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第1章 異世界教へようこそ
第5話 初めての入信者(前編)
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”リーン、リーン……”。けたたましくなる黒電話、スマホが着信の合図を一生懸命に報せる。
やかましい音に眠い目を擦って画面を見ると琢磨だった。
「朔弥くん、直ぐに異世界教に入りたいんだ。昨日の異世界リンゴを普及させる手伝いをさせてくれ」
彼の変わり身に驚く、昨日は絶対に入らないような口ぶりだったのに……沙羅の言ったとおりになった。
「ちょっと落ち着いて……、いきなりどうしたのさ」
「直ぐにでも話しを聞いて欲しいんだ。誰かに喋りたくって仕方がない……こんなことは君たちにしか言えない。今からそっちに行ってもいいかい」
時計の針は6時を回ったばかり、あまりにも興奮した口調と尋常じゃない早口に気になって眠気はすっかり吹き飛んでいた。
「分かった。じゃあ昨日話しをした家で待ち合わせしよう。あそこなら学校も近いからね」
沙羅に言われた通り支部を指定する。布団を跳ね上げて着替えると食事もせずに家を飛び出した。
沙羅の連絡先をタップして自転車にまたがる。イヤホンからは鳴り続けるコール音。
「ひとりで大丈夫かな」。小さく呟く。不安でいっぱいだが向かうしかない。
1番に到着。沙羅とはまだ連絡が付いていない。何度も沙羅の連絡先をタップして連絡をとり続けた。
「おまたせ」
琢磨は平静を装ってはいるが、その顔は喜びに満ち溢れ興奮冷めやらぬといった表情。
「沙羅と連絡が取れなかったから僕が聞かせてもらうよ」
ドキドキする鼓動、喉から心臓が飛び出そうな程の緊張を抑え込む。
扉を開くとメイドがひとり立っていた。
「朔弥様、お待ちしておりました」
ふわりと髪をなびかせて振り返ると「こちらへどうぞ」と部屋に案内してくれた。
「昨日な、夢を見たんだよ」
座るや否やマシンガンのように話し始める琢磨。僕の言葉をはさむ余地がないスピードで言葉の弾を撃ってくる。
「あのさ……夢を見てさ、ラノベで見た夢のような世界が広がっていたんだ。そこに光輝がいてな、結衣を探すんだってパーティーに誘われてな。それからそれから、光輝に言われたんだよ。『朔弥にリンゴをもらったんだろう』って、協力する仲間を出来るだけ集めて欲しいって頼まれたよ」
琢磨が一息ついた所で沙羅が部屋に入ってきた。
「相田くん、リンゴを食べた者は異世界と意識を共有し睡眠をキーとして記憶が切り替わる。その力として意識した能力を得ることが出来るのよ」
説明しながらゆっくり歩んでくる。琢磨が入信を希望すること、異世界リンゴの効能、全てを知っているかのように自身に満ち溢れた表情。
「沙羅ち……いや、明智さん……確かに俺は異世界で力を得た。しかし引き換えに失ったものも有る。でも夢のような世界にいつでも行けることが何より嬉しいんだ……頑張ればいつかきっと勇者となって魔王を倒せる日もくるかもしれない」
晴れやかな琢磨の表情。そんな雰囲気に水をさすようにメイドが顔を出し「お嬢様、そろそろ学校に行かないと遅れてしまいます」と声をかけた。
琢磨は立ち上がって「俺はこの異世界教に入信するよ、この素晴らしさを世間に広めたい。君たちのためにも頑張るよ」と天を見上げると、「あとでルールを教えてくれよな」と去っていった。
「これで私たちは待つだけ。少しづつ種が広がっていくわ」
この時僕の心は、『歓びと不安』の感情が複雑に入り混じっていた。
* * *
放課後、琢磨のラノベ仲間3人が支部に集まっていた。怪訝な表情を浮かべている者をいるが、心の奥底にある期待を秘めているようにも感じていた。
まだ『エデン』に異世界リンゴは実っていない。
あれから何回あの場所に行っただろう。あの時に会った女性に話が聞きたくて……いつしか僕の中であの場所をエデンと名付けていた。
「異世界教へようこそ」
