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ただの白
「待てよ! おい!」
「えっ? えっ!?」
「やっと追いついた。なんだこれは!」
「……離縁状」
「こんなところまで一人で歩いて、この先どうするつもりだったんだ?」
「あなたも、こんな寒空の中、外套もなく馬に跨って風邪ひくわよ」
「俺はいい。それより、これはなんだ?」
「だから、離縁状」
「離縁、したいの、か?」
「……だって」
「好きな男がいるのか?」
「違うわ! それはあなたでしょう?」
「なんでそうなる?」
「私の机に、白いチューリップがあったわ」
「は? あれは松雪草だろ」
「え! あなた、花の種類わかるの? チューリップと間違えたのかと」
「……それくらいわかる。見くびりすぎだろ。さすがに、松雪草と間違えはしないよ」
「だって、私の机に花を置く。それは外に好きな人が出来たシルシにしようって」
「うん、いるよ。好きな人」
「ほら! やっぱり!」
「泣くな。いや、泣いていい。んー。ほら、おいで」
「いや! 離して!」
「離縁なんて認めない。俺は絶対、君を離さない」
「何言ってるの? バカなの? 今、他に好きな人がいるって……」
「ああ、いるよ。昨日の君より今日の君が好きだ。君に出会ったその日から、ずっと君を好きになり続けてる」
「……嘘」
「それに、好きな人に好きな花を贈るのは、駄目なのか?」
「……駄目、じゃない」
「だろう? ほら、おいで」
「うー…」
「ほら、ここに」
「うぅ……あなたの腕の中が……ごめんなさい。……やっぱり、好き」
「知ってるよ。でも、ごめん。驚かそうとして、机に置いたのがいけなかった」
「そう言えば、なぜ、花を置いたの?」
「君、忘れたのか? 今日は俺たちが婚約前、初めて顔合わせをした日だろ?」
「あっ……。でも、今までそんなこと一度も……」
「今日はそれから、十年目だ。俺と君が初めて出会った日」
「そうだわ。十年目」
「花の下のメッセージは見てくれた?」
「……ううん、衝撃が、凄くて」
「今日は特別なディナーを過ごそうって、書いたんだ」
「特別?」
「そう。顔合わせをしたレストランで。あの時、庭いっぱいに松雪草が咲いていただろう?」
「そういえば」
「それに、あの約束。イヤだったんだ」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。
二年前、終わりの合図だと思い込んでいたあの約束を、彼は十年間積み重ねてきた愛を伝えるための贈り物として、上書きしてくれたのだ。
終わることのない愛として。
冷たい冬の風が吹いているのに、彼に抱き寄せられた腕の中は驚くほど熱く、ここが私の居場所だと思い出させてくれる。
彼は私の頬を大きな手で包み込むと、泣きはらした私の瞳をじっと覗き込んだ。
ゆっくりと顔が近づき、唇に彼の熱が触れる。
それはどんな饒舌な言葉よりも、彼がこの十年間、私だけを真っ直ぐに見続けてきたという何よりの証明だった。
唇が離れたあと、彼は離縁状を粉々に破り、宙に放り投げた。
それはまるで細雪のようにも見えた。
「えっ? えっ!?」
「やっと追いついた。なんだこれは!」
「……離縁状」
「こんなところまで一人で歩いて、この先どうするつもりだったんだ?」
「あなたも、こんな寒空の中、外套もなく馬に跨って風邪ひくわよ」
「俺はいい。それより、これはなんだ?」
「だから、離縁状」
「離縁、したいの、か?」
「……だって」
「好きな男がいるのか?」
「違うわ! それはあなたでしょう?」
「なんでそうなる?」
「私の机に、白いチューリップがあったわ」
「は? あれは松雪草だろ」
「え! あなた、花の種類わかるの? チューリップと間違えたのかと」
「……それくらいわかる。見くびりすぎだろ。さすがに、松雪草と間違えはしないよ」
「だって、私の机に花を置く。それは外に好きな人が出来たシルシにしようって」
「うん、いるよ。好きな人」
「ほら! やっぱり!」
「泣くな。いや、泣いていい。んー。ほら、おいで」
「いや! 離して!」
「離縁なんて認めない。俺は絶対、君を離さない」
「何言ってるの? バカなの? 今、他に好きな人がいるって……」
「ああ、いるよ。昨日の君より今日の君が好きだ。君に出会ったその日から、ずっと君を好きになり続けてる」
「……嘘」
「それに、好きな人に好きな花を贈るのは、駄目なのか?」
「……駄目、じゃない」
「だろう? ほら、おいで」
「うー…」
「ほら、ここに」
「うぅ……あなたの腕の中が……ごめんなさい。……やっぱり、好き」
「知ってるよ。でも、ごめん。驚かそうとして、机に置いたのがいけなかった」
「そう言えば、なぜ、花を置いたの?」
「君、忘れたのか? 今日は俺たちが婚約前、初めて顔合わせをした日だろ?」
「あっ……。でも、今までそんなこと一度も……」
「今日はそれから、十年目だ。俺と君が初めて出会った日」
「そうだわ。十年目」
「花の下のメッセージは見てくれた?」
「……ううん、衝撃が、凄くて」
「今日は特別なディナーを過ごそうって、書いたんだ」
「特別?」
「そう。顔合わせをしたレストランで。あの時、庭いっぱいに松雪草が咲いていただろう?」
「そういえば」
「それに、あの約束。イヤだったんだ」
彼の言葉に、私は息を呑んだ。
二年前、終わりの合図だと思い込んでいたあの約束を、彼は十年間積み重ねてきた愛を伝えるための贈り物として、上書きしてくれたのだ。
終わることのない愛として。
冷たい冬の風が吹いているのに、彼に抱き寄せられた腕の中は驚くほど熱く、ここが私の居場所だと思い出させてくれる。
彼は私の頬を大きな手で包み込むと、泣きはらした私の瞳をじっと覗き込んだ。
ゆっくりと顔が近づき、唇に彼の熱が触れる。
それはどんな饒舌な言葉よりも、彼がこの十年間、私だけを真っ直ぐに見続けてきたという何よりの証明だった。
唇が離れたあと、彼は離縁状を粉々に破り、宙に放り投げた。
それはまるで細雪のようにも見えた。
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