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第1章 出会い
12話 ブローチの贈り主
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「な、なあ、エラ!これ、どこで買ったんだ?!」
俺は思わずエラの肩を掴んで、強い語気で尋ねた。
俺の行動に驚いたのか、彼女は淡紫の瞳を大きく揺らす。
俺に向けたその美しい瞳をゆっくりと逸らし、小さな声で答えた。
「貰い物なの」
「……誰からの?!」
「私の父から」
さらに俺の声は大きくなったが、対するエラの声は冷静だった。そのひんやりとした寂しい声音に、俺の頭も冷やされていく。
これは父の作品だけれど、エラのお父さんがエラに渡した思い出の品でもある。
だから俺は付けられたブローチに優しく触れて、取り外そうとする。
「そんな大事な物……」
「いいの!私はリヨにもらって欲しい!」
そんなエラの強い意志を感じる言葉に俺の手は止まり、彼女の気持ちを受け止めることにした。
息を整えて数秒。
「あの、エラのお父さんって……」
俺が彼女の顔色を伺いながら問うと、エラは手ぐしで絹のような銀の髪をといで、何かを懐かしむような微笑を浮かべながら口を開く。
「もうこの世にはいないの。だから、父がこれをどのようにして手に入れたのか、誰から譲り受けたのか、それすら分からない」
「……そっか、辛いこと聞いて、ごめん」
エラの肩を掴んでいた手を静かに離し、彼女に詰め寄って辛い記憶を思い出させてしまったことを謝る。
彼女はそんな謝罪に対してすぐ様「気にしないで」首を振る。
花のように咲いた笑顔を見て、それを引き立たせているその後ろの小さな四角い窓から見える青空に目を向ける。
父の作品が何故かこの世界にあって、それをエラとエラのお父さんが持っていた。
父もこの世界に来たことがあるのか、それともエラのお父さんが日本に来たのか。
この世界と日本は繋がってる?行き来できるのか?
俺がこの世界に来たことは何か意味があるのか。
数多の可能性が俺の頭を駆け巡り、ブローチの方を見下げる。キラキラと輝く、まるで生きているかのような透明なアネモネの花。
俺が虜になった父の作品。
誰かの心をこんなにも掴む美しさ。
俺が作りたいモノ。
「……ヨ。リーヨ!」
「あ、ごめん」
エラに何度も名前を呼ばれて、やっと現実に引き戻される。
彼女はその様子を見てクスリと笑って、俺の方に詰め寄ってきた。
「ねぇ、今15時だけれど、まだ時間はある?」
「うん」
「そう!なら、最後の材料を探しに行きましょう!少し馬車に乗って王都の端まで行こう!」
エラはそう言って俺の手を取って彼女の部屋に続く階段をかけ上る。
煤けた部屋に再度入り、エラはハシゴか掛かっている小窓のサッシに足をかける。
そして彼女は、ハシゴなど使わず、勢いよくそこから飛び降りた。
「エラ!?」
突飛な彼女の行動に吃驚して、すぐ様小窓に手をかけ、下を覗き込む。
「リヨ!おいで!」
エラはそう言って両手を、めいっぱい広げている。
「いや、普通にハシゴ使うけど」
「えぇ」
残念そうに眉を凹ませるエラを見ないふりをして、俺はハシゴを使って、静かに降りようとする。
が、その時上から赤茶色の毛並みのネズミが俺の頭に飛び乗って来て、バランスを崩し、ハシゴにかけていた手がパッと外れてしまう。衝撃に備えて目をつぶった。
しかし、いくら時間が経っても落ちた時の痛みがない。
恐る恐るその瞼を開けると、大きな淡紫の瞳が俺の視界を独占していた。
「捕まえた」
少女は少し低めのトーンで俺に囁くと、片方だけ口角を上げて悪戯に笑う。
数秒か経って、自分の状況を確認してみれば……可愛い銀髪美少女にお姫様抱っこされてんじゃねぇか!
落ちてきた俺を受け止めたのか?こんな細い腕で?
成人男性とソーダ灰や珪砂が入った麻袋をいとも簡単に!?
