魔王エルデネス

アシュレ王国の章

5.

セレシアが、ずんずんと段を上ってゆく。
足先が触れる。そんな所まで来た。エルデネスを、見下ろす。魔王の方は、見もしない。先程から、視線を変えていない。
まるでまだ、最初の位置に、セレシアがいるような。

「お前……ッ！」

「対価を説明する」

「対価だァ！？何の！！」

「余のものになる、という事についての」

セレシアが、少しよろめく。

「アシュレは滅んだ。国の栄華は約束してやれんが、この城での贅沢と、王女でも見たことのない黄金を約束しよう」

「要るか、そんなもん！」

セレシアが、エルデネスの胸倉をつかむ。
だが、エルデネスは動かない。まるで床と一体のような重さ。舌打ちして、セレシアが手を離す。
次は、彼女が拳を振り上げたとき――

「”チャーム”」

◇
発情魔法：チャーム
相手は、術者に積極的に発情するようになる。
術者が指定した相手にも、発情するようになる。
◇

……セレシアの手が、エルデネスの肩に置かれた。

「エルデネス様」

「早く」と、顔が赤いセレシアが、荒い息を、エルデネスに吐きかける。

「セレシア」

彼女は、もはや死んだ、と、エルデネスは思った。

「ようこそ。可愛がってやろう」