魔王エルデネス

葉雲屋

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サルベネス王国の章

6.

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「陛下。降伏に、ルザミネ様を渡すというのは、ルザミネ様はこの国の将軍で……」

「分かっておるさ」

レメノスは、側近一人の耳打ちを制し、次に眉間を押さえた。

「永遠の栄華、黄金だと?そんなものなくとも、サルベネスは今後とも繫栄させてみせる……しかし、我が国の戦力を悉く潰され、抵抗すれば破壊する、と言われると……」

レメノスの手は、震えている。
しばらく、無言の時が流れた。

「……国王。その心労には同情しないでもない。だが余は、この国が欲しくてここに来た」

――一度、だけ、待とう。

と、エルデネスが言う。

「一度だけだ、降伏か、抵抗か。沈黙も抵抗と見なす。どうかね?」

(一度……)

レメノスに、その言葉が、重く落ちる。
やがて、

「ルザミネ、堪えてくれ……」

「!陛下、では」

「国の為、だ。呑むしかない」

レメノスは、ルザミネをたっぷり見たあと、エルデネスの方を見た。

「サルベネスは、降伏する。国の民、より重いものはない。ルザミネも、引き渡す。それで国が救われるのであれば」

「陛下……」

ルザミネが、拳を握りしめる。
しかし、一方の頭では、どうにも分かっていた。他に方法はない、と。

(私に、力が無かったばっかりに!ならばいっそ……いっそ……?)

「ルザミネ」

ルザミネが、ハッと顔を上げる。
見れば、レメノスが、何かを書いていた。それ――降伏署名――を側近の手に渡し、側近が、エルデネスに渡す。

「確かに。――ではルザミネ、こちらへ来たまえ」

「何……?」

「話は決まった。君も武人ならそれくらいの礼節は持っているだろう?来ないなら、力づくで連れて帰る」

「……」

ルザミネは、俯いた。次に、レメノスを見る。レメノスが、ルザミネを見て、少し頭を下げる。その眼に、償いきれない罪を抱えたような、光をたたえて。

(陛下……)

足が動く。
身体の、重さを感じない。エルデネスは、ゆっくり立ち上がり、

「では国王。これで失礼する。……まず、これだけ渡しておこう。”我が国”の繁栄を願って」

収納玉を持ち、指を鳴らす。
テーブルの上に、黄金の詰まった木箱が現れた。

「では、行こう。来い、ルザミネ」

エルデネスが、踵を返し、さっさと歩いてゆく。
ルザミネも、続くしかなかった。後に残されたのは、重い沈黙と、場違いな黄金箱だけ。
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