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1巻 2章~ガルムと湖の主と炙り寿司と
屋台作戦開始! / 凍った湖とリールライ
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その日の夜は村の教会の離れに泊まらせてもらった。
離れと言っても簡易的なベッドのある部屋で、久々に体をしっかりと伸ばして眠れることだけでも嬉しかった。もちろんフィオナとは別々の部屋だ。離れの横には山羊蹄車と引いてきたヤギ2頭を休ませる小屋もあり、たくさんの藁が置かれていた。
次の日になり、俺とフィオナは酒場の前で待ち合わせた。フィオナがすぐに王都に戻るのかと思って聞いてみた。
「昨日の話を伺ってしまったら、なんだかこのまま帰る気には到底なれなくて」
フィオナも昨日の酒場の一件で考えるところがあったようだ。フィオナは俺の目を見つめると話を続ける。
「いきなりな話ですので、無理な場合は無理とおっしゃってください」
なんとなくフィオナの言いそうなことは分かるような気がする。
「ガルムを説得して、俺とフィオナも加わって聖なる山に向かおうって言うんだろ」
今度は俺がフィオナの目を見ながら伝える。
「どうしてわかったんですか!」
フィオナは驚いたような声を上げる。
さすがにそれぐらいは分かるさ。その気持ちは分かるし、俺もそう思う。だが……
「ガルムを説得するには、まずは下ごしらえが必要だな。何事も準備と順番が大事なんだぜ」
「確かにそうだとは思いますが、レンジさんはどうしたらいいと思うのですか? 」
「まずはガルムの心をほぐす事さ! それには美味しいものを食べさせないとな」
フィオナの形の良い眉が一瞬上がった。俺の真意を理解していない、そんな表情だ。確かに、いきなりこんなことを言われても、理解できないだろうさ。でも、俺の考えはたぶん……間違っていないはず。
ガルムは今、ドラゴンに打ちのめされ、仲間を失い、自信も失い、途方に暮れているところ。つまり『心が折れている』状態だ。そんなガルムに「また行こうぜ!」と誘っても、拒否られるに決まっている。
相手はドラゴンだ。王国騎士団でも勝つのが難しい相手だ。そしてガルムの話では、他にも別の何かがいるらしい。そんな危険な聖なる山に、『折れた心』のまま向かえば、以前の二の舞になるのがオチだろう。
ガルムのその『折れた心』をどうにかしたいと思い始めていた。そう。寿司職人である俺ができること。それを考えたいと思った。
「美味しいものを食べるとみんな元気になるんだ。俺が魚を捌いて食べてもらった時、フィオナは美味しいと思った。元気になったんだ。そういう『気持ちを盛り上げる』ってすごく大事な事なんだ」
「美味しいものですか……レンジさんの言っている事は一理あるとは思います」
考えながら、そう返事をするフィオナ。俺は更に力説する。
「どんな苦しい時でも、美味しいもんを食べれば前向きになれるんだ。俺の寿司にはそういう力があると信じてる! 」
「それで気持ちを盛り上げるために、私たちはどうしたらいいんですか」
フィオナは大きな瞳で見つめ返した。俺は力強く彼女に頷く。
「刺身屋台を開きたいと思うんだ! 」
フィオナが呆気にとられた様な表情を見せた。
俺は乗ってきた山羊蹄車を少し改造することで屋台のようにならないかと考えていた。フィオナは半信半疑だったようだが、俺に考えがあって屋台を作り始めようとしている「そのレンジさんの気持ちを信用したい」と言ってくれた。俺はフィオナが信じてくれたことが正直嬉しかった。
グリューンは姿を現すと状況をすぐに飲み込めたようで「相棒。それいい案だと思うぜ!オイラがそう思うんだから間違いない!」となんとも不確かな言葉で後押しをしてくれた。
俺の考えの決め手となったのは、刺身を食べた時のフィオナの美味しいという反応と、力が満ち溢れたような表情を思い出したからだ。
「もしかしたら、この包丁を使って料理を作ったら気力が回復するのかもしれない」
俺は以前、創元寿司で屋台を出した時があったことを思い出し、その材料を集め始めた。もちろん物資の乏しい辺境のラベルク村。更に今は段々と食料が乏しくなってきている時だ。あまり大量のお願いをするのは気が引ける。
教会にいた二人の神官に頼み、使える木材が無いかと相談。すると近くに廃屋があって、今は誰も住んでいないので使っていいと言ってくれた。俺とフィオナは使える木材を選び出し、荷台に合わせて長さを調整していった。
「作業台が欲しいよな」
比較的平らな木の板を数枚並べて作業台を作る事にした。まな板が欲しかったので、廃材に『生成』の魔法をかけ、まな板を作成。ほんとこの魔法が便利だ。
屋台を作る作業は数日間かかった。このころには、村の子供たちや他の村人たちが興味本位で見に来るようになっていた。雪が降り止んでいる時間帯を選んで、ゆっくりと俺とフィオナ、グリューンは屋台作りを進めていった。
「刺身にする魚だけどさ……」
俺にはその当てがあった。毎日通っていた村の酒場のゼルバスさんから、ある情報を聞いていたんだ。ラベルク村に俺たちが辿り着いた時に、凍り付いた大きな湖の横を通った記憶があった。そこには『リールライ』という20センチくらいの魚がいること。この寒さでかなりの深さまで潜ってしまっていて、湖の表面が氷に覆われた現状では手に入れられないこと。そのリールライは秋になるとラベルク村の収穫祭で丸焼きにして食べていたこと。
その情報を頼りに、俺達は凍った湖に足を運んでいた。
「まずはこの凍った湖面に穴を開けて、釣り穴を作るんだ」
俺は包丁を取り出すと、炎の力を頭の中で強く念じる! 包丁の『萌炎』と書かれた銘が赤く光を帯び、念じる強さに応じて炎の強さも強くなるイメージだ。
「すごい炎の勢い……こんな魔法の包丁が存在するなんて! 」
フィオナのびっくりする声も段々と慣れてきてしまった。グリューンはそれを見ながら鼻高々になっている。確かに包丁の化身=グリューンだから、そうなる気持ちも分かるんだけどな。
まず湖面に炎を出した包丁を突き立てる。そのまま包丁の炎を一点に集中させて、ゆっくりと氷を溶かしていく。分厚い氷に穴が開くまでしばらく時間が掛かった。穴が開くと丁寧に氷を大きな丸い形に切り抜いていく。湖面の氷の厚さは20センチくらいか……けっこう分厚い!