な、何なんだこの子!可愛いのに物理的にもめちゃくちゃ頼もしい。
また見つけてしまったエラの新たな一面に驚く俺を他所に、彼女は、俺の頭に乗ってきた赤茶色のネズミと、後から慎重にハシゴを伝って降りてきた青色のネズミとを肩に乗せて、俺を抱いたまま、何事も無かったかのように街を歩いている。
「あの、もう下ろしてもらっていい、ですか?」
「ダメ。馬車まではずっとこう」
「男としてのプライドが……」
「おまじないで周りには見えていないのだから、大丈夫!」
そういう問題じゃないんだけど、と思いつつ、譲ろうとしてくれない頑固さに、結局俺の方が折れてしまった。
エラの鼓動が聞こえ、なんだかとても落ち着く。
最初は抵抗があった彼女の腕の中だが、馬車が停る駅のような所に着く頃には少し物寂しくなってしまうほど心地よかった。
列に並んで、しばらく待っていると古びた馬車がこちらに向かってくる。
並んでいた人達は硬貨のようなものを御者に2枚払うと、続々と馬車に入っていく。
俺たちの番が来て、エラが御者に硬貨を渡そうとする。
しかし、御者は彼女の髪を見るなり、視線を鋭くして硬貨を渡す彼女の手を払った。
「チッ。灰被りかよ。200プリズだ」
「ええ、それでお願い」
エラは右ポケットから、大量の硬貨が入った巾着を取り出し、その中からガバッと手で鷲掴むと、御者に200枚の硬貨を押し付けた。
「……チッ、出せるのかよ。ほら、乗れ」
「ありがとう」
他の乗客は1人2枚だったのに、エラだけ200枚も?
俺が見えていないからと言って、そんな横暴なことあっていいわけ……そう思って俺はエラに話しかける。
「エ、エラ、あれ……」
「大丈夫。この日のために貯めてきたって言っても過言じゃないから!少しぐらいぼったくられても平気よ」
「……なんで、そこまで、俺のために」
「貴方は私を助けてくれた。そして、私が諦めたことをやろうとしてくれてる。それを手伝いたい。貴方の作ったガラスを見たい。そんな理由じゃダメ?」
「……っ!」
やばい。あまりの可愛さに少し気を取られれば、落ちてしまいそうになる。
彼女は俺を友達と言ってくれて、俺の夢が罪になるこの国で、危険を厭わず協力してくれている協力者なんだ。
そんな邪な気持ちを抱くなんて、彼女の善意に対する冒涜だ。
エラの肩が触れ合うくらい狭く、乗り心地の悪い馬車に揺られて1時間。
気付けばたくさんいた乗客は俺とエラ二人になっていた。
馬車がピタリ止まり、俺たちは新たな地に足を踏み入れる。
エラの背中を追って、数分歩いた先。
俺たちの目の前には、洞窟のような大きな黒い岩があった。
「ここは?」
「……石切場」
答えるエラの声音は少し低くて、震えていた。
石切場、鉱山開発の場だろうか。
鉄の甲高い音が響き、荒い息が聴こえる。
音の方を見てみれば、煤のようなものにまみれた人々が、ひたすらに大きく黒岩を削っていた。
その横を歩いている俺達にさえ気づかないほど必死に。
「彼らは……?」
「私も含め彼らは他の国から来た移民なの」
「移民……?」
エラに不当な扱いや目に薄々勘づいてはいたが、その確信を掴めてしまったような気がする。
「ええ。私たちが元いた国が鉱山国だったから。この国でも採掘作業は彼らの仕事。命の危険と隣り合わせだし、あまり歓迎される仕事ではないけれどね。伯爵家に引き取られた私が幸運なだけ。他のみんなはここで過酷な労働を強いられてる」
「そうなんだ」
悲鳴をあげるような石を削る音だけが俺たちの間に響く。
明るく様々なことを話してくれるエラが、この時だけは口を噤んでいて、とある方向へ向かって歩き出す。
黒い岩のさらに奥に、その色とは正反対の白い岩が見える。
立ち止まった銀髪の少女はふぅっと息を吐いて、俺の方を振り返ると、先程の雰囲気をかき消すような満面の笑みを見せた。
「お待たせ、リヨ!これが!」
