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幻の一杯
幻の一杯 2 どうして、私?
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「妙な事?」
「うん。とある茶の話なんだ。最初は女官や侍女の間で美味しいと評判のお茶があったらしくてね。そのうちその話がじわじわ伝わって、いつの間にか勤め人の間でその味が知られるようになってたらしい。ところがある日、誰かが気づいた。『あれ? 茶葉、使い切ってる……』ってね」
ルシアスはひと息つき、紅茶を一口含んでから話を続けた。
「新しく茶葉を補充しようとすると、どこで頼んだのかも、誰に頼めばいいのかも分からない。記録がどこにも残ってなかったんだ」
「どこにも?」
「そう。皇宮に運ばれる食糧はスティも知っての通り、全部記録されるだろ? どこから来た、どこに回された、何のために使われたかって。でもね、この茶葉だけは、そういう記録が一切なかった。で、それが回り回って内務大臣の耳に入って……僕のところにも届いたわけ」
「……誰かの私物だとか?」
「であれば、とっくに『誰のものか』わかっていると思うんだ」
「どこから来たのか謎のお茶ね」
「そう。これは由々しき事態だよ。正体も出所もわからない茶が、気づけば宮中のあちこちで飲まれてる。しかも、また飲みたいって声が後を絶たないらしい。……で、いつの間にか、こう呼ばれるようになったんだ。飲みたいのに飲めない茶『幻の一杯』ってね」
ステラは手に持つ閉じられた扇を、ゆっくりとテーブルに置いた。そしてティーカップを手に持つ。
中に淹れられている紅茶を見つめ
「幻の一杯……ね」
思案するように、一人呟いた。
「でもどうして、私にこの話を?」
「これは見過ごせない管理の不備だ。でも俺が表立って動くと大事になり、勤め人たちは委縮する。もし何かの策略がその茶葉にあったのだとしたら、後ろ暗い者たちは隠そうとするだろう? だから宮廷内の者は動かせない。最初に飲んでいたのは女官や侍女たち。なら、僕より同じ女性のほうが話を引き出せる。但し、それなりに地位があり、賢い立ち回りが出来て、俺が信頼する人……ここまで言えば、分かるでしょ? スティ」
「なるほど。それは光栄ね」
「それとね。最後、これが一番重要なんだけれども」
「なあに?」
「俺とスティが一緒に過ごす時間が増えるでしょ?」
「……」
そう言ってルシアスは、ウィンクをした。それを軽く受け流したステラ。
「そういえば、ルシは『幻の一杯』を口にしたことはあるの?」
「いいや。これも不思議なんだが、皇族や重臣、高位の臣下たちはその存在すら知らなかったんだ」
「高位の者は誰も、口にしてないの?」
「そうだよ。侍従長でさえ知らなくて、そういう噂を聞いたのは最近だと話してたからね」
「どうしてなのかしら? とても限定的な範囲で飲まれてたってこと?」
「勤め人の間では、広がって行ったみたいだけれどもね」
「そういえば、女官や侍女たちから広まったと言っていたわよね?」
そこでルシアスは、コクリと頷く。
「女官たちの詰め所に行ってみるかい?」
「ええ。話を聞いてみたいわ」
こうしてステラとルシアスは、皇宮にある女官たちの詰め所へと足を運ぶことにした。
「うん。とある茶の話なんだ。最初は女官や侍女の間で美味しいと評判のお茶があったらしくてね。そのうちその話がじわじわ伝わって、いつの間にか勤め人の間でその味が知られるようになってたらしい。ところがある日、誰かが気づいた。『あれ? 茶葉、使い切ってる……』ってね」
ルシアスはひと息つき、紅茶を一口含んでから話を続けた。
「新しく茶葉を補充しようとすると、どこで頼んだのかも、誰に頼めばいいのかも分からない。記録がどこにも残ってなかったんだ」
「どこにも?」
「そう。皇宮に運ばれる食糧はスティも知っての通り、全部記録されるだろ? どこから来た、どこに回された、何のために使われたかって。でもね、この茶葉だけは、そういう記録が一切なかった。で、それが回り回って内務大臣の耳に入って……僕のところにも届いたわけ」
「……誰かの私物だとか?」
「であれば、とっくに『誰のものか』わかっていると思うんだ」
「どこから来たのか謎のお茶ね」
「そう。これは由々しき事態だよ。正体も出所もわからない茶が、気づけば宮中のあちこちで飲まれてる。しかも、また飲みたいって声が後を絶たないらしい。……で、いつの間にか、こう呼ばれるようになったんだ。飲みたいのに飲めない茶『幻の一杯』ってね」
ステラは手に持つ閉じられた扇を、ゆっくりとテーブルに置いた。そしてティーカップを手に持つ。
中に淹れられている紅茶を見つめ
「幻の一杯……ね」
思案するように、一人呟いた。
「でもどうして、私にこの話を?」
「これは見過ごせない管理の不備だ。でも俺が表立って動くと大事になり、勤め人たちは委縮する。もし何かの策略がその茶葉にあったのだとしたら、後ろ暗い者たちは隠そうとするだろう? だから宮廷内の者は動かせない。最初に飲んでいたのは女官や侍女たち。なら、僕より同じ女性のほうが話を引き出せる。但し、それなりに地位があり、賢い立ち回りが出来て、俺が信頼する人……ここまで言えば、分かるでしょ? スティ」
「なるほど。それは光栄ね」
「それとね。最後、これが一番重要なんだけれども」
「なあに?」
「俺とスティが一緒に過ごす時間が増えるでしょ?」
「……」
そう言ってルシアスは、ウィンクをした。それを軽く受け流したステラ。
「そういえば、ルシは『幻の一杯』を口にしたことはあるの?」
「いいや。これも不思議なんだが、皇族や重臣、高位の臣下たちはその存在すら知らなかったんだ」
「高位の者は誰も、口にしてないの?」
「そうだよ。侍従長でさえ知らなくて、そういう噂を聞いたのは最近だと話してたからね」
「どうしてなのかしら? とても限定的な範囲で飲まれてたってこと?」
「勤め人の間では、広がって行ったみたいだけれどもね」
「そういえば、女官や侍女たちから広まったと言っていたわよね?」
そこでルシアスは、コクリと頷く。
「女官たちの詰め所に行ってみるかい?」
「ええ。話を聞いてみたいわ」
こうしてステラとルシアスは、皇宮にある女官たちの詰め所へと足を運ぶことにした。
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