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お買い物で負けない!①
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薬の材料が無いのだ、すまんがお使いに行ってくれないか。唐突なるマーガレットの一言により、アイヴィは薬の材料を買いに外出。天気もいいということで、レックスも散歩がてらにその買い物へ付き合った。
季節は春と夏の中間期というくらいで、日差しがぽかぽかと温かく降り注いでいる。レックスが住む屋敷から街へはすぐそこの距離で、二人は心地よく歩いていくことができた。
アイヴィは途中で道行く人々に挨拶を欠かさない。領地を襲う魔物の討伐に参加することもあり、マーガレットの薬を患者へ手渡しに行くこともある彼女は領地の人々にも愛されていた。
久しぶりに羽を伸ばすような感覚をレックスは楽しみ、二人で薬の材料を購入。薬の材料自体は街にあるのだが、マーガレット程の調合のスペシャリストはいない。
片手に紙袋を抱え、アイヴィは店主に頭を下げて大型商店を出た。いつもお世話になる各国の物々が届く店舗だ。アイヴィ達は自分達がこの領地を守っているんだぞと威張ることもなく、謙虚に店主に対応した。
「母さんの薬は本当に人気だなぁ。この領地、ほとんど母さんたちサキュバスに守られてんじゃないの?」
実際そうであろう。レックスの父親に才能がないわけではないが、飢饉や感染症の流行などの危機にはマーガレットを始めとしたアイヴィ達が大活躍だった。人間より高い体力を持ち空を飛べるため、領地の各所へと奔走したのである。
「お母様が調合する薬は万病に効くと言っても過言ではありませんから」
「この前の淫・フルエンザは防げなかったけど」
「あれは少々特殊かつ凶悪ですので……」
「二度とあんなことにならないように、魔物狩った後の手洗いうがいは必須だな」
完全に吸われきって干からびた状態を思い出し、レックスは身震いする。同時に、アイヴィももし姉妹や母に移っていたらとぞっとした。
そんな彼らを癒すように、商店街から焼き物や果実の甘い匂いが彼らの鼻をくすぐった。
「薬の材料ついでに果実でも見てみましょうか」
「うん、賛成だ。お腹がすいてくるな」
店舗に並ぶ青リンゴや野イチゴの数々。行き交う人々を魅了する、木の板の上に整列された焼き菓子。試食も行えるというサービスっぷりで、商店街は賑わいを見せていた。
そんな中のある一店舗にレックスたちは入店する。奥に座っていたのは初老の店主だった。
「おっ、レックス様にアイヴィ様じゃないですか! ようこそいらっしゃい!」
「うん、こんにちは。おじさん、このリンゴを五個くれないかな」
「はいよ! 美味しそうなのを選びますよ! ……ん?」
どこからか、ぴゅるりぴゅるりと高く響く笛の音。そして細く高く、しかしはっきりと聞こえる大きさで自らの出し物を宣伝する声。どうやら商店街の中を笛を吹いて宣伝する者がいるようだ。
「淫語屋ぁ~淫語屋だよぉ~。寄っておいでぇ~。淫語屋だよぉ~」
「なに!? 淫語屋だと!? こりゃあ大変だ!」
奥に座っていた店主が椅子を後ろに倒すくらいの勢いで立ち上がる。そのまま店のことは放っておいて出入口までいって、淫語屋と名乗る者が歩いていった方へ駆けていってしまった。
「む、これは珍しい。この領地に淫語屋が来るとは……」
「なんて? リンゴ屋じゃなくて?」
「淫語屋です。お金を払うことで、エロく聞こえる言葉を物凄くエロく言っていただけます。国中を周って、淫語をそれはもう感動するほどエロティックに囁いてくれます」
「思ったより数倍しょうもねぇ商売だった」
「とんでもない、ただのエロい言葉ではありませんよ。淫語屋を営むのはその道のプロ。男どころか女でさえも虜にするその言い方。惚けた人の感情はサキュバスにとって非常に美味しく……おっと、私はレックス様の感情しか食べませんのでご安心を」
「ボクがうんぬんかんぬんは放っておくとして、その商売そんな人気なのか? 喋るだけで国を周れるほど金を稼げるもんなの?」
その通り! アイヴィが答える代わりのように、わっと男達が淫語屋の声が聞こえてきた方向へと殺到する。さらに、恥ずかしがりながら駆けていく女性の姿もあった。さらに何が来たのかと野次馬の人々が続く。
これによりレックスたちの周りから、いや、商店街から人の気配がほとんどしなくなった。残ってるのは耳の遠いお年寄りや、ちらちらと人たちが消え去った方向を見やる数人の女性のみでる。
「とんでもない人気だった……」
「行きましょうレックス様。淫語屋は営む者がほとんどいない職業。この機会を逃せばいつ次に会えるかわかったものではありません」
「えぇ……? ボク達も行くの……?」
子供の力で魔族であるサキュバスに勝てるわけがない。レックスは手を引かれるままに、淫語屋がいる方へ引きずられるように歩いていくのだった。
