?」

「うん。あまり得意ではないけれど、リヨ1人くらいならなんとかできそう」

俺が首を傾げると、その間にエラは俺との距離をグッと縮める。

そして、彼女は俺に被さった布を取り、その奥にあった前髪を冷たい右手で上げると、俺の額に一つの口付けを落とした。
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