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第三話 プロローグ3
しおりを挟むそれから数日後、俺たちは地元へ向かって発った。クオードの異父弟を迎えに行くためだ。婚前旅行という感じで、ちょっぴりワクワクした。不謹慎だけども。
馬車で五日ほどかかる、ド田舎の街。お店は少ないし、観光名所と呼べるような目ぼしいスポットもない。自然だけが取り柄の場所……としか言いようがない。
「へぇ~、メリンって名前なんだ」
「ああ。オメガの子らしい」
手紙を読みながら歩くクオードの隣を、俺は軽やかに歩く。オメガの子ども……メリンか。どんな子か楽しみだ。
メリンは今、街の孤児院に一時的に預けられているらしい。俺たちはそこに向かっているところだ。もう十分もすれば、着くだろう。
ちなみに俺の実家もすぐ近くなんだけど、今回は結婚の挨拶を見送った。まだバタバタしているし、まずは先にメリンの心を癒すのが先だから。ご両親が亡くなって、きっと寂しがっているだろうな……。
メリンのことを精一杯可愛がろう。そして、立派に育て上げるんだ。
「……あ。でも、どうしてメリンは猫男なんだ? クオードのご両親って、どっちも人族だったよな」
レジェステア王国の国民の割合は、人族が七割、獣人族が三割だ。当たり前だけど、人族同士から獣人族が生まれることはない。
不思議がる俺を、クオードは苦笑いで見下ろす。
「それが……父上が三年前に再婚したらしいんだ。猫男の方と。それで父さんとはその時に離縁したんだと」
「え……」
俺はその場に固まった。それって、ベータ側の父親が浮気したってことだよな? マジか。オメガ側のお父さん、ちょっと不憫だな……。
「父さんももう再婚したらしいし、さすがに血の繋がらない子どもを引き取れないってことで、俺に話がきたってわけだ」
「なるほど」
「でも、それはフィラも同じだよな。……ごめんな」
バツが悪そうに顔を伏せるクオードに、俺は慌てて否定した。
「謝らなくていいよ! 俺、子どもが好きだから」
そう。何を隠そう、俺は子ども好きなんだ。それもクオードとの子どもなら大歓迎だ。
クオードは優しく微笑んだ。さりげなく俺の手を握り締め、手を繋ぐ。
「ありがとう。そう言ってもらえるとありがたい。二人で頑張ろうな」
「うん!」
頷き、笑顔で孤児院への道のりを歩く。が、通りすがりの人たちが微笑ましそうに俺たちを見つめていることに気付くと、クオードは慌てて手を離した。
俺はむっとして、クオードのことを軽く睨む。
「なんだよ。いいじゃん、手を繋ぐくらい」
「……気恥ずかしいものは、気恥ずかしいんだ。悪いけど」
俺は呆れるしかない。なんだそれ。自分から手を繋いでおいて。周りの人の目を気にしすぎだろ。自意識過剰ってやつじゃないか?
俺は不満に思いつつも、無理強いはせず、クオードとは少し離れて歩いた。あーあ、もっと堂々とイチャイチャしたいのに。
昔からそうだった。クオードは手は早いくせにシャイだ。前世では身分の差があったから公衆の面前でイチャつきにくいというのはあったかもしれないけど、今世は違う。もっと外でもスキンシップをとれるのに。
どうしてこんなにシャイなんだろ。そういうところも……可愛いけども。
ともかくそうして道を進み、あっという間に孤児院に到着した。
「フィラ。院長先生にご挨拶してくるから。ここで待っててくれ」
クオードが足早に施設の中に入っていく。俺もついていこうか迷ったものの、今はまだ部外者だ。言われた通り、敷地の中で待機することにした。
針葉樹の下で一人立っていると、敷地の公園で子どもたちが遊んでいる。この孤児院で暮らす孤児だろう。人族が多いけど、……あれ? 猫耳の獣人族がいる。
もしかして。
「なぁ」
砂場で遊んでいる三歳くらいの幼児に、正面から声をかける。もふもふの猫耳と尻尾を持つその子は、びくっとして飛び上がった。
シャベルが入った赤いバケツを手に持ち、ささっと逃げようとしたその子を、俺は慌てて呼び止める。
「君、メリンじゃないか?」
愛らしい猫男はぴたっと立ち止まり、そろりと俺を振り返った。なぜ自分の名前を知っているのかと聞きたげな顔をしている。
「だれ?」
「クオードお兄ちゃんの夫だよ。驚かせてごめんな」
「くおーどおにいたん?」
舌足らずな言葉遣い、何よりもちょこんと小首を傾げる仕草に、俺の胸はキュンとした。な、なんて可愛いんだ……! おにいたんって。
「くおーどおにいたんのおっと?」
「そうだよ。もうすぐ結婚するんだ。だから、俺もメリンのパパになるんだよ」
「めりんのパパ……?」
幼児――メリンは、なぜか嫌そうに顔をしかめた。え、なんでだ。
メリンはぷいっと顔を背け、てててっと砂場からいなくなってしまう。シャベルと赤いバケツはきちんと手に持って。
俺はぽかんとして見送るしかなかった。可愛いけど……え、嫌われてる!? なぜ!?
こんがらがる頭で必死に考えても、答えは出ない。立ち尽くしていたら、クオードが戻ってきた。メリンを肩に抱き上げ、優しい表情を浮かべながら。
「フィラ。待たせたな。この子がメリンだって」
それは知っている。
メリンは嬉しそうな顔をして、クオードにくっついている。俺には嫌そうな顔をしていたのに、クオードには満面の笑みだ。
俺がじっと見つめていることに気付いたメリンは、またぷいっとそっぽ向く。どういうことだ。どうして俺には懐いてくれないんだ。
こんなに可愛く思ってるのに……っ!
「そ、そっか。よろしくな、メリン」
もう一度、メリンに話しかけたけど、無言のままだった。クオードが「こら、メリン。ご挨拶しないと」と叱りつけたため、渋々とこくりと頷いてくれたけど。
メリンの子育ては、前途多難な予感がする。
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