【生魚=毒】だと言われる異世界に転生した寿司職人レンジ~師匠に託された伝説の包丁を使って、エリュハルトの食の常識を『旨い』で覆します!

小宮めだか

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2巻 4章~包丁の共鳴と幻妖蜘蛛とアリーゼと

神の七包丁

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 おそるおそる両目を開ける。周囲が燃え盛る炎で囲まれている事を知覚する。
 時折炎の勢いが激しくなったり、小さくなったりしながら、あと少しで自分の体を焼いてしまうのだろうなと、ボーっとする頭の中で思う。

 (体を焼かれるのはとても痛いんだろうな)

 待てよ。この感覚、以前にもどこかで感じたことがある。
 そうだよ! 俺がエリュハルトに異世界転生してきたあの日だ。神の包丁を握りしめて、そうしたらクジャクンが突然現れたんだ。
 周囲の炎の様子が更に大きく変化していく。それは渦を巻く様に俺を包み込み、一瞬このまま本当に自分の体が焼かれてしまうのではないか、という恐怖が頭の中を駆け巡った。

 その時だった。自分のものではない思念とでもいえばいいのか、頭の中に強引にねじ込まれるように映し出された映像と表現すればいいのか。俺の目に、はっきりと大きな古びた蔵の映像が飛び込んできた。

(これは、そうだよ。師匠の家の裏手にあった蔵じゃねぇか)

 俺が『萌炎』を初めて手に取った場所。そして火事に巻き込まれ、命が尽きた場所。
 そして続くようにして、目の前に映し出された光景に俺は目を疑う。
 長い白く染めた髪を振り乱すようにして、蔵に何か匂いの強い液体を大量に掛けている男の姿。切れ長の一重の冷たい眼差しが、狂気に染まったような輝きを発しているかのように見えた。

氷雨古廐ひさめこうま……そんな! 蔵の火事は、俺の死んだ原因は、あいつが! )

 だが、そんな氷雨古廐の背中に妙な違和感を感じた。なにか、黒い影が奴に張り付いている様な、別の何者かに操られているかのような、そんな不気味なアメーバのようにも見える仄暗い人のようにも見えるモノ。
 もっとよく見たいと身を乗り出した瞬間だった。周囲で渦を成していた炎が大きく身じろぎするように弾けた。
 ひとつの形を成していく炎の塊。それはクジャクのような生命体となっていく。そう、俺はその炎にはっきりと見覚えがあった。

「クジャクン。生きていたんだな」

『クジャクンではありません。ホムラです……レンジ。また会えて嬉しいです』

 大きな炎の翼をはためかせて、クジャクンは喜びを表現したように俺には見えた。
 あの時はそれどころでは無かったから、殆ど気にならなかったけど、改めて見るとクジャクンの大きさに度肝を抜かれる。炎の翼部分だけでも2メートルはあるんじゃないか。クジャクみたいなんて言って悪かったな。完全にこれは……美しい炎を纏った想像上の幻獣、つまりは鳳凰だよ。

『ふふふ。ありがとうレンジ。私を美しいと思ってくれて。創元様もそうおっしゃっていました。特に私の首元が美しいと』

 師匠、首元! そこなのか。俺はまた炎の翼が美しいのかと思ったよ。おっと。どうしてもホムラと話し始めると、ツッコミが激しくなってしまうな、いかん。

「ホムラ。色々と聞きたいことが山のようにあるんだ。何から聞いたらいいかすら分かんねぇんだけどよ。師匠が流れ人だって言われるし、持っている包丁が神の包丁だってことだし、いったい何がどうなっているんだ」

 俺は一気に自分の中でくすぶっていた疑問を、ここぞとばかりにホムラにまくし立てた。
 しかしホムラはゆっくりと首を振った。

『今はまだ、レンジには語れないことが多すぎます。すみません』

 そう言われるとは思っていたよ。なんだよ、まどろっこしい。全部教えてくれたって問題ないんじゃないのか。俺は不満を前面に出したような表情を浮かべる。

 『私は短い時間ではありますが、レンジの前に姿を現すことができました。それは異なる神の包丁が引き合う時に生じる、共鳴現象と言われるもののお陰です』

 共鳴現象。確かに萌炎が震えるような感覚が強くなって、俺は意識を失った。

 「この世界にはいくつかの神の包丁が存在すると、ホワイトドラゴンが言っていた。つまりは、俺の近くに別の神の包丁があるってことか。それはコーマと呼ばれたアイツが、凍りの包丁を持っているって言うのか」

 コーマはおそらく氷雨古廐だ。全然地球での姿と違うんだけど、それは俺だって一緒だ。色々断片的な事が俺の頭の中で繋がっていく。やつも何故かは分からないが、このエリュハルトに転生してきたっていう事か。

 「エリュハルトには、異なる定めを持たされた意志のある存在、。それは現在、様々な経緯を辿り、奇跡のような道程を踏みしめ、異なる者たちの手にそれぞれ握られています。それを……貴方はひとつひとつ探し出せねばなりません」

 その時ホムラの炎の翼が陽炎のように、大きく揺らぐ。彼女は苦しそうな表情を浮かべ、俺に力をふり絞るような眼差しを向ける。

 『もう時間がありません。レンジ、落ち着いたらまずは六花連合共和国に向かいなさい。そこには悠久の時を生きている【古きもの】と呼ばれる存在が隠れ棲んでいます。まずは彼らに会いなさい』

 急速にホムラの炎の勢いが消え去ろうとしているのを感じる。

 『六花に行けばいいんだな、ホムラ! そこで何をすればいいんだ。それだけじゃわかんねぇよ! 』

 今まですぐそこにあった大きな炎の塊。鳳凰としての形が崩れ去り、砂の楼閣のように一気に崩れていくのを俺は自覚した。

 「レンジ……また会いましょう。私はいつでもあなたを見守っています……」

 目の前が一気に明るくなる。眩むようなその光の渦に、俺は、自分の目の前に手をかざしすようにして光を遮ろうとする。
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