やる前には自分の体に『保温』を使っているが、それでも体温が少しずつ奪われていくのが分かる。春になっているのに、この気候ってやっぱり異常だな。ガルムの言うホワイトドラゴンの影響って本当なんだな。
次に包丁に念じて魔法の釣り竿に変化させる。
「段々腹が減ってきたな……」
俺の魔力のバロメーターは腹の減り具合。この寒さの中だと減りが早いのかもしれない。早くしないとなと焦りながら、竿の先から垂れている魔法の釣り針を冷たい湖の中に投げ入れた。釣り針が湖面の中で青白い光を放ちながら、魚を誘っているかのように鈍く揺れているのが見えた。
やがて手元に微かな振動が伝わってきた! 静かに慎重にリールを巻き上げる。湖面を破って現れたのは、体長が20センチほどの銀色の魚。これがリールライだな。俺の直感がそう告げていた。
「よし……これは旨い! 生で食べれるぞ」
俺は静かにつぶやいて、魚を優しく自分の掌で包み込んだ。
この時、俺たちの釣り上げた魚の匂いにつられて、動きを潜めながら湖の底を動く大きな影の存在にまだ気づけなかった。それは久しぶりの獲物を求めて、湖面から外に向かって顔を出そうと、少しずつ湖の中を上昇していった。
離れと言っても簡易的なベッドのある部屋で、久々に体をしっかりと伸ばして眠れることだけでも嬉しかった。もちろんフィオナとは別々の部屋だ。離れの横には山羊蹄車と引いてきたヤギ2頭を休ませる小屋もあり、たくさんの藁が置かれていた。
次の日になり、俺とフィオナは酒場の前で待ち合わせた。フィオナがすぐに王都に戻るのかと思って聞いてみた。
「昨日の話を伺ってしまったら、なんだかこのまま帰る気には到底なれなくて」
フィオナも昨日の酒場の一件で考えるところがあったようだ。フィオナは俺の目を見つめると話を続ける。
「いきなりな話ですので、無理な場合は無理とおっしゃってください」
なんとなくフィオナの言いそうなことは分かるような気がする。
「ガルムを説得して、俺とフィオナも加わって聖なる山に向かおうって言うんだろ」
今度は俺がフィオナの目を見ながら伝える。
「どうしてわかったんですか!」
フィオナは驚いたような声を上げる。
さすがにそれぐらいは分かるさ。その気持ちは分かるし、俺もそう思う。だが……
「ガルムを説得するには、まずは下ごしらえが必要だな。何事も準備と順番が大事なんだぜ」
「確かにそうだとは思いますが、レンジさんはどうしたらいいと思うのですか? 」
「まずはガルムの心をほぐす事さ! それには美味しいものを食べさせないとな」
フィオナの形の良い眉が一瞬上がった。俺の真意を理解していない、そんな表情だ。確かに、いきなりこんなことを言われても、理解できないだろうさ。でも、俺の考えはたぶん……間違っていないはず。
ガルムは今、ドラゴンに打ちのめされ、仲間を失い、自信も失い、途方に暮れているところ。つまり『心が折れている』状態だ。そんなガルムに「また行こうぜ!」と誘っても、拒否られるに決まっている。
相手はドラゴンだ。王国騎士団でも勝つのが難しい相手だ。そしてガルムの話では、他にも別の何かがいるらしい。そんな危険な聖なる山に、『折れた心』のまま向かえば、以前の二の舞になるのがオチだろう。
ガルムのその『折れた心』をどうにかしたいと思い始めていた。そう。寿司職人である俺ができること。それを考えたいと思った。
「美味しいものを食べるとみんな元気になるんだ。俺が魚を捌いて食べてもらった時、フィオナは美味しいと思った。元気になったんだ。そういう『気持ちを盛り上げる』ってすごく大事な事なんだ」
「美味しいものですか……レンジさんの言っている事は一理あるとは思います」
考えながら、そう返事をするフィオナ。俺は更に力説する。
「どんな苦しい時でも、美味しいもんを食べれば前向きになれるんだ。俺の寿司にはそういう力があると信じてる! 」
「それで気持ちを盛り上げるために、私たちはどうしたらいいんですか」
フィオナは大きな瞳で見つめ返した。俺は力強く彼女に頷く。
「刺身屋台を開きたいと思うんだ! 」
フィオナが呆気にとられた様な表情を見せた。
