私の恋の話、聞いてくれますか?

苺迷音

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92 秋麗祭に向けてー10-

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 翌日、私たちは早速、準備室を片付け始めた。

 思っていた以上に荷物は多く、セット用の布や板、小道具、それと衣装周りの箱や道具まで。みんなで手分けしてセレスト宮の稽古場へ荷物を運びやすいように纏めていった。

 「クララそれ、そっちじゃなくて、こっちの箱に入れていいよ」
 
 「あ、ほんと? ありがとマリア!」

 こんなときでも、クララの笑顔は元気をくれる。
 つられて私も頬が緩んだ。

 エメさんは自分の衣装箱を抱きしめるみたいに大事そうに持っていて、アガーテさんは何やらノートを見ながら小声で台詞をぶつぶつ。アシュレイくんに至っては、舞台の設計図を片手にずっと目がキラキラしてる。
 ミアちゃんとジョシュアは、書き込んでいた楽譜を丁寧に纏め、箱に入れてゆく。

 なんだかんだで、みんなすごく楽しそう。

 私も、そういう顔してるのかな。
 ……いや、してるといいな。

 だって、セレスト宮だよ?夢みたいな話だ。
 もちろん、まだまだ不安だってある。
 胃が変な感じするし、前日は緊張で、夜眠れなくなりそう。

 でもそれ以上に、ちょっとワクワクしてる自分もいる。

 よし! 私も頑張らなきゃ。

 そう思って、箱を一つ抱えた時。
 視線の先で、フェリシオ様がモレノ様と並んで、何か話し込んでいるのが見えた。

 いつもみたいに穏やかな顔だけど、よく見ると真剣な目。

 フェリシオ様も、私たち以上に色んな事を考えて下さっているんだろうな。

 このお芝居で、何度もフェリシオ様に背中を押して頂いた。

 今まで知らなかった一面もたくさん垣間見れた。

 そんなことを考えていると、モレノ様が昨日同様に号令をかけられた。
 
 そして――

 モレノ様から伝えられたのは、思いがけない返答だった。

「残念ですが……グレア先生は、美術専攻の生徒たちの秋麗祭展示が立て込んでいて、力になりたいけど無理だと言う事でした」

 その言葉に、部屋の空気が一気に萎んでゆく。
 
「そうなんですか……」

 私の声も、小さくなった。
 脚本を褒めてくれて、あんなに嬉しそうに話してくれてたから。
 でもそうだよね。美術の先生だもの。
 秋麗祭は芸術祭みたいなものだから、先生もお忙しくて当たり前だよね。

 「ですが」

 俯きかけた私の視界に、書類を持ったモレノ様の落ち着いた顔が入る。

「代わりと言っては何ですが、学園側で責任者として別の教員を探してくださるそうです。近日中には結論が出るでしょう。ですので、どうか心配なさらずに」

「……よかった」

 思わず胸を撫で下ろした。
 でも同時に、グレア先生に見守ってほしいって気持ちも、どこかにあった。

 「という事で、準備は予定通り進めておいてください」

 モレノ様のその言葉に、みんなも小さく息をついて頷いた。

「ああそれと。グレア先生からのご伝言です。当日は必ず観に来られるそうで『這ってでも行く!』と、仰られてました」

 そこまで言ってモレノ様は、ふっと口元を緩めた。
 グレア先生の姿を思い出していたのかもしれない。



 荷物を纏め終えた私たちは、とりあえず、劇の稽古を続けた。

 フェリシオ様の幼馴染のポジションの配役には、モレノ様。
 お二人が立つと、本当に絵が美しくて。
 色々と目の保養になったりする。

 アガーテさんなんて「素晴らしい! 神の所業でございます!」って、何度もそう言ってるし。
 でも否定はしない。本当にそれくらい素敵すぎる。

 そうしていると。

 準備室の扉がノックされたと思ったら、もう開いていて。
 そこに立っていたのは、ラフな格好をしている若い男性だった。
 
 茶色がかった金髪にどこか狼みたいな目をした、琥珀の瞳。
 シュっとした鼻筋と薄い口元が、とても中性的で。
 スラっとした姿勢は、まるで騎士のようではあったけれども……。
 それとはまた違う、表現しがたい色気というか軽さがあった。
 
「よぉ。グレアに押し付けられてな。責任者ってやつ、俺がやることになった」

「ラディス先生!? ここで!?」
 
 クララが思わず声を上げる。

「おっ! ラディス先生が責任者か!」

 アシュレイくんは知ってる先生みたいで、少し嬉しそうに言った。

「お? アシュレイも居たのか。めんどくせぇけど、まっ。暇つぶしにはなるだろ」

 それだけ言って、ラディス先生? は口元を吊り上げた。
 なんか……。
 先生って言うのも驚きなんだけど……。
 責任者がこの先生で、大丈夫なのかな。

「この部屋だけで、美男子図鑑が作れそうだよねぇ」

 って、ミアちゃんがぽつりと呟いた。
 その横でクララも「ほんとだよねぇ」って息をつく。

「俺はラディス・アストレイン。一応、剣術の指導やってる。よろしくな。……で、これ全部セレスト宮に運ぶんだろ? どれから持ってけばいい?」

「え、あ……はいっ!」

 みんなの声が一斉に重なった。
 ラディス先生って、年が近そうだからか、教師って感じがあんまりしない。

「先生も、手伝ってくださるんですか?」

 思わず問いかけた私に、ラディス先生は肩を軽くすくめて、悪戯っぽく口元を吊り上げた。

「おう。人も荷物も多いんだろ? だったらみんなでやった方が早ぇし、それに」

 そう言って、ゆっくり視線をみんなへ滑らせ、ちょっと意地悪そうに笑う。

「アシュレイ、お前は俺と一緒に重い荷物な」

「相変わらず、人遣い荒いなぁ」

 そう言いつつも、アシュレイくんは小さく笑って上着の袖を捲った。

「皆でやろうか」

 フェリシオ様は楽しそうに、積まれた木箱へ視線を向けておられる。

「じゃ、俺はこっちのデカいやつからいくか」

 ラディス先生はそう言うと、鉄材が詰まったいちばん重たい木箱をひょいと持ち上げた。
 そのまま肩に軽々と担いで

「気をつけてくださいね!? それ……!」

 思わず声が裏返った私に、ラディス先生は琥珀色の瞳を細めて笑った。

「心配すんな。お前らの大事な舞台だろ? 雑に扱わねーからさ。ほら、行くぞ。俺が先に汗かいてやる」

 なんか……。
 ちょっと乱暴そうで怖いのに、こんなふうに言われると嬉しくもなる。

 顔を見合わせた私たちは、自然と笑みが零れた。
 それから一緒に荷物を抱えて、セレスト宮へ向かうことになった。

「荷車で纏めて運んだ方が、速いと思うが……」

 と、レオニードが静かに呟く。
 でもラディス先生とアシュレイくんは、もう荷物を担いだまま、さっさと廊下の向こうに消えていった。

「……もう遅いようだな」

 て、苦笑してた。
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