沙羅が笑顔で話し始めた。それを黙ってじっと聞く。
「異世界教の信仰する神はケルビン、教祖はモイセス。私と朔弥はその教えを伝える神子です」祈るように両手を組む沙羅、「わが異世界教の信仰は自由、広めたければ広め隠したければ隠しても良いのです」
演技でもしているような神々しい雰囲気に息を飲む。しかし時折こちらを向いては息を抜くようにペロッと舌を出す姿に『うまいなぁ』という感心しかなかった。
教えを説いていく沙羅、琢磨は目をキラキラさせて聞いているが、仲間たちは眉間にしわを寄せ怪しいものを見るような表情。
「……異世界リンゴはいつ賜るか分かりません。その時に一番奉納金が多い人に分け与えられるのです」
最後に添えた一言で場の空気が一気に変わった。
お金の話しになると一気に胡散臭く感じるのは誰しも同じ。
仲間のひとりは「やっぱ金かよ」と呆れ「帰ろうぜ」と促す。ひとりは同調して無言で立ち上がったが、もう一人は「僕は残る」と財布に手をかけた。
裏切られたように感じたのか「琢磨、憲久、俺たちはそんな怪しい集団に近づきたくないからな……いくぞ」と声を張り上げ、立ち上がった男の腕をつかんで家を出て行った。
憲久は財布から5,000円札を取り出すとテーブルの上に置いた。
「僕は上杉 憲久、異世界教に入らせてもらうよ」と笑顔。
いきなり神だの異世界だの言われてお金を要求されたら僕だったら逃げだす自信がある。なんで入ろうと思ったのか不思議になった。
「憲久、俺とお前はラノベ仲間であり異世界教仲間だな」
琢磨の言葉に憲久は「こういう集団って先に入った方が得なんだ。だまされている可能性もあるけど良い思いをするためにはリスクもとらないとね」とメガネをクイッと上げた。
僕と琢磨は驚きのあまり開いた口が塞がらない。沙羅だけは笑顔になっていた。
「上杉くん、相田くんと共に異世界教の教徒として認めます。異世界教へようこそ」
──ザワッ
体に感じる違和感……これはエデンの風。もしかして……
僕の違和感に気づいたのか沙羅は「神からの賜り物が実ったようですね。朔弥、モイセスから異世界リンゴを受け取ってきなさい」と一言、奥からメイドが姿を現し別室へと連れて行かれた。
やかましい音に眠い目を擦って画面を見ると琢磨だった。
「朔弥くん、直ぐに異世界教に入りたいんだ。昨日の異世界リンゴを普及させる手伝いをさせてくれ」
彼の変わり身に驚く、昨日は絶対に入らないような口ぶりだったのに……沙羅の言ったとおりになった。
「ちょっと落ち着いて……、いきなりどうしたのさ」
「直ぐにでも話しを聞いて欲しいんだ。誰かに喋りたくって仕方がない……こんなことは君たちにしか言えない。今からそっちに行ってもいいかい」
時計の針は6時を回ったばかり、あまりにも興奮した口調と尋常じゃない早口に気になって眠気はすっかり吹き飛んでいた。
「分かった。じゃあ昨日話しをした家で待ち合わせしよう。あそこなら学校も近いからね」
沙羅に言われた通り支部を指定する。布団を跳ね上げて着替えると食事もせずに家を飛び出した。
沙羅の連絡先をタップして自転車にまたがる。イヤホンからは鳴り続けるコール音。
「ひとりで大丈夫かな」。小さく呟く。不安でいっぱいだが向かうしかない。
1番に到着。沙羅とはまだ連絡が付いていない。何度も沙羅の連絡先をタップして連絡をとり続けた。
「おまたせ」
琢磨は平静を装ってはいるが、その顔は喜びに満ち溢れ興奮冷めやらぬといった表情。
「沙羅と連絡が取れなかったから僕が聞かせてもらうよ」
ドキドキする鼓動、喉から心臓が飛び出そうな程の緊張を抑え込む。
扉を開くとメイドがひとり立っていた。
「朔弥様、お待ちしておりました」
ふわりと髪をなびかせて振り返ると「こちらへどうぞ」と部屋に案内してくれた。
「昨日な、夢を見たんだよ」
座るや否やマシンガンのように話し始める琢磨。僕の言葉をはさむ余地がないスピードで言葉の弾を撃ってくる。