俺は乗ってきた山羊蹄車を少し改造することで屋台のようにならないかと考えていた。フィオナは半信半疑だったようだが、俺に考えがあって屋台を作り始めようとしている「そのレンジさんの気持ちを信用したい」と言ってくれた。俺はフィオナが信じてくれたことが正直嬉しかった。
グリューンは姿を現すと状況をすぐに飲み込めたようで「相棒。それいい案だと思うぜ!オイラがそう思うんだから間違いない!」となんとも不確かな言葉で後押しをしてくれた。
俺の考えの決め手となったのは、刺身を食べた時のフィオナの美味しいという反応と、力が満ち溢れたような表情を思い出したからだ。
「もしかしたら、この包丁を使って料理を作ったら気力が回復するのかもしれない」
俺は以前、創元寿司で屋台を出した時があったことを思い出し、その材料を集め始めた。もちろん物資の乏しい辺境のラベルク村。更に今は段々と食料が乏しくなってきている時だ。あまり大量のお願いをするのは気が引ける。
教会にいた二人の神官に頼み、使える木材が無いかと相談。すると近くに廃屋があって、今は誰も住んでいないので使っていいと言ってくれた。俺とフィオナは使える木材を選び出し、荷台に合わせて長さを調整していった。
「作業台が欲しいよな」
比較的平らな木の板を数枚並べて作業台を作る事にした。まな板が欲しかったので、廃材に『生成』の魔法をかけ、まな板を作成。ほんとこの魔法が便利だ。
屋台を作る作業は数日間かかった。このころには、村の子供たちや他の村人たちが興味本位で見に来るようになっていた。雪が降り止んでいる時間帯を選んで、ゆっくりと俺とフィオナ、グリューンは屋台作りを進めていった。
「刺身にする魚だけどさ……」
俺にはその当てがあった。毎日通っていた村の酒場のゼルバスさんから、ある情報を聞いていたんだ。ラベルク村に俺たちが辿り着いた時に、凍り付いた大きな湖の横を通った記憶があった。そこには『リールライ』という20センチくらいの魚がいること。この寒さでかなりの深さまで潜ってしまっていて、湖の表面が氷に覆われた現状では手に入れられないこと。そのリールライは秋になるとラベルク村の収穫祭で丸焼きにして食べていたこと。
その情報を頼りに、俺達は凍った湖に足を運んでいた。
「まずはこの凍った湖面に穴を開けて、釣り穴を作るんだ」
俺は包丁を取り出すと、炎の力を頭の中で強く念じる! 包丁の『萌炎』と書かれた銘が赤く光を帯び、念じる強さに応じて炎の強さも強くなるイメージだ。
「すごい炎の勢い……こんな魔法の包丁が存在するなんて! 」
フィオナのびっくりする声も段々と慣れてきてしまった。グリューンはそれを見ながら鼻高々になっている。確かに包丁の化身=グリューンだから、そうなる気持ちも分かるんだけどな。
まず湖面に炎を出した包丁を突き立てる。そのまま包丁の炎を一点に集中させて、ゆっくりと氷を溶かしていく。分厚い氷に穴が開くまでしばらく時間が掛かった。穴が開くと丁寧に氷を大きな丸い形に切り抜いていく。湖面の氷の厚さは20センチくらいか……けっこう分厚い!
やる前には自分の体に『保温』を使っているが、それでも体温が少しずつ奪われていくのが分かる。春になっているのに、この気候ってやっぱり異常だな。ガルムの言うホワイトドラゴンの影響って本当なんだな。
次に包丁に念じて魔法の釣り竿に変化させる。
「段々腹が減ってきたな……」
俺の魔力のバロメーターは腹の減り具合。この寒さの中だと減りが早いのかもしれない。早くしないとなと焦りながら、竿の先から垂れている魔法の釣り針を冷たい湖の中に投げ入れた。釣り針が湖面の中で青白い光を放ちながら、魚を誘っているかのように鈍く揺れているのが見えた。
やがて手元に微かな振動が伝わってきた! 静かに慎重にリールを巻き上げる。湖面を破って現れたのは、体長が20センチほどの銀色の魚。これがリールライだな。俺の直感がそう告げていた。
「よし……これは旨い! 生で食べれるぞ」
俺は静かにつぶやいて、魚を優しく自分の掌で包み込んだ。
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