聖女が始める新生活!

Nekomouhu

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第一章 ベテルギウス

第1話 受付嬢

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 一人、少女とその母親がいた。

「ねぇねぇ、お母さん、今日は何をするの?」
 「そうねぇ。もうそろそろ魔法でも使ってみる?」
少女は目をキラキラと輝かせて、やりたい!と答えた。

 「これはあなたの魔法の杖。大事に扱うのよ?」
そう母が言うと、少女は首を縦に振って、大事にする!と言った。
魔法の杖を片手に、自分の知っている初級魔法を出す。
「いけぇ!火炎球ファイアボール!」
火炎球は少女の目線の遥か向こうまで飛んで行った。
―遥か、向こうまで。

少女はふと疑問に思ったことを口にする。
「そういえばなんで家の周りには誰も住んでないの?」

少女の住む場所は豊かな緑に囲まれた「グリード」という場所だった。
そこには少女の家と青い結晶が浮かんだ祭壇のようなものがあるだけだった。

 「それは…」

          ◇ ◇ ◇

カーテンから光が差し込み、室内を少し照らしている。
―ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ
目覚まし時計が部屋に鳴り響き、一人の少女は目覚まし時計を止める。
起き上がり、ゆっくりと伸びをして、カーテンを開ける。
気持ちのいい朝だなぁと少女は呟き、髪を縛る。
朝食を食べ、歯を磨き、顔を洗い、着替えて、バッグを持つ。
「よし!今日も一日頑張るぞぉっ!」
そう言って、少女は元気に家を出て行ったのであった。

 「あ!リア先輩、おはようございます!」
「おはよー!テア、今日も頑張ろうね!」
そう言って自分の立ち位置につく。リアの仕事はギルドの受付嬢である。
ギルドの受付は国が運営しているため、給料が安定しているのである。
危険な目にあうこともないし、ギルド受付嬢サイコー!
…そう思う受付嬢も多数いるが、人生そんなに甘くない。
 「先輩…またギルドから書類が届きましたよ…」
ギルドから送られてくる書類。目を通さなければならないし、クエスト内容を確認して、クエストボードと呼ばれるところに貼りつける必要がある。
…それだけなら、それだけなら問題はない。
しかし、毎回毎回とてつもなくでかいダンボールで送られてくる。
その中身のほとんどが、クエストボードに貼りつけるものだ。
「はぁ、テア、今からさっさと終わらせましょう!」
 「アイアイサー!先輩!」
昼の間はあまり冒険者が来ないので、その時間帯に終わらせる必要がある。
―否、必ずしも終わらせる必要はない。リアが終わらせたいだけだ。

リアは一度冒険者がたくさんいる夕方に貼りつけを行ったことがある。
正直に率直に言えば、冒険者がとても邪魔であった。
本当に貼りつける紙を置くスペースすらできないので、困ったものである。
そういえば、あの時ヤバい冒険者が一人いた。
梯子に上って貼りつけているときに、パンツを覗こうとしたバカがいた。
その時、幸運にも偽パンを履いていたので被害は一切なかったが、偽パンでも覗かれているほうとしては気分が悪いものだ。
そこからリアは独自に昼の間に貼りつけ作業を終える!という目標を立て、みんなを巻き込んでいる。
「さぁ!始めよう!昼の間に終わらせるよ!」

          ◇ ◇ ◇

「ふぅ…終わった…」
なんとかギルド本部から届いたすべてのクエストを貼り付け終え、受付へと戻る。
段ボールには書類が一束が残っていた。
「なんだこれ?」
その書類は、決してうれしいものではなかった。
 『先月の冒険者死者』
『先月の冒険者死者数のデータがまとまったため、ギルド内で共有する。
先月の冒険者死者数の合計は58人。パーティ全滅合計は11パーティ。
死者数が増加し続けている。そのため、討伐クエストのランクを一段階上げる。
最近の調査によれば魔物の力が増してきており、討伐が困難になった。
ギルド本部は調査のため、どこかでギルド受付全体を一時停止しようと考えている。
その際、受付嬢には有給が支払われる。』
「冒険者がクエストを受けるときに、注意を促しておきましょう。」
 「わかりました!リア先輩!」
とりあえず、貼りつけ作業は終了した。
もうすぐ、冒険者が帰ってくる時間帯ではないだろうか。
昼の間に終わらせよう!なんて言っていたが、ここに貼れとかなんとか指示が多くて思ったより時間がかかった。

