宇宙の譜面駅

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宇宙の譜面駅

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 竹フィラメントの有機電燈の薄く灯った客車内。

 車窓にはとても星座に出来ない数の星砂が瞬いてる。

 星明かりが反射して、様々な眠っている旅客が、目に入った。

 椅子の背もたれまで半分透けたものや、膝まで届く黒髪で顔が隠れているもの。

 そして、僕、ローレンツと、ひょんなことからついてきた白い幽霊氏。

 やがて、シリウス―ベテルギウス銀河級連絡列車は、昼の時間に入ったのか、電燈の光度が増し、売り子がワゴンを押してやってきた。

 僕は星屑弁当と山羊座ミルク。

 白い幽霊氏は金平糖弁当を所望した。

 幽霊になっても食欲が消えないことに、僕は 幻滅もしたし、なんか嬉しくもあった。

 天国には食べる楽しみもあるんだってね。


***


 星屑弁当には、水晶や、蛍石、ラピスラズリ、方解石等が入っていて、

噛んでみると、干し肉や果物みたいで、割と美味しかった。

 やぎ座のミルクは普通のさっぱりしたやぎのミルクだった。

 白い幽霊氏は金平糖をぽりぽりずっと食べていた。


***


 こんな感じで、昼はお弁当を使って、夜は健やかに寝て(幽霊氏が寝ていたかは知らない)、僕は、持ってきた星座の本と車窓の星々をにらめっこしたりしていた。まぁ、暇なのだ。

 それで、他の旅客とも一言二言、会話をするようになった。

 旅客の一人の透けてる男は、次の”惑星の輪”駅で降りるらしい。

 そこには太陽系の土星のような輪があり、そこに住む内に、輪と同じに透けるようになるらしい。保護色に進化するのかな?

 まぁ、そんな感じのちょっとしたご縁だったのだが、お別れすることになって、透けてる男は白い幽霊氏と写真を撮ることを希望した。案の定、透けてる男は薄く心霊写真のようにしか写らなかったのだけど、満足そうだった。

 白い幽霊氏は、なにか呟いている。


「僕がこんな風になったのは、確か・・・」


 また、しばらくが過ぎて・・・

 僕と白い幽霊氏は、段々暇を潰すのに慣れてきて、綾取りをしたりして遊んだ。

 手の辺りはぼぉーっとして判然としないのだけど、取り合えず、とったりはできた。

 どうやら白い幽霊氏は複雑な大学レベルの数学を駆使しているらしく、初めてなのにとても上手かった。僕は勿論、長年の経験で対抗したよ。

 そうしていると、なんだか、僕の父親のことを思い出したよ。

 数学者だったんだ。勿論、趣味のね。


***


 長い髪の女とは殆ど口を聞かなかったけど、髪の毛座(コーマ・ベレニケス)の重力圏

に列車が通りがかった時、膝までの髪の毛をばっさりと切り(一人では切れないので僕も手伝った)、車窓から髪の毛を奉納した。

 初めて見るショートカットになった彼女の顔はとても幼く、可愛げで、愛嬌があった。

 そしてなんだか、とてもせいせいしているようだった。

「ふぅ、さっぱりしたわ。一生に一度の奉納も終わり。私は天国に行くことが約束された」と、髪の長かった少女が言った。

「あ、二人に少しだけ、髪の毛を残したの。旅のよしなに、受け取って欲しいわ」

「きっと、旅の思い出になるわ」


「私も以前は、大事な人の髪の毛をペンダントにしまっていたような・・・」と、白い幽霊氏。


 また、列車の中の旅は、あまり抑揚も無く進んでいったが、

 列車はブラックホールに重りを投げ込み、ほぼ光速まで加速していた。

 次は終着駅の宇宙の譜面駅だ。


***


 そこの壁には、森羅万象が記録されていると伝説に言う。

 膨大な数の譜面の整理員、記述員、あらゆる高名な作曲者のクローン。

 読み取る役割の者はほんの少数しかいない。譜面の内容はそのまま即時に世界に反映されるので、特別な事情が無い限り必要ないのだ。

 ローレンツのやりたかった事は、父がどうして姿を消したのか、現在どうしているのかを知ることだった。

 一年がかりで譜面の一部閲覧の費用を貯めた。

 そのクレジットを決済しようとした時、

「ねぇ、ちょっと待たない?勿体ないよ」と、白い幽霊氏。

「なんかね、前世で僕ね、君の父親だったような気がするんだ」

「え?なんで?姿形違うし、僕の父がそんなに若い筈ないんだけど」

「それに、前世って」と、ローレンツ。

「君は僕が何故君と一緒に旅することになったか、覚えていないんじゃないか?」と、白い幽霊氏。

「そういえば、何故か覚えてないけど、なんでかな?」と、ローレンツ。

「君は情報狭窄症でビルからダイブしたんだ。勿論、ネットワークには繋がったまま」

「それで君と僕は体を入れ替え、僕は死に、譜面の不具合で幽霊になったようなんだ」と、白い幽霊氏


***


 そして、親子は、無数の星空が水面に映る殆ど無人の惑星で東屋を買い、宇宙の譜面や数学の研究、たまには綾取り等もして、過ごした。

 たまに遥か上空を銀河級連絡列車が汽笛とともに通り過ぎていく。






 

 


 

 

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