「石灰石?」
「正解!この国、プリズメル王国で重宝されているのは、こっちの黒い岩、ミゾル石の方なの。だから、横にある石灰石は余ってしまってるの」
ミゾル石、初めて聞く名前だ。
俺が疑問に思った表情をしていたからか、エラはそれを読み取って、その石について詳しい解説をしてくれる。
「この国でガラスの代替品になっている鉱石だよ。魔力を与えることによって、とても頑丈な性質をもつ素材なの。硬く、割れることのない物質。窓やカトラリーなんかはこれが占めてる」
「硬くて割れることがない、か。ガラスの弱点を見事にカバーしてる優秀な石だな」
「……私はそんな万能ではないと思う」
「というと?」
「ミゾル石はその硬度のせいで加工がしにくいの。単純な形にしか切れないから同じような量産型しか作れない」
「……なるほど」
ガラスみたいに装飾を付けたり、複雑な湾曲型にしたりはできないのか。
こういう異世界モノだと教会のステンドグラスや、王城の複雑な形状を組み合わせた派手な窓ガラスなんかはありそうだと思ったが、エラの話を聞いているとそれ以前にワイングラスさえないのかも。
街に戻ったら、窓の形をよく見てみよう。
そんなことを考えていた時、冷たい氷のような声が風に流されて耳に届く。
「本当に愚かな国」
「……」
ミゾル石を採り続ける人達の背中を見つめながら、靡く銀色の髪を耳にかけたエラが、風に乗せてそんな言葉を小さく吐いたのだ。
ガラスを生業としている俺にとっては、ガラスを禁忌としているこの国は、愚か、なのかもしれない。
でも、彼女の言う愚かの重みは俺のものとは比べ物にならないほど重かった。
この世界を知らなさすぎる俺は彼女の言葉に同意出来ない。
彼女がこれまで受けてきた苦痛を俺には計り知れないから。
簡単に同情すれば、そんな彼女を蔑ろにしてしまうような気がして、俺は沈黙を突き通してしまった。
重たい空気を断ち切ったのは他でもないエラだった。
エラはくるりと俺の前で華麗なターンを決めて、そのラベンダーの瞳を俺の方に向ける。
「ねぇ、リヨ。こんな国、ぶっ壊しちゃわない?」
少女は少し掠れた声で、でも溌剌に、そんなことを提案した。
俺は思わずエラの肩を掴んで、強い語気で尋ねた。
俺の行動に驚いたのか、彼女は淡紫の瞳を大きく揺らす。
俺に向けたその美しい瞳をゆっくりと逸らし、小さな声で答えた。
「貰い物なの」
「……誰からの?!」
「私の父から」
さらに俺の声は大きくなったが、対するエラの声は冷静だった。そのひんやりとした寂しい声音に、俺の頭も冷やされていく。
これは父の作品だけれど、エラのお父さんがエラに渡した思い出の品でもある。
だから俺は付けられたブローチに優しく触れて、取り外そうとする。
「そんな大事な物……」
「いいの!私はリヨにもらって欲しい!」
そんなエラの強い意志を感じる言葉に俺の手は止まり、彼女の気持ちを受け止めることにした。
息を整えて数秒。
「あの、エラのお父さんって……」
俺が彼女の顔色を伺いながら問うと、エラは手ぐしで絹のような銀の髪をといで、何かを懐かしむような微笑を浮かべながら口を開く。
「もうこの世にはいないの。だから、父がこれをどのようにして手に入れたのか、誰から譲り受けたのか、それすら分からない」
「……そっか、辛いこと聞いて、ごめん」
エラの肩を掴んでいた手を静かに離し、彼女に詰め寄って辛い記憶を思い出させてしまったことを謝る。
彼女はそんな謝罪に対してすぐ様「気にしないで」首を振る。
花のように咲いた笑顔を見て、それを引き立たせているその後ろの小さな四角い窓から見える青空に目を向ける。
父の作品が何故かこの世界にあって、それをエラとエラのお父さんが持っていた。
父もこの世界に来たことがあるのか、それともエラのお父さんが日本に来たのか。
この世界と日本は繋がってる?行き来できるのか?