ギルド本部の指示への文句をぶつぶつと言っていると、扉の開く音がした。
すぐに笑顔に切り替え、冒険者を迎え入れる。
「「おかえりなさいませ、冒険者様。」」
すると、男は口を開いて一言、こういった。
 「おい、裏クエストを寄越しやがれ。」
まさかの発言に全員、困惑して黙ってしまった。
 「なんとか言ったらどうなんだ!」
すると、少し経ってからリアが口を開いた。
「…裏クエストというものはここでは取り扱っておりません。」
そうリアが答えると、男はリアの受付に近づいてきて、胸ぐらをつかんだ。
 「もう一度言おうか。裏クエストを寄越せ。」
「ですから、裏クエストというものは取り扱っておらず…」
 「隠してるんだろ?こっちは分かって言ってるんだ!」
何がわかってるんだ!本当に裏クエストなんてものは存在しないって言ってるでしょうが!と心の中でツッコミたくなるのだが、気持ちを抑えて、本当にないんです。と答えるしかなかった。
すると、リアを持ち上げ、壁に投げる。
ここまで流石にされると思っておらず、リアは壁に背中を打ち付けた。
電気が走ったかのように背中がしびれ、痛みが生じる。

―こんな痛みを、激痛を味わうのは、生まれて初めてだ。

 「へッ!受付嬢は弱いから助かるぜ。それより、そこの女みたいになりたくなければさっさと出せ!」
そう男に脅され、テアは、本当に…本当にないんです!と涙目で言った。
 「なんで受付嬢は、使えないやつばかりなんだ!」
そう言ってテアをつかんで投げた。
 「キャァァァァァッ!」
テアは背中に猛烈な痛みが…起きなかった。壁に打ち付けたが痛くない。
テアはすぐにリアのところへと行き、治療魔法でリアを動ける状態にした。
 「もしかして、先輩が…」
そういうとリアは、コク、と頷いた。

―こんな痛みを、後輩に体験させたくない。

 「ああ!もういい!こうなったら一人ぐらい殺してやる!」
そう言って、完全に動ける状態ではないリアに刃物を持って突っ込んでくる。

―背中が痛い、誰かを傷つけたくない、傷つきたくない、死にたくない、死なせたくない、背中が痛い、誰かを傷つけたくない、傷つきたくない、死にたくない。死なせたくない。

 『じゃあ、助ければいい。私にはその力があるんだから。』

男が完全に動ける状態ではないリアに刃物を持って突っ込んでくる。
 「さぁ!俺のために死ねぇぇぇぇぇぇ!」

―その瞬間、男から見て刃物が届きそうなほどに近かったリアはいつの間にか遠ざかっていた。
逃げられた?あんな一瞬で?…いや、違う。自分が―

 「ぐはぁ!」

口から血が出る。背中に猛烈な痛みを感じる。自分が―

 「ごほぉ!」

腹に拳が当たる。口から血が出る。視界が朦朧としている。自分が―

 「ごほっ、ごほっ」

咳をするたびに血が出る。意識がどんどん遠くなっていく。自分は―


―あんな一瞬で壁にぶっ飛ばされたんだ。


やっと理解が追いついたが、反撃すらできず、意識を失い、倒れこんだ。

          ◆ ◆ ◆

リアは目が覚めると病院の一室に入院していた。
テアから詳しい事情を聞く。覚醒したように動いてからリアは意識を失ったようで、テアが救急車と警察を呼び、リアと男は病院に救急搬送された。男のほうが重症ではあったが、死んではいなかった。
男は警察によって逮捕され、懲役一年と罰金10万ピアを支払うこととなった。
リアはたった3日間で退院し、無事受付嬢を再開し、何事もなかったように…とはならなかった。

ある日、一通の手紙が届いていた。
 「せ…せ、先輩!ギ…ギ、ギルド本部からの、て、てて手紙です…」
ブルブルと震えながら手に持っている手紙をリアに渡す。
その手紙の送り主は、『ギルド本部』と書かれていた。
「い、いい一体、わわわ、私が…ななな何をしたって、いいい言うのよ?」
リアも震えが止まらなくなる。ギルド本部から手紙なんて滅多にない。
 「せ…先日のさ、ささ騒ぎでしょう…ととととりあえず落ち着きましょう!」
先日の裏クエスト騒ぎ。あの時普通に暴力を使って撃退したという記憶がある。
「か、かか解雇とか、ささされないよね?」
記憶が正しければ『こんな暴力的な受付嬢いるか!』などと言って解雇されるに違いない。
 「と、とととりあえず、中身を見てみましょう。」
リアは震えながらも手紙をそっとあけ、紙を開く。

 『○月✕日、ギルド本部へお越しください』

一通の手紙にはたったそれだけが書かれていた。
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