「気になっていないからな。ボクはしょうがなくついていくんだからな」
「わかっています。しかし、淫語屋の言葉を聞けばレックス様もそのすごさがわかると思いますよ。さぁ、急ぎましょう」
季節は春と夏の中間期というくらいで、日差しがぽかぽかと温かく降り注いでいる。レックスが住む屋敷から街へはすぐそこの距離で、二人は心地よく歩いていくことができた。
アイヴィは途中で道行く人々に挨拶を欠かさない。領地を襲う魔物の討伐に参加することもあり、マーガレットの薬を患者へ手渡しに行くこともある彼女は領地の人々にも愛されていた。
久しぶりに羽を伸ばすような感覚をレックスは楽しみ、二人で薬の材料を購入。薬の材料自体は街にあるのだが、マーガレット程の調合のスペシャリストはいない。
片手に紙袋を抱え、アイヴィは店主に頭を下げて大型商店を出た。いつもお世話になる各国の物々が届く店舗だ。アイヴィ達は自分達がこの領地を守っているんだぞと威張ることもなく、謙虚に店主に対応した。
「母さんの薬は本当に人気だなぁ。この領地、ほとんど母さんたちサキュバスに守られてんじゃないの?」
実際そうであろう。レックスの父親に才能がないわけではないが、飢饉や感染症の流行などの危機にはマーガレットを始めとしたアイヴィ達が大活躍だった。人間より高い体力を持ち空を飛べるため、領地の各所へと奔走したのである。
「お母様が調合する薬は万病に効くと言っても過言ではありませんから」
「この前の淫・フルエンザは防げなかったけど」
「あれは少々特殊かつ凶悪ですので……」
「二度とあんなことにならないように、魔物狩った後の手洗いうがいは必須だな」
完全に吸われきって干からびた状態を思い出し、レックスは身震いする。同時に、アイヴィももし姉妹や母に移っていたらとぞっとした。
そんな彼らを癒すように、商店街から焼き物や果実の甘い匂いが彼らの鼻をくすぐった。
「薬の材料ついでに果実でも見てみましょうか」
「うん、賛成だ。お腹がすいてくるな」
店舗に並ぶ青リンゴや野イチゴの数々。行き交う人々を魅了する、木の板の上に整列された焼き菓子。試食も行えるというサービスっぷりで、商店街は賑わいを見せていた。
そんな中のある一店舗にレックスたちは入店する。奥に座っていたのは初老の店主だった。
「おっ、レックス様にアイヴィ様じゃないですか! ようこそいらっしゃい!」
「うん、こんにちは。おじさん、このリンゴを五個くれないかな」
「はいよ! 美味しそうなのを選びますよ! ……ん?」
どこからか、ぴゅるりぴゅるりと高く響く笛の音。そして細く高く、しかしはっきりと聞こえる大きさで自らの出し物を宣伝する声。どうやら商店街の中を笛を吹いて宣伝する者がいるようだ。
「淫語屋ぁ~淫語屋だよぉ~。寄っておいでぇ~。淫語屋だよぉ~」
「なに!? 淫語屋だと!? こりゃあ大変だ!」
奥に座っていた店主が椅子を後ろに倒すくらいの勢いで立ち上がる。そのまま店のことは放っておいて出入口までいって、淫語屋と名乗る者が歩いていった方へ駆けていってしまった。
「む、これは珍しい。この領地に淫語屋が来るとは……」
「なんて? リンゴ屋じゃなくて?」
「淫語屋です。お金を払うことで、エロく聞こえる言葉を物凄くエロく言っていただけます。国中を周って、淫語をそれはもう感動するほどエロティックに囁いてくれます」
「思ったより数倍しょうもねぇ商売だった」
「とんでもない、ただのエロい言葉ではありませんよ。淫語屋を営むのはその道のプロ。男どころか女でさえも虜にするその言い方。惚けた人の感情はサキュバスにとって非常に美味しく……おっと、私はレックス様の感情しか食べませんのでご安心を」
「ボクがうんぬんかんぬんは放っておくとして、その商売そんな人気なのか? 喋るだけで国を周れるほど金を稼げるもんなの?」
その通り! アイヴィが答える代わりのように、わっと男達が淫語屋の声が聞こえてきた方向へと殺到する。さらに、恥ずかしがりながら駆けていく女性の姿もあった。さらに何が来たのかと野次馬の人々が続く。
これによりレックスたちの周りから、いや、商店街から人の気配がほとんどしなくなった。残ってるのは耳の遠いお年寄りや、ちらちらと人たちが消え去った方向を見やる数人の女性のみでる。
「とんでもない人気だった……」
「行きましょうレックス様。淫語屋は営む者がほとんどいない職業。この機会を逃せばいつ次に会えるかわかったものではありません」
「えぇ……? ボク達も行くの……?」
子供の力で魔族であるサキュバスに勝てるわけがない。レックスは手を引かれるままに、淫語屋がいる方へ引きずられるように歩いていくのだった。
「気になっていないからな。ボクはしょうがなくついていくんだからな」
「わかっています。しかし、淫語屋の言葉を聞けばレックス様もそのすごさがわかると思いますよ。さぁ、急ぎましょう」
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