俺がこの世界に来たことは何か意味があるのか。
数多の可能性が俺の頭を駆け巡り、ブローチの方を見下げる。キラキラと輝く、まるで生きているかのような透明なアネモネの花。
俺が虜になった父の作品。
誰かの心をこんなにも掴む美しさ。
俺が作りたいモノ。
「……ヨ。リーヨ!」
「あ、ごめん」
エラに何度も名前を呼ばれて、やっと現実に引き戻される。
彼女はその様子を見てクスリと笑って、俺の方に詰め寄ってきた。
「ねぇ、今15時だけれど、まだ時間はある?」
「うん」
「そう!なら、最後の材料を探しに行きましょう!少し馬車に乗って王都の端まで行こう!」
エラはそう言って俺の手を取って彼女の部屋に続く階段をかけ上る。
煤けた部屋に再度入り、エラはハシゴか掛かっている小窓のサッシに足をかける。
そして彼女は、ハシゴなど使わず、勢いよくそこから飛び降りた。
「エラ!?」
突飛な彼女の行動に吃驚して、すぐ様小窓に手をかけ、下を覗き込む。
「リヨ!おいで!」
エラはそう言って両手を、めいっぱい広げている。
「いや、普通にハシゴ使うけど」
「えぇ」
残念そうに眉を凹ませるエラを見ないふりをして、俺はハシゴを使って、静かに降りようとする。
が、その時上から赤茶色の毛並みのネズミが俺の頭に飛び乗って来て、バランスを崩し、ハシゴにかけていた手がパッと外れてしまう。衝撃に備えて目をつぶった。
しかし、いくら時間が経っても落ちた時の痛みがない。
恐る恐るその瞼を開けると、大きな淡紫の瞳が俺の視界を独占していた。
「捕まえた」
少女は少し低めのトーンで俺に囁くと、片方だけ口角を上げて悪戯に笑う。
数秒か経って、自分の状況を確認してみれば……可愛い銀髪美少女にお姫様抱っこされてんじゃねぇか!
落ちてきた俺を受け止めたのか?こんな細い腕で?
成人男性とソーダ灰や珪砂が入った麻袋をいとも簡単に!?
な、何なんだこの子!可愛いのに物理的にもめちゃくちゃ頼もしい。
また見つけてしまったエラの新たな一面に驚く俺を他所に、彼女は、俺の頭に乗ってきた赤茶色のネズミと、後から慎重にハシゴを伝って降りてきた青色のネズミとを肩に乗せて、俺を抱いたまま、何事も無かったかのように街を歩いている。
「あの、もう下ろしてもらっていい、ですか?」
「ダメ。馬車まではずっとこう」
「男としてのプライドが……」
「おまじないで周りには見えていないのだから、大丈夫!」
そういう問題じゃないんだけど、と思いつつ、譲ろうとしてくれない頑固さに、結局俺の方が折れてしまった。
エラの鼓動が聞こえ、なんだかとても落ち着く。
最初は抵抗があった彼女の腕の中だが、馬車が停る駅のような所に着く頃には少し物寂しくなってしまうほど心地よかった。
列に並んで、しばらく待っていると古びた馬車がこちらに向かってくる。
並んでいた人達は硬貨のようなものを御者に2枚払うと、続々と馬車に入っていく。
俺たちの番が来て、エラが御者に硬貨を渡そうとする。
しかし、御者は彼女の髪を見るなり、視線を鋭くして硬貨を渡す彼女の手を払った。
「チッ。灰被りかよ。200プリズだ」
「ええ、それでお願い」
エラは右ポケットから、大量の硬貨が入った巾着を取り出し、その中からガバッと手で鷲掴むと、御者に200枚の硬貨を押し付けた。
「……チッ、出せるのかよ。ほら、乗れ」
「ありがとう」
他の乗客は1人2枚だったのに、エラだけ200枚も?
