【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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1巻 4章~聖なる山とドラゴンと春の精霊と

精霊と竜を繋ぐ呪縛

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 その瞬間、大きく周囲の空気を吸い込み、ドラゴンが全ての力を放出するような咆哮を上げる!
 咆哮が、音ではなく質量を伴った壁となって叩きつけられる。呼吸ができない。肺が押し潰されるような、全身の血が鉛になったかのように手足が動かない。

「ものすごい竜の威圧だ。これで中クラスだと! レンジ、魔力エルナを腹の底に込めて耐えろ! 一気に意識が刈り取られるぞ! 」

 魔力エルナを腹に込める?よく分からんが、こうか! 腹回りに力が集まる様に必死にイメージを繰り返す。

『シャウザニークの祝福ブレス! 』

 フィオナの凛と張りつめた様な大きな声が辺りに響く! 俺の身体の周りに薄い魔力の膜とでもいうようなものが張られる。その薄い膜はガルムやエレノール、フィオナにも張られている。

『抵抗値上昇を確認…能力ポテンシャル、プラス1……2に上昇! 攻撃力や回避に微細なプラスの効果を認めます! 』

 エレノールがコンピューターが発するような、無機質な抑揚の無い声を発する。それはまるで、的確な状況判断を促してくれるような、不安や気後れといった感情に流されないように、道しるべとなってくれる。
 その時、肩の上に乗っているグリューンが、大きな声を出してドラゴンに呼び掛ける。

「おいおい! せっかく昔の仲間が来たって言うのによ。閉じ込められたとはいい挨拶じゃねぇか! さっさと姿を見せやがれ、ニルフ! 」

 (ニルフと言ったのか……グリューンが春の精霊と知り合い? マジか! )

 ホワイトドラゴンがグリューンに大声で呼びかけられ、その動きを止めたのが見えた。足元の黒い鎖が禍々しく蠢く。

『すまぬ。きゃつの……きゃつの力だ! 我を縛りし邪なる力。この地からきゃつが居なくなっても、この呪縛は我の身体を縛り付ける! ヒトたちよ、すまぬ』

 苦し気に身じろぎするホワイトドラゴン。その言葉を聞き、俺とガルムが同時に同じ結論に達する。

「ホワイトドラゴンよ。今の言葉は真実か! 黒ローブの男がこの場にはもういないのか! お前はやつに魔法で操られているのか」

『我の言葉を疑うか獣人よ。我の足もとを脅かす黒い鎖が見えぬというのか! 我とニルフの化身を、きゃつは縫い付けるようにこの忌まわしき鎖で縛り付けたのだ。ゆえにこの地には春が訪れぬようになったのだ! 口惜しや口惜しや』

 黒ローブの男がドラゴンと精霊を縛り付ける呪いの術を施した。それで春の精霊はドラゴンの中に閉じ込められ、ドラゴンもこの地に縛られてしまった。だからこの聖なる山一帯が春にならないというわけか。

「ホワイトドラゴン様、どうにかならないのでしょうか! わたしたちは貴方様と戦うためにここまで来ました……ですが、戦う必要がないのであれば、なにか違う方法があるのであれば! お教えいただけないでしょうか」

 フィオナの優しい心。できればドラゴンと戦いたくはないんだろう。俺だって今の話を聞いてしまうとそう思う。ガルムとエレノールも複雑な表情をしている。

「相棒、あるぜ。たった一つの方法だ! ゼルビスそうさ! お前の持っている『神の包丁』ならそれができる! 」

 グリューン、神の包丁なら出来るっていきなり言われても訳分かんないだろ。
 ぐるる……と大きく喉を震わせるような咆哮を出しながら、ホワイトドラゴンが俺に向かって苦し気に語り掛けてくる。

『お前の持つ『神の包丁』の一撃であれば、我とニルフを分かつことも可能であろう。しかしその為には、我とニルフに課された呪縛を解き放つ必要がある』

 ホワイトドラゴンは俺の更に後ろに視線を移す。その視線の先には杖を構えたエレノール。

破邪導術ディスペル・エルナ……ね」

 エレノールが頷くようにして呟く。破邪導術? あれか魔法を強制的に除去するってやつなのか。それで鎖を消し去って、その上で神の包丁の力を使う……そういう事か!

「今のあたしならかなり魔力エルナの消耗はするけど、『破邪導術ディスベル・エルナ』を扱う事ができるわ! でも術が完成するまでにはだいぶ時間が掛かるわよ。その時間的余裕を……その鎖がさせてくれるかしら」

 エレノールがホワイトドラゴンの鎖を忌々いまいまし気ににらむのが分かった。黒い鎖は動きを少しずつ早め、まるで生きているかのように枝葉を分かれさせ、ドラゴンの足元を蝕んでいく。まさか、まだ黒ローブの男の意志が鎖に残っているのか!

『オオオオオオ! 』

 苦し気に大きい咆哮を響かせるホワイトドラゴン! 威圧の力がフィオナの魔法のお陰で大分弱まっているとはいえ、体に掛かる圧はそれでも大きい。

『きゃつの力がまた強まっているのを感じる。我の意識が持っていかれる……口惜しや! 』

 いきなりグリューンが大きく叫ぶ!

「ニルフ! こんにゃろ! 泣いてねぇでなんとか力をふり絞れ! 」

 その時、俺の頭の中に流れ込んでくる意識……淡い姿を持つ、小さな羽の生えた丸っこいボディの男の子。その男の子は苦しそうな表情をしながらも、何かに耐える様に体に力を込める。

「グリューン! オレっち頑張るよ! 」

 そう言ってニルフと呼ばれた男の子が、泣きながら力をふり絞るのが感じられた。
 唸る様に首を上に向かってひねり、苦痛をあらわにするホワイトドラゴン。

『神の包丁を授かりし、流れ人よ。レンジというのか……我はもう限界だ! このまま意識が黒い鎖に奪われれば、お主たちを全力で襲うのは間違いない。ニルフを頼んだぞ……』

 ドラゴンの瞳が深く仄暗ほのぐらい絶望のを現したような灰色に沈む。
 自分の持っている包丁を強く握りしめる。萌炎のあたたかい炎の力が、心の中に染みわたるようだ。強い希望、恐怖に打ち勝つ力、誰かを想う気持ちが身体の中を沸々と駆け巡る。それはまるでランガンのサンドイッチを食べてくれた、あの女の子の笑顔を思い出すような気持ち!

「ちきしょう、ふざけるなよ! 黒ローブの男だかなんだか知らねぇが、俺は春を取り戻して王都に行って米を探して寿司を握りたいんだよ!! 邪魔はさせねぇぞ! 」



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