異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

文字の大きさ
5 / 76
第1章 異世界教へようこそ

第4話 異世界教始動(後編)

しおりを挟む
 沙羅に連れられたのは柱が強調された白を基調とした外観の美しい平屋。季節の花ごとに花壇が分けられ旬の花が咲き乱れていた。

「この家って沙羅の家だったんだ」

 通学路にある1軒、前を通ると老夫婦が笑顔で良く雑談していた。将来あんな風に老後を過ごしたいなぁなんて高校生の僕に思わせるほど温かな雰囲気を感じさせる場所だった。

「明智さんの家はお金持ちだとは思ってたけど凄い家だね」と琢磨が家を見上げる。

「琢磨くん、ここって沙羅の別宅だって。自分専用の家なんだってさ」

 興奮した感情が僕と琢磨の多弁にする。

「ふたりともこっちよ」と沙羅に案内された部屋は12畳ほどの洋間。シックで高級感溢れる家具が並び、椅子に座るとタイミングを見計らったようにメイドが飲み物と食べ物を持ってくる。

 琢磨くんの前に置かれたデザート……これはもしかして……

 沙羅がグイッと前かがみになって口を開いた。
「相田くんにとっての異世界ってどんなところなのかなぁ」

 目は見開き星が輝かんばかりに笑顔になる琢磨。
「明智さんもラノベに興味があるんだね。まぁ異世界は空想の世界なんだけど夢があるよなー、異世界転移して勇者になって……ラノベを読んでいるとみんな主人公になれるんだ。西洋風の街並み、城、仲間……そしてモンスターとの戦闘…………」

 な、長い……かれこれ30分以上は語っている。

「た、琢磨君。さすが異世界通なだけあって詳しいね」
 話しの腰を折ろうと、気分を害さないように褒めたたえて。

「いやぁ、好きだからね」と右手を頭の後ろに当てて照れる琢磨、コップに手を伸ばしてジュースを流し込んだ。

「これもいただくよ」と琢磨は、銀色に輝くフォークで皿の果実に勢いよく突き刺して一口で頬張った。

「ん!」という焦ったような琢磨の言葉。一気に血の気が引いて不安が膨れ上がる。

「この果物すっごく美味しいね。今まで食べたことのない味……何かに吸い込まれるような……
これは何なの」とフォーク片手に興奮する。

 何事も無くて良かった……。そんな一喜一憂する僕を尻目に沙羅が笑顔で口を開く。

「美味しかったでしょう。私たちが作った異世界教の果実よ。それは異世界への道を作る神からの授かり物。私たちは『異世界リンゴ』と呼んでいるわ」

「へ?」と呆気にとられる表情。「異世界教?」「なんの遊び?」と途切れ途切れの言葉しか発することが出来ない琢磨に事情を話し始めた。

「私たちは異世界教をどう作っていくか考えているの。相田くんが異世界に詳しいという話を聞いて世界観を聞いて参考にさせてもらったの。ねぇ、朔弥」
「う、うん」
「でも相田くんには勘違いしてほしくないの。あくまで異世界の話しを聞きたかっただけ、引き入れようとか入ってもらおうとか考えてるわけじゃないから」

 沙羅は琢磨くんを入信者第1号にしようと言っていた。
 ……そうか、いきなり『入らない?』なんて言ったら怪しまれるもんなー。

「異世界教?宗教?まぁ、宗教なんて怪しい集団だろ。絶対に入らないけど異世界についての話し位ならしてやるよ」

 強張った表情が柔らかくなった。異世界教の怪しさより異世界を語る楽しさが上回ったのだろう。その証拠に1時間半、琢磨の異世界話が続いた。

 最初は全く興味がなかったが、あまりにも夢のある話しに興味を覚え、彼と話しができるようにラノベというものを読んでみようと思った。
 
 しっかし沙羅はジッと琢磨君の言葉に耳を傾けている。必要なところで頷き相槌をうつ。マニアックなことを沙羅キレイな女の子に興味を持って聞いてもらった経験なんてないだろうから、交互に顔を見ながら話していた琢磨くんはいつしか顔をほころばせ沙羅の方だけを見ていた。

「沙羅ちゃん、聞きたくなったらいつでも呼んでね」とニコニコ顔の琢磨、笑顔で帰ってった。

「終わったわね」
「それで琢磨君の異世界話は参考になったの?」
「全然聞いてなかったわ。聞いている風を装うのは淑女の嗜みね」と笑い、「目的は異世界リンゴを食べてもらうことと、異世界教を作ったということを知ってもらうだけだから」とウンウン頷いた。

 友人を騙したようで心苦しい。
「食べたからって体に害を及ぼすわけじゃないしぃ、みんなの良いところを少しづつ借りて光輝と結衣を助けるのよ」
「本当に良いのかなぁ」と肩を落とす。

「不思議な力に対抗するためには正攻法だけじゃダメなの」と沙羅は拳を掲げる。
「そうだね」と言葉だけ力強く答えた。そうでもしないと心が押しつぶされそうだったから。

「今日からここが異世界教の支部よ。いつでもここを使っていいからね。でも、私のことを襲っちゃだめよ」と沙羅は冗談交じりにウィンクした。
「え……だって、ここって君の別宅なんでしょ……それに支部って」
「やっぱり宗教の本部と言ったら富士山の麓よねぇ。そっちは私がなんとかするから当面はここが活動拠点ね」

 光輝と結衣を助けるアイデアが何も浮かばない……異世界リンゴを生み出すことしか出来ない僕にとっては沙羅に頼ることしか出来なかった。

「朔弥、明日相田君が異世界教に入りたいと言ってくるわ。そうしたら話しは絶対にこの場所で聞きなさい。以降は異世界教の話しを学校でするのは禁止」
「琢磨くんが異世界教に? あんだけ拒絶してたけど」
「大丈夫よ。朔弥はこれから異世界リンゴを採ることを考えて。あとは私が全部やるから安心して。ただ教祖であることは内緒、あくまで架空の人物モイセスが教祖、私たちは指示の元動いているということだけは忘れないで」

 沙羅の言葉に納得しか沸かない。

「これから入信希望者からお布施を募るわ。しかし強制は一切しない。一切払わなくても構わない方法をとっていくわ」
「お金を……?」
「そう。採れた異世界リンゴを与えるのはお布施が一番多い人にするの」
「宗教とお金って聞くと一気に胡散臭くならない?」
「だから払わなくても良いのよ。異世界教に価値を見出した人が払えばいいの。そのための異世界リンゴなんだから、だから受け取ったお金は全て朔弥のものね」

 え、全部僕のもの? なんかお金を受け取るということに罪悪感を覚えた。

「朔弥、いーい、私は光輝と結衣を助けたいの。なんとしても仲良くしてくれたふたりを助けたい。また4人で遊びたいのよ……だから一緒に頑張って……お願い」

 沙羅の言葉、光輝と結衣を助けるために他の人を巻き込んで良いのか。助けるためという大義名分が一本の蜘蛛の糸として救ってくれていた。沙羅の決意、その言葉が蜘蛛の糸を鋼の糸に変えた瞬間だった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム退治専門のさえないおっさんの冒険

守 秀斗
ファンタジー
俺と相棒二人だけの冴えない冒険者パーティー。普段はスライム退治が専門だ。その冴えない日常を語る。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...