魔王エルデネス

フィアス連邦の章

1.

フィアス連邦。
サルベネスと、砂漠を分け合う――いや、分け合っていた、砂漠の交易国家。
行き交う商品、立ち並ぶ店のように、この国の形態は雑多、だった。
王政ではない。有力者――連邦員と、連邦長にして魔導師長、バンクルが主導する協議により、政治が決定した。
エルデネスの襲来に備え、フィアスは、魔導士達による防御線を張っている。その中で、バンクルは、エレラという養女に声をかけた。

「来るぞ、エレラ。機を見て暗殺せよ」

「バンクル様。意のままに」





「御機嫌よう！フィアスの諸君！いきなりだが勧告だ──降伏せよ！でなくばこの国は、カラスとハゲタカで賑わう死者の国と化すぞ！」

外套を風にはためかせながら、次いで、制帽のつばを押さえながら、エルデネスが、ゆっくりと降りてくる。
巻きあがる砂塵に姿を隠しながら、魔導士長バンクルが吐き捨てた。

「降伏だと？ふざけた事を……フィアスは渡さん！我々の魔法で貴様を仕留めてやる！」

バンクルの前に、魔法陣が浮かぶ。彼の、深緑色のローブが、次の瞬間、盛大に靡いた。
杖を前に出している。魔法陣の三角から、赤き炎が飛び出した。

「燃えろ、魔王！」

「”ジーナ”」

エルデネスの魔力が、それぞれに潜り込んで――爆発を誘う。

「ぬ、く！皆、結界だ！」

「魔法勝負か。腕が鳴る。”ゼウス”！」

魔導士達の結界の上に、雷。

「ぐおぉ！」

「”ゼウス”！」

紫の、結界が、砕けた。
魔導士達は吹き飛ばされ、バンクルも膝をつく。
と――エルデネスの近くに、

「やぁッ！」

エレラが、飛び掛かった。ナイフを突き出し、次いで、振る。

「なるほど」

と、エルデネス。上半身を二度振って、彼女のナイフを躱した。
エレラの攻撃が続く。エルデネスは、彼女が頭を狙ってきた所で、足を払い、

「”ヒプノ”」

瞬時に、眠らせた。収納玉を持ち、エレラの身体を収める。

「エレラ！」

バンクルは叫んだが、

「しかし……！おかげで、これが出せたわ！行け、”砂王ベルオス”！」

不可思議な砂嵐が、エルデネスの周りに巻き起こる。
それに隠れながら、砂漠の砂が盛り上がる。中に潜む、ベルオスの突進。