私の恋の話、聞いてくれますか?

苺迷音

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94 秋麗祭に向けてー12-

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 プティスの間――稽古場で箱を整頓しているとき、私は荷車から一つ箱を取り出し、エメさんの方へ向けた。

「エメさん、これ。先日話してた靴なんですけど」

 そう。前にエメさんから「いい靴がない」と言われて、パッと頭に浮かんだのがノルデカルで買った『ルーンシア』だった。履き心地はもちろん、見た目も凄く可愛い、私のお気に入り。

 箱を開けたエメさんは、目を輝かせた。

「ちょっと! すっごくいい♡ いいわ! とっても可愛い♡ これ、どこで買ったの?」

「この夏、ノルデカル国に遊学したときに買ったんです」

「へぇ! フェリシオ様とモレノくんの母国ね♡ いいわねぇ~。こっちじゃ売ってないのかしら」

 エメさんは見た目をすっかり気に入ってくれて、衣装の靴はルーンシアに決まった。

「ねぇねぇマリア♡ ノルデカルのファッションって他にはどんなのがあるの? そういえば毛皮も有名よね♡」

「エルフリズっていう、ワンピースドレスとかシャツがあって――」

 それから私とエメさんは、荷物整理をしながらノルデカルの服についていろいろ話し込んだ。

 ふいにフェリシオ様と目が合う。
 彼は嬉しそうに、そっと頷いてくださった。

「ノルデカルの幻の布って知ってる? 私ね、いつかその布でドレスを作るのが、夢のひとつなのよ♡」

「もしかして……ルミヴェールの布のことですか?」

 いつの間にか、小箱をいくつも抱えていたエリザさんが近くにいた。

「そう、それ♡ 私、あの布を見たとき本気で恋しちゃって♡」

 そういえば――
 私もフェリシオ様から、ルミヴェールの布で仕立てたドレスをいただいたっけ。
 夢みたいに綺麗なドレス。またいつか着たいな。

「そんなに多くはありませんけれど……。ヴェールやリボン程度でしたら、手元に余りがありますの。よろしければお分けしましょうか?」

 エリザさんの申し出に、エメさんはぱっと顔を輝かせた。

「うそっ! 本当!? いいの!? もしよかったら、買わせてほしいわ!」

「いえ、お代は結構ですわ。私も眠らせておくより、何かに使っていただけるほうが嬉しいですもの」

「エリザ♡ ありがとう♡ 夢みたい! あの布に触れられるなんて♡」

 嬉しさを抑えきれないのか、エメさんはその場でくるくると回っていた。
 その姿が余りにも可愛くて、私とエリザさんは目を見合わせて、思わずくすっと笑った。

  ある程度片づけが済んだあとは、その日はみんなで休憩をとることに。

 机を囲んで、おしゃべりしたり、芝居について熱く語り合ったり。

 輪の中にはラディス先生もいて、一緒になって笑い合っている。

 見た目はちょっと悪っぽいけど、話してみるとすごく気さくで、人のいいお兄さんって感じの先生だ。アシュレイくんなんか、ラディス先生と冗談を言い合っては、大声で笑ってる。

「ラディス先生は、婚約者さんとかいらっしゃるんですか?」

 いきなりミアちゃんが、ドーン!と効果音がつきそうな勢いで爆弾を投げ込んだ。

「いや、そういう相手はいないな」

 気のせいかな?
 一瞬だけ、ラディス先生の瞳が寂しげに揺れたように見えた。

「えー、モテそうなのにぃ」

 不思議そうに首を傾げるミアちゃん。
 うん、確かに。ラディス先生って絶対モテると思う。

「褒めてもらえて嬉しいが……まあ、一生独身でもいいかなって思ってるよ。俺、次男だしなぁ」

 なんとなく、しんみりした空気が漂った。

「ほら♡ 運命の相手にまだ出会えてないだけかもよ♡ 先生も諦めないで♡」

 エメさんが慰めるようにラディス先生の肩をぽんぽん叩く。

「先生はな、剣が恋人みたいなもんだから! あとガサツだからモテねぇんだよ」

 そう言って豪快に笑ったのはアシュレイくん。

「お前は次のクラブで、振りの練習百回上乗せな」

「マジで!? 余計なこと言うんじゃなかったー!」

 みんなから笑い声がこぼれた。

 劇場の職員さんが用意してくれたカモミールティーを飲みながら、こんな時間もいいなって、自然と頬が緩んでいった。



 その日の夕食で。
 
 最近その時間は、家族への秋麗祭の報告が恒例となっていた。

 今日のメニューは私の大好きな、舌平目のムニエルに焦がしバターソースをかけたもの。それを堪能し、口の中が幸せに包まれながらも、姿勢を正しお父様とお母様を見る。

「お父様、お母様。報告があるの。実はね」

 そこでひとつ、息を吐いてから続ける。
 
「私たち、セレスト宮で、公演することになったの」

「んぐっ!」

 変な声を出したのは、お父様。

 お母様も「えっ……? まぁ……。え?」と、言葉を理解できないでいるみたい。

「それ、なんかの食べ物屋?」

 唯一いつも通りなのは、ジルベストだった。
 付け合せのズッキーニをもぐもぐしながら、のんきに首を傾げてる。

「セ、セレスト宮って、あのセレスト宮なのか?」

「うん。そのセレスト宮。色々と警護の観点からも、そうして欲しいって学園長が仰られたみたいで」

「あー……」
 
 お父様とお母様が同時に、納得したような声を出した。

「これは……大変だわ。アリーナに相談しなくては!」

「マリア。これは大変に恵まれた機会だぞ。私も幾度か観劇したが、どれも素晴らしい時間だったよ」

「そうねぇー。お父様とお母様も、若い頃にセレスト宮で、デートしたわぁ……。懐かしいわね。あなた」

「そうだな。あの頃みた演目は……。確か、眠る姫の森だったか?」

「違いますわよ。セレスト宮の怪人でしたわ。誰と行ったんですの?」

 ちょっと不穏な空気が流れた。
 でもお母様の口元は、片方だけきゅっと上がっていて……
 あれはお父様を揶揄ってる顔だ。
 
 案の定、お父様は必死で

「お前としか行っていない!」

 って弁解してる。
 可哀想だなって思いつつ。
 でもなんだか楽しそうで、見てるこっちまで頬が緩んじゃった。

「で、セレスト宮って、食べ物屋なの?」

 ジルベストは、どこまでいってもジルベストだった。
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