編む。ー消える白パンの謎ー

苺迷音

文字の大きさ
38 / 40
幻の一杯

幻の一杯 2 どうして、私?

しおりを挟む
「妙な事?」

「うん。とある茶の話なんだ。最初は女官や侍女の間で美味しいと評判のお茶があったらしくてね。そのうちその話がじわじわ伝わって、いつの間にか勤め人の間でその味が知られるようになってたらしい。ところがある日、誰かが気づいた。『あれ? 茶葉、使い切ってる……』ってね」

 ルシアスはひと息つき、紅茶を一口含んでから話を続けた。

「新しく茶葉を補充しようとすると、どこで頼んだのかも、誰に頼めばいいのかも分からない。記録がどこにも残ってなかったんだ」

「どこにも?」

「そう。皇宮に運ばれる食糧はスティも知っての通り、全部記録されるだろ? どこから来た、どこに回された、何のために使われたかって。でもね、この茶葉だけは、そういう記録が一切なかった。で、それが回り回って内務大臣の耳に入って……僕のところにも届いたわけ」

「……誰かの私物だとか?」

「であれば、とっくに『誰のものか』わかっていると思うんだ」

「どこから来たのか謎のお茶ね」

「そう。これは由々しき事態だよ。正体も出所もわからない茶が、気づけば宮中のあちこちで飲まれてる。しかも、また飲みたいって声が後を絶たないらしい。……で、いつの間にか、こう呼ばれるようになったんだ。飲みたいのに飲めない茶『幻の一杯』ってね」

 ステラは手に持つ閉じられた扇を、ゆっくりとテーブルに置いた。そしてティーカップを手に持つ。

 中に淹れられている紅茶を見つめ

「幻の一杯……ね」

 思案するように、一人呟いた。

「でもどうして、私にこの話を?」

「これは見過ごせない管理の不備だ。でも俺が表立って動くと大事になり、勤め人たちは委縮する。もし何かの策略がその茶葉にあったのだとしたら、後ろ暗い者たちは隠そうとするだろう? だから宮廷内の者は動かせない。最初に飲んでいたのは女官や侍女たち。なら、僕より同じ女性のほうが話を引き出せる。但し、それなりに地位があり、賢い立ち回りが出来て、俺が信頼する人……ここまで言えば、分かるでしょ? スティ」

「なるほど。それは光栄ね」

「それとね。最後、これが一番重要なんだけれども」

「なあに?」

「俺とスティが一緒に過ごす時間が増えるでしょ?」

「……」

 そう言ってルシアスは、ウィンクをした。それを軽く受け流したステラ。

「そういえば、ルシは『幻の一杯』を口にしたことはあるの?」

「いいや。これも不思議なんだが、皇族や重臣、高位の臣下たちはその存在すら知らなかったんだ」

「高位の者は誰も、口にしてないの?」

「そうだよ。侍従長でさえ知らなくて、そういう噂を聞いたのは最近だと話してたからね」

「どうしてなのかしら? とても限定的な範囲で飲まれてたってこと?」

「勤め人の間では、広がって行ったみたいだけれどもね」

「そういえば、女官や侍女たちから広まったと言っていたわよね?」

 そこでルシアスは、コクリと頷く。

「女官たちの詰め所に行ってみるかい?」

「ええ。話を聞いてみたいわ」

 こうしてステラとルシアスは、皇宮にある女官たちの詰め所へと足を運ぶことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

エメラインの結婚紋

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢エメラインと侯爵ブッチャーの婚儀にて結婚紋が光った。この国では結婚をすると重婚などを防ぐために結婚紋が刻まれるのだ。それが婚儀で光るということは重婚の証だと人々は騒ぐ。ブッチャーに夫は誰だと問われたエメラインは「夫は三十分後に来る」と言う。さら問い詰められて結婚の経緯を語るエメラインだったが、手を上げられそうになる。その時、駆けつけたのは一団を率いたこの国の第一王子ライオネスだった――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

処理中です...