僕が転生した世界で、前世の恋人が元ストーカー男と婚約していたので、命がけで阻止します。

悠木菓子

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 22、お茶会

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 ある日、ヴァイスはタリダルに呼ばれた。

「オルドリー嬢に、一度会っておきたい」
「わかりました。誘ってみます。言っておきますが、もの凄く美人なので驚かないでくださいね」
「惚気か。お前、そんな性格だったか?」






 ということで、ヴァイスは週末リフィアを家に招待した。


 馬車を降りるリフィアをエスコートする。
 トリガー公爵家の屋敷を見上げるリフィアは、緊張で手が震えている。
 屋敷の大きさや美しさに圧倒されているだけではない。
 これからヴァイスの家族に会うため、粗相をしないか、嫌われないか、などの不安で緊張を抑えられない。
 昨夜はほとんど眠れなかった。

「なんて立派なお屋敷・・・」
「将来、君もこの家に住むんだよ?」
 顔が真っ赤になったリフィアが可愛すぎて、ヴァイスは思わず頬にキスをする。
「もう、ヴァイス様!こんな所で!」 
「他の場所でならいいの?じゃあ後で二人きりになったら、いっぱいするからね」
 リフィアは耳まで真っ赤になってしまった。
「余計緊張しちゃうわ!」
「はははっ」

 ヴァイスはリフィアに、命を狙われていることは話していない。
 心配かけたくないからだ。
 さらに、普段シャッテンがリフィアを陰から護衛していることも秘密にしている。
 ヴァイスの命を狙っている者が、リフィアを傷つける可能性は低いだろうが念のためだ。

 

 二人は屋敷に入ると、トリガー一家と使用人たちに出迎えられた。
「ようこそ、オルドリー嬢」
 タリダルの声と表情から、ご機嫌であることが伝わってくる。
「私はこの家の主、タリダル・トリガーだ」
 そう言って、ジュリアとナタリーゼを紹介する。
 長女は仕事があり、今日は来れなかったみたいだ。
 紹介された二人は、上品な笑みを浮かべ挨拶をする。
 緊張でガチガチなリフィアも、慌てて挨拶を返す。
「リ、リフィア・オルドリーと申します!本日はお招きいただき、ありがとうございます!」


 
 応接室に移り、座るよう促され、リフィアはヴァイスの隣に腰を下ろす。
 侍女が手際よく、お茶やお菓子を用意する。

「ヴァイスって面食いなのねー」
 ナタリーゼがリフィアをまじまじと見ながら言った。
「リフィアは顔だけじゃなく、性格も可愛い。声も仕草も、全てが可愛い。学園の成績も優秀だし、非の打ち所がありません」
 褒めちぎられ、リフィアは冷や汗が浮かび上がる。
 家族の前で、ハードルを上げられてしまったからだ。

「ところで姉上、今日くらいは女性らしい格好をしてくださいよ」
 ナタリーゼは、男性のようなパンツスタイルだ。
「この短い髪に、ドレスは合わないのよ」
 そう言って、指で髪先を触った。
 普段旅をしているナタリーゼは、長い髪が邪魔なのか、ショートカットだ。

 ダルダルは話題を変える。
「オルドリー嬢、今日は来てくれてありがとう。息子が骨抜きになっているご令嬢に会っておきたくてな。うむ、確かに可愛いらしいお方だ」
「恐れ入ります・・・」
 リフィアは嬉しいやら恥ずかしいやらで、顔を上げることが出来ない。
 ヴァイスは得意気に言う。
「だから言ったでしょう?」

 そしてリフィアへ、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「オルドリー嬢はヴァイスのどこに惹かれたのかな?」
「リフィアちゃん、剣術ってお好き?ヴァイスと結婚したら、剣を教えたいわぁ」
「他国に新婚旅行するなら、私が計画立ててあげようか?いい所たくさん知ってるよ」
「ウエディングドレスはどんなデザインがいいかしら?」

 ルナントフと婚約解消すら出来ていないのに、ヴァイスとの結婚が決定しているかのような質問を投げかけてくる。
 みんな、リフィアを受け入れている証拠だ。

「落ち着いてください。気が早いですよ。まだルナントフと婚約解消していません」
 ヴァイスは至って真面目な表情だ。
 対してタリダルは余裕の笑みを見せる。
「なあに、問題ない。オルドリー嬢、ヴァイスから聞いていると思うが、婚約解消は必ずできるから心配ないよ」

 リフィアは心強い味方に頭を下げる。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」







 トリガー家とのお茶会が終わり、ヴァイスはリフィアを自室に連れて来た。

「とても緊張したわ!」
 といっても、まだ緊張している。
 なぜならここはヴァイスの部屋だからだ。
 リフィアは部屋を見渡す。
 航太の部屋は汚くはなかったが、物が多かった。
 ヴァイスの部屋は、家具も壁も白色と茶色で統一されていて、広くてきれいだ。

「みんなリフィアのこと気に入ったみたい」
「そう、かな?そうだと嬉しい。みなさまちょっと個性的だけど、優しかったわ。私のこと知ろうとしてくれた」
「ははは、確かに個性的だよね」と、声を出して笑っている。
「悪口じゃないからね!?厳格な方々なのかなって想像してたから・・・」

 リフィアはなんとか話題を変えようとする。
「ところで、ルナントフ様との婚約解消に向けて、どんなことをしているの?」
 ヴァイスはなんて答えて言いのか迷う。
 自分が命を狙われていることや、シャッテンの存在は伏せて、事実に近いことを話す。

「父がハイルトン侯爵を調査しているんだよ。叩けば埃が出る人らしい。不祥事を公にして、婚約解消を迫る・・・って感じかな」
「そう・・・うまくいくといいな」
 リフィアは詳しくは聞いてこなかったが、納得したようだ。

 ヴァイスはリフィアの肩を抱き寄せ、頬にキスをする。
「あ、あの、ヴァイス様っ!」
「さっき、いっぱいするって言ったよね?」
 唇、頬、瞼、耳、いくつものキスを捧げる。
 リフィアは目をギュッと閉じ、微動だに出来ない。
 前世では普通にキスしていたのに、現世では異常に照れてしまう。
 いや、ヴァイスに甘い言葉をかけられるだけで、顔を赤くしてしまう。

 ヴァイスの動きがピタリと止まる。
「そういえば、いつになったらヴァイスって呼び捨てで呼んでくれるの?」
「ええ!?えーっと・・・」
 真っ赤になっているリフィアに、ヴァイスは容赦なくおねだりする。
「ヴァイス、って呼んでほしいな」
 甘えた表情でリフィアを覗き込む。

 リフィアは呼びたいと思っているのだが、今まで照れくさくて呼べなかった。
 いつかは、と思って先延ばしにしていたが、ついにそのときが来てしまった。
 前世でもなかなか呼び捨てにできず、ヴァイスは当然、それを知っている。

 しかし、この甘えモードのヴァイスを無下に出来ない。
 まるで子供のように可愛い。
 リフィアはヴァイスを見つめ、勇気を出して呼んでみる。

「・・・ヴァイス?」
「もう一度」
「ヴァイス!」
「うん」

(リフィアに名前を呼ばれただけなのに、なんて幸せなんだろう。でも・・・)

「なんか照れる」
 ヴァイスは珍しく頬を赤く染めた。
「それ、私のセリフだから!」
 ヴァイスは手を伸ばし、真っ赤なリフィアの頬を優しく包む。

「僕の可愛いリフィア、愛してる」
「私も愛してるわ、ヴァイス」
 リフィアの小さな唇に、何度も唇を重ねた。

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