俺が見えていないからと言って、そんな横暴なことあっていいわけ……そう思って俺はエラに話しかける。
「エ、エラ、あれ……」
「大丈夫。この日のために貯めてきたって言っても過言じゃないから!少しぐらいぼったくられても平気よ」
「……なんで、そこまで、俺のために」
「貴方は私を助けてくれた。そして、私が諦めたことをやろうとしてくれてる。それを手伝いたい。貴方の作ったガラスを見たい。そんな理由じゃダメ?」
「……っ!」
やばい。あまりの可愛さに少し気を取られれば、落ちてしまいそうになる。
彼女は俺を友達と言ってくれて、俺の夢が罪になるこの国で、危険を厭わず協力してくれている協力者なんだ。
そんな邪な気持ちを抱くなんて、彼女の善意に対する冒涜だ。
エラの肩が触れ合うくらい狭く、乗り心地の悪い馬車に揺られて1時間。
気付けばたくさんいた乗客は俺とエラ二人になっていた。
馬車がピタリ止まり、俺たちは新たな地に足を踏み入れる。
エラの背中を追って、数分歩いた先。
俺たちの目の前には、洞窟のような大きな黒い岩があった。
「ここは?」
「……石切場」
答えるエラの声音は少し低くて、震えていた。
石切場、鉱山開発の場だろうか。
鉄の甲高い音が響き、荒い息が聴こえる。
音の方を見てみれば、煤のようなものにまみれた人々が、ひたすらに大きく黒岩を削っていた。
その横を歩いている俺達にさえ気づかないほど必死に。
「彼らは……?」
「私も含め彼らは他の国から来た移民なの」
「移民……?」
エラに不当な扱いや目に薄々勘づいてはいたが、その確信を掴めてしまったような気がする。
「ええ。私たちが元いた国が鉱山国だったから。この国でも採掘作業は彼らの仕事。命の危険と隣り合わせだし、あまり歓迎される仕事ではないけれどね。伯爵家に引き取られた私が幸運なだけ。他のみんなはここで過酷な労働を強いられてる」
「そうなんだ」
悲鳴をあげるような石を削る音だけが俺たちの間に響く。
明るく様々なことを話してくれるエラが、この時だけは口を噤んでいて、とある方向へ向かって歩き出す。
黒い岩のさらに奥に、その色とは正反対の白い岩が見える。
立ち止まった銀髪の少女はふぅっと息を吐いて、俺の方を振り返ると、先程の雰囲気をかき消すような満面の笑みを見せた。
「お待たせ、リヨ!これが!」
「石灰石?」
「正解!この国、プリズメル王国で重宝されているのは、こっちの黒い岩、ミゾル石の方なの。だから、横にある石灰石は余ってしまってるの」
ミゾル石、初めて聞く名前だ。
俺が疑問に思った表情をしていたからか、エラはそれを読み取って、その石について詳しい解説をしてくれる。
「この国でガラスの代替品になっている鉱石だよ。魔力を与えることによって、とても頑丈な性質をもつ素材なの。硬く、割れることのない物質。窓やカトラリーなんかはこれが占めてる」
「硬くて割れることがない、か。ガラスの弱点を見事にカバーしてる優秀な石だな」
「……私はそんな万能ではないと思う」
「というと?」
「ミゾル石はその硬度のせいで加工がしにくいの。単純な形にしか切れないから同じような量産型しか作れない」
「……なるほど」
ガラスみたいに装飾を付けたり、複雑な湾曲型にしたりはできないのか。
こういう異世界モノだと教会のステンドグラスや、王城の複雑な形状を組み合わせた派手な窓ガラスなんかはありそうだと思ったが、エラの話を聞いているとそれ以前にワイングラスさえないのかも。
街に戻ったら、窓の形をよく見てみよう。
そんなことを考えていた時、冷たい氷のような声が風に流されて耳に届く。
「本当に愚かな国」
「……」
ミゾル石を採り続ける人達の背中を見つめながら、靡く銀色の髪を耳にかけたエラが、風に乗せてそんな言葉を小さく吐いたのだ。
ガラスを生業としている俺にとっては、ガラスを禁忌としているこの国は、愚か、なのかもしれない。
でも、彼女の言う愚かの重みは俺のものとは比べ物にならないほど重かった。
この世界を知らなさすぎる俺は彼女の言葉に同意出来ない。
彼女がこれまで受けてきた苦痛を俺には計り知れないから。
簡単に同情すれば、そんな彼女を蔑ろにしてしまうような気がして、俺は沈黙を突き通してしまった。
重たい空気を断ち切ったのは他でもないエラだった。
エラはくるりと俺の前で華麗なターンを決めて、そのラベンダーの瞳を俺の方に向ける。
「ねぇ、リヨ。こんな国、ぶっ壊しちゃわない?」
少女は少し掠れた声で、でも溌剌に、そんなことを提案した。
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