【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 1章~旅立ちと騎士団長と王都到着と

王都アイゼルン到着 ② Around the East Gate

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 俺たちは今居る丘をゆっくりと降りて、フィオナの妹セリナが待つという東門に向けて出発する。俺達の他にもかなりの旅人たちや冒険者と思しきヒトたちと沢山すれ違い、王都に近づくにつれ、ヒト達の生活する喧噪けんそうや、どこかから大きな鐘の鳴る音が聞こえてきたり……段々と王都に近づいている事が分かって俺の興奮は高まっていった。

 びっくりしたのはやはり異種族の存在だ! 基本的に王都はフィーム族が多いとは聞いていたが、どうしてどうして! 俺の目にはフィーム族以外の種族がたくさん目に入り、その度に驚きの声を上げてしまう。
 熊やキツネ、ウサギと思われる様々な獣人たちの商隊や、ヴェルドワイヤン族の魔法使い冒険者達、翼を背中に生やした少し険しい顔つきをした種族や、俺よりも大分小さい120センチくらいしかない種族がいたり、そうかと思えば岩石のような固い皮膚を持つ大柄な種族が通りかかったりと見ていて全く飽きない!

「ちょっとレンジ君! 仕方ないのは分かるんだけど、おのぼりさんそのまんまの表情だとこっちが恥ずかしいからさ……少しは自重してよ」

 エレノールが尖った耳をちょっと下げながら、恥ずかしそうな顔をしている。しょうがないじゃないか! 異世界感たっぷりな今、それを楽しまないのは無理があるってもんだ! ガルムがそんな俺を見ながら豪快に笑っている。
 ガルムが言うには、東門近くには『獣人街』と呼ばれる区画があって、そこは獣人の国ダーザルヒルムからの移民が多い地区だそうだ。だから東門方面から入っている俺達には獣人を多く見かけたのか。

「冒険者地区と呼ばれるフロンティア・クォーターに隣接しているからな。それゆえ様々な種族が多いのだ。冒険者ギルドも東門の近くにあるんだぞ」

 だんだんと周囲に旅人や冒険者や商人たち、行き交う山羊蹄車が多くなってきているからか、石畳の街道沿いにも小さな店や屋台が並んでいるのが見える。俺達やエレノールの山羊蹄車カーフも速度を大分落として走行中だ。お陰で周囲の様子がよく分かって、俺はキョロキョロと荷台から顔を覗かせる。エレノールのうんざりしたような表情は見ないことにする。

「へい相棒! ちょっと腹が減らねぇか……少しくらい腹ごしらえしていこうぜ」

 グリューンが俺にとっては魅力的な提案をしてくれる。しかしフィオナが首を横に振るのが見える。

「とりあえず王都への入都審査を先に済ませてしまいましょう。グリューンさんも冒険者ギルドの周りにも美味しいお店は沢山ありますよ」

 美味しいお店と聞いて、グリューンも俺も想像力を膨らませる。

「ガルムさん。あそこで一旦山羊蹄車カーフを預けて降りましょう。わたし達だけだったらこのまま東門を通過出来ますが、レンジさんがいるので詰所で検査を受けないといけません」

 東門の前に広がる大きなナドゥ川の支流。それを渡すようにして大きな橋が架かっている。『冒険者橋』と呼ばれる大きな橋で、橋の手前に石造りの堅牢な建物が建っている。
 ガルムは山羊蹄車カーフを石造りの建物の横に付けると、建物の横に立っている衛兵に話しかけている。他に何台も山羊蹄車カーフが止まっていて、その横にヒトが長い列を成しているのがわかる。あれってもしかして全部検査待ちのヒト達なのか! まさにテーマパークのアトラクションに並ぶ感じだ。俺はうへぇ……という、うんざりした表情を浮かべる。

「じゃあレンジ君。あたしは先に冒険者ギルドに行っているからね! 」

 あ……ずるいぞエレノール! そのまま俺たちの目の前を通り過ぎ、東門の前の衛兵になりやら指輪のようなものを見せている。衛兵は手に持った虫眼鏡のようなもので、エレノールの指輪を見ている。問題なかったようで東門の中に入っていくのが見える。彼女は俺に向かって振り返ると、ニヤリと笑って手を振った。
 ガルムがそんな俺の頭を上から押さえつけるように手を置いた。

「全くエレノールもしょうがないな。まぁいい。こっちだレンジ!」

 既に先に行って並んでいるフィオナのところに走っていく俺達。改めて並んで前を見ると、橋の手前の衛兵の詰所の中に入るまでにどれだけ時間が掛かるのか分からないくらいヒトが並んでいる。

「そんな顔しないでくださいレンジさん。今日はまだそれほど多くないと思います。それでも1時間くらいかしら……ガルムさん。先に行かないで良いのですか?」

 ガルムはちょっと考えるような顔になる。伸びたあご髭をぽりぽりと軽く掻くような仕草をしながら白い歯をのぞかせる。

「いいのかフィオナ。騎士団にはあとで顔を出せばいいだろう……先にワシは『竜汗りゅうかんの湯』に入って一杯やりたいんだ」

 ガルムは右手を口の前に持って行き、酒を飲むような仕草を俺たちに見せた。フィオナはしょうがないですね……というため息をつく。
 なんだ? その『竜汗の湯』って? まさか風呂があるっていうんじゃないよな!?
 目を大きく見開き、俺はガルムを凝視する。「なんだ、知らんかったのか? 」と言いながらゆっくりと列から離れ、嬉しそうに東門に向かうガルム。
 東門の兵士たちがガルムの姿を見て、「ザイール、ファルナート! 」と唱和しているのが聞こえた。持っている剣を体の前にかざし、敬礼をしている。そういえばガルムって王国騎士団3番隊隊長だったんだよな。今でも信じられないけど。

「相棒。さっき言っていたのって温泉じゃねぇのか? オイラも入りたいぜ! 」

 饒舌じょうぜつになってきているグリューンも王都への期待に胸を膨らませているようだ。

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