は? ボクはサキュバスメイドに負けないが? ~強い貴族がエッチな誘惑に絶対に負けない日常~

フォトンうさぎ

文字の大きさ
10 / 27

お買い物で負けない!②

しおりを挟む
「淫語だ! 俺に先にささやいてくれ!」

「いや、ワシだ! ワシに言っておくれ!」

「わっ、私にもお願いします!」

 広場で待っていたのは、淫語屋に向けて小銭を乗せた手を差し伸べる老若男女の姿。自身が引いてきた屋台を背にした傘帽子の女は、困ったような笑いを浮かべて人の壁を相手にしていた。これだけ人が集まって興奮するとすさまじい熱気である。
 レックスとアイヴィは人の壁の少し後ろに立つ。なお、レックスは背が低いため、壁の向こうにいる女の姿を見ることはできなかった。アイヴィはレックスを抱えて弱めに羽ばたき、空中から淫語屋がどのような者なのかを確認する。

「なんて人気だよ……」

「言ったでしょう、淫語屋の語る技術はすさまじいのです。その魅力に魅入られた各国の国王が、血眼になって淫語屋を探し出したという話もありますから」

「各国の国王なにやってんだ。この国の国王はそれに入ってないよな? 入ってないよな? ……あと、胸あたってんだけど。ていうか強めにあててない?」

「その通りです。レックス様に感じていただけるのであれば、ありがたき幸せ」

「くっ、人目が淫語屋に向いているとはいえ、恥ずかしい……!」

 目線の先にいる傘帽子の女は、手に持っていた笛を屋台の上に置く。そして人々を一人一人値踏みするように眺めた後、一人の男性の手をそっと下から取り、その手のひらに乗せられた小銭を受け取った。淫語を囁く相手が決まったようだ。

「うふっ、毎度ありぃ。まずはあなたにしましょうかぁ」

 小銭を渡した男が緊張気味に前へ出る。なんでアイツが先にと民衆からどよめきが上がったが、淫語屋が被っている傘帽子をくいっとあげると静まり返った。
 傘帽子の下にあったのは、道行く男子なら十人に十人が振り返るであろう美貌。白雪のような肌で、小さ目な塗だが目立つ赤い口紅。目はすっと線のように細く、瞳は誰もが手に入れたいと思うような紫の輝きを秘めていた。薄い笑いを浮かべるその女の美しさに、誰もが言葉を失う。

「さぁ、こちらに立ってください。一言囁いてあげますねぇ……」

「あ、ああ」

 淫語屋が男にしなだれるように近寄り、耳元に口を据える。次に出る言葉を待ち構えている男達がごくりと唾を飲む。気づけばその様子を見ているレックスまで唾を飲み込んでいた。淫語を言うだけだというのに、人々が押し黙るほどのプレッシャーが放たれている。アイヴィの言う通りただ者ではないらしい。周りは一気にその言葉を我も聞き遂げようとしんと静まり返る。
 風すらそのささやきの前に吹くのを止めたらしく、まるで時間が止まっているような瞬間であった。

 そして赤い唇からぽそりと静かにささやかれる単語。
 
「まんげ、きょう……」

「あへっ」

 たった一言、たった一言だけを聞き遂げた瞬間、男は膝から崩れ落ちた。そのまま地面にどしゃりとうつ伏せになり、びくびくと快感で体を震わせる。
 さらに、周りで聞いていた男達も前かがみになり、女たちも続々と体を震わせる。空中で抱きかかえられていたレックスも、上手く聞き取れなかったがぞくりとした快感の矢が体を突き抜ける感覚を味わった。

「す、素晴らしい。たった一言でこれだけの感情エネルギーを放出させるとは……ごくり」

 アイヴィから見るに、人の集団から物凄い量の感情エネルギーが放出されているのであろう。彼女が呆気に取られて、美味しそうだと息をのむほど。

「レックス様、後でお金を出しますので彼女の淫語を聞いてきてくれませんか?」

「なんで」

「レックス様の放心しきった感情を食べたいのです。とても悔しいですが、あれほど人々をとりこにできる淫語の言い方を真似することはできません。ですので、なにとぞ……! こんな機会はそうそうありません」

 普段は必死にならないアイヴィが焦って懇願する。淫語屋は国中どころか各国を周るらしく、この機会を逃したらアイヴィに長い間こんな機会は無いだろう。集団の前であの男のようにビクビクとするのも嫌だが、アイヴィが悲しむのも嫌なのである。
 深いため息をつき、レックスは自分の懐から小銭を出した。

「しょうがないなぁ、一度だけだからな。あと、別にボクが聞きたいわけじゃないからな。聞かされにいくんだからなっ」

「あっ……ありがとうございますレックス様! アイヴィ、このご恩を一生忘れません。残りの問題は……」

「聞きにいくならさっと聞いてさっと帰るぞ。ここにいるだけでもボクは恥ずかしいんだからなっ」

 やるならさっさとしてくれと、レックスは自身を抱いているアイヴィの腕を小突く。それを受けてか、アイヴィは人の壁を空中から飛び越えて淫語屋の前に着地した。
 ここでずるいと少々の声が上がるが、着地した相手がアイヴィだとわかるとすっとその声は止んだ。

「淫語屋さん、レックス様に淫語をお願いします。人々の壁を飛んで前へと立ったことにはお詫びを」

「……あらぁ? あら、あらぁ? そこのお方、可愛らしいですねぇ。私、サービスしちゃいますよぉ? 私は淫語を「この人だな」と思った方にしか囁きませんし、飛んできたことなんていいですよぉ。君、とてもいい感情を……じゅるり、おっとっと」

「い、いや、サービスとかいらないし一言でいいから」

 周囲から注目を浴びるレックスは、死にそうなくらい恥ずかしくて体が熱くなっていた。まさか領主の坊ちゃんが淫語を聞きに来るとはと考えられているのだろうと思うと、消えたくて仕方がない。しかし、アイヴィが残念がる姿を見る方がもっと嫌だったのである。
 だがこの後のことを考えるとやっぱり受け入れない方が良かったのではと考えている間に、淫語屋の女は小銭を受け取ってレックスの横に来た。すこしかがむと、ざっくりと開いた胸元の深い谷間が見える。

「うわっ……あっ……」

 なんて魅力的な柔らかそうな谷間なんだろう。この谷間に自分の大事な部分を突き入れたらどんなに気持ちよさそうなことか。しかしその考えは、「さぁ、集中して」という言葉にかき消される。感覚が下半身ではなく耳に集中し、レックスは音を出さないようについ呼吸まで止めてしまう。

「いきますよぉ?」

「は、はい」

「……にゅう、えき」

「あっ――」

 悦楽、快楽、頂点、超絶。気絶するのではと思うくらいの快楽を耳から流し込まれ、レックスはうつ伏せに倒れ込んだ。全身ががくがくと震え、視界がスパークして何も考えられなくなる。
 下半身は淫語屋のたった一言だけで今までにない程に硬さを増していた。仰向けで倒れなくてよかった、とレックスはかすかに残った思考で安堵。そして、アイヴィが無表情ながらも大興奮している感覚がした。

 ――うふふっ、この子気に入ったかもぉ。

 最後に淫語屋が呟いたらしき声を聞き遂げ、レックスは意識を漆黒に沈めていく。

 意識を手放す瞬間、レックスは思った。「サキュバスメイドには絶対負けないが、この人には絶対勝てないかも」と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...