「あのさ……夢を見てさ、ラノベで見た夢のような世界が広がっていたんだ。そこに光輝がいてな、結衣を探すんだってパーティーに誘われてな。それからそれから、光輝に言われたんだよ。『朔弥にリンゴをもらったんだろう』って、協力する仲間を出来るだけ集めて欲しいって頼まれたよ」
琢磨が一息ついた所で沙羅が部屋に入ってきた。
「相田くん、リンゴを食べた者は異世界と意識を共有し睡眠をキーとして記憶が切り替わる。その力として意識した能力を得ることが出来るのよ」
説明しながらゆっくり歩んでくる。琢磨が入信を希望すること、異世界リンゴの効能、全てを知っているかのように自身に満ち溢れた表情。
「沙羅ち……いや、明智さん……確かに俺は異世界で力を得た。しかし引き換えに失ったものも有る。でも夢のような世界にいつでも行けることが何より嬉しいんだ……頑張ればいつかきっと勇者となって魔王を倒せる日もくるかもしれない」
晴れやかな琢磨の表情。そんな雰囲気に水をさすようにメイドが顔を出し「お嬢様、そろそろ学校に行かないと遅れてしまいます」と声をかけた。
琢磨は立ち上がって「俺はこの異世界教に入信するよ、この素晴らしさを世間に広めたい。君たちのためにも頑張るよ」と天を見上げると、「あとでルールを教えてくれよな」と去っていった。
「これで私たちは待つだけ。少しづつ種が広がっていくわ」
この時僕の心は、『歓びと不安』の感情が複雑に入り混じっていた。
* * *
放課後、琢磨のラノベ仲間3人が支部に集まっていた。怪訝な表情を浮かべている者をいるが、心の奥底にある期待を秘めているようにも感じていた。
まだ『エデン』に異世界リンゴは実っていない。
あれから何回あの場所に行っただろう。あの時に会った女性に話が聞きたくて……いつしか僕の中であの場所をエデンと名付けていた。
「異世界教へようこそ」
沙羅が笑顔で話し始めた。それを黙ってじっと聞く。
「異世界教の信仰する神はケルビン、教祖はモイセス。私と朔弥はその教えを伝える神子です」祈るように両手を組む沙羅、「わが異世界教の信仰は自由、広めたければ広め隠したければ隠しても良いのです」
演技でもしているような神々しい雰囲気に息を飲む。しかし時折こちらを向いては息を抜くようにペロッと舌を出す姿に『うまいなぁ』という感心しかなかった。
教えを説いていく沙羅、琢磨は目をキラキラさせて聞いているが、仲間たちは眉間にしわを寄せ怪しいものを見るような表情。
「……異世界リンゴはいつ賜るか分かりません。その時に一番奉納金が多い人に分け与えられるのです」
最後に添えた一言で場の空気が一気に変わった。
お金の話しになると一気に胡散臭く感じるのは誰しも同じ。
仲間のひとりは「やっぱ金かよ」と呆れ「帰ろうぜ」と促す。ひとりは同調して無言で立ち上がったが、もう一人は「僕は残る」と財布に手をかけた。
裏切られたように感じたのか「琢磨、憲久、俺たちはそんな怪しい集団に近づきたくないからな……いくぞ」と声を張り上げ、立ち上がった男の腕をつかんで家を出て行った。
憲久は財布から5,000円札を取り出すとテーブルの上に置いた。
「僕は上杉 憲久、異世界教に入らせてもらうよ」と笑顔。
いきなり神だの異世界だの言われてお金を要求されたら僕だったら逃げだす自信がある。なんで入ろうと思ったのか不思議になった。
「憲久、俺とお前はラノベ仲間であり異世界教仲間だな」
琢磨の言葉に憲久は「こういう集団って先に入った方が得なんだ。だまされている可能性もあるけど良い思いをするためにはリスクもとらないとね」とメガネをクイッと上げた。
僕と琢磨は驚きのあまり開いた口が塞がらない。沙羅だけは笑顔になっていた。
「上杉くん、相田くんと共に異世界教の教徒として認めます。異世界教へようこそ」
──ザワッ
体に感じる違和感……これはエデンの風。もしかして……
僕の違和感に気づいたのか沙羅は「神からの賜り物が実ったようですね。朔弥、モイセスから異世界リンゴを受け取ってきなさい」と一言、奥からメイドが姿を現し別室へと連れて行かれた。
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