異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第2章 異世界教と異世界教

第10話 禁忌

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 異世界教の禁忌を破って異世界リンゴを食してしまった主人公の朔弥。見知らぬ地でひとり、不思議な紋様の描かれた石碑に飛ばされていた。

 沙羅の渡した『禁断の果実』で光輝と結衣を助けるため異世界に飛んでいた『斑霧むらぎり しずく』と再会。なにやら様子がおかしい。

 全てが僕のえがいている世界と違う。一体僕の知らないところで何が起きているんだ。


「私は確かに雫です……しかし、私はあなたのことが分かりません」

 容姿は雫、声も表情も雫そのもの。違うのはグレる前の優しく頼もしい雫……。

「そっか……。君は僕の幼馴染にそっくりだなぁって思ってね。……懐かしいなぁ。ところで君はこんな所で何をしているの?」

「私は異世界教の教祖であるソウジャ様と光輝様のめいによってこの地を守っています。もし………………」

 光輝の名が出たとたん頭がグニャグニャして雫の声が耳に入らない。

「こ、こうき……さま?」

「そうです。私は過去の記憶がないんです。どこから来たのか何者なのか……それを光輝様が拾ってくれた……恩返しとしてこの聖地を守護しています」

 光輝が飛ばされた世界か。どこかに異世界リンゴを食べた教徒もいるのだろう。……記憶を無くした雫。……異世界にも作られている異世界教……。どういうことなんだ。

「もしかしてあなたは私の事を知っているんですか? …………いや、止めておきます。なんとなく知らないほうが良い気がするので」

 雫の言葉……勘が良すぎて何かを察っすると怖くて止めてしまう。中2までの彼女と全く一緒だ……。きっと彼女は僕の幼馴染の雫で間違えないのだろう。

「雫さんは今の生活を気に入ってるの?」

 なんでこんな言葉が出たのだろう……。連れ戻したいと思っていた。優しい彼女を見ていると本当に良いのか戸惑ってしまう。

「分からない……分からないんです。でもいつか想いを寄せていた彼が助けに来てくれる気がするんです」

 雫の想い人なんて聞いたことがない。人気のあった光輝か、それとも過去形だから別の高校に行った誰かか。

「そんな話しを僕にしてしまって良かったのかい」
「なんででしょう。名前を知らないし初対面なのに……」

 僕は立ち上がって答えた。
「サク……」
「サク?」
「……ラって言うんだ。心花コノハナ サクラ、サクラって呼んでくれ」

 琢磨くんたちと話しをするために読み漁ったラノベの影響かぁ。咄嗟に頭に浮かんだのは女神をもじった名前。

「ふふふ、私は斑霧むらぎり 雫《しずく》よ。雫って呼んでね」

 今の雫と話していると昔を思い出してしまう。グレる前の雫……懐かしい気持ちが心を温かくする。

 しかし光輝がソウジャと言う者と関わっているという異世界教。結衣を探していたはずの光輝が一体なぜ……そんな不可解な状況が本名を隠したほうが良いのではないかという考えになったのだ。

「ああー、そろそろ聖女様が来るんだったわ。私は行くけどサクラも一緒に行く?」

 彼女の言葉に首を横に振る。何より出来るだけ人に会いたくない。
 僕は一刻も早く元の世界に戻ってこの世界で何が起こっているのかを琢磨くんに聞きたい。

「ここに来たことだけはバレないようにしないとな……」

 小さな僕の言葉、既に雫は遠くでこちらに笑顔を向けて手を振ってくれている。座ったまま笑顔で小さく手を振り返した。

「やっぱりエデンで食べた果実が原因だよなー」
 前に琢磨くんが寝ると世界が切り替わるようなことを言ってたよな。

「まぁぜんぜん眠くないしこの辺でのんびり時間を潰すか」

 何もない時間は色々な考えを巡らせる。学校のこと、結衣や光輝のこと、沙羅のこと。

「あれ? 僕が採った異世界リンゴを食べた人は光輝の元に集う……ということは」
 僕が光輝の元に行かなかったのは僕が採った異世界リンゴじゃないから……木を揺すった女性に関係があるのかも。

「うーん、分からん」

 そのまま大の字になって横になった。

 頭越しに伝わってくる振動、遠くで誰かが駆けている。徐々に近づいてくる足音。

「おい、お前はあっちを探せ」
 男の怒号が耳に入る。
「雫のやつ、ちゃんと仕事をしろってんだよな」

 探しているのは……僕? 反射的に目についた木の洞に姿を隠した。

 腰の高さほどの洞、入ってみると意外と深い。頭を丸め膝を抱えてやり過ごうそするがこんなに目立つところ真っ先に探されるんじゃないか。

 大きくなる不安、恐怖から小刻みに動き始める鼓動。

 ドキ……ドキ……頭を伏せて抱えている膝を力強く抱きしめる……。が、いくら経っても音は近づいてこない。

「憲久様が居れば直ぐに見つかるんだけどなぁ」
 探し疲れたのか大きなため息とともに聞こえてきた。

 憲久くん……確か空間透視の能力があるって言ってたな。意識をドローンのように飛ばすって……。
「憲久様は調査で手一杯らしいからな」
「ああ、確か結衣とかっていう聖女の身辺調査だって言ってたよな」
 
 ゴンッ。思わず立ち上がって頭を強打。あまりの痛みに意識が薄れる……
 遠くなっていく男たちの声……
「雫も人を見かけたなら捕獲するか特徴くらいしっかり捕らえろってんだよな」
「仕方ないさ、特定区域にいる人間なんてヤバいやつしかいないだろうかなら」

「ゆい……ゆ……い……」

* * *

「ん、ん~」
 目覚めるとベッドの上、いつもと変わらぬ朝。さっきまでの出来事が夢のように思い出される。

「夢……のはずはないよな」
 夢ではない確証があった。全ての出来事を細部まで覚えている。夢であればせいぜい覚えているのは大雑把な背景と白黒の景色だけ。

「これが琢磨たちの言う異世界への旅か」
 思い出し笑いならぬ思い出し興奮。アドレナリンが大量に分泌している。確かに異世界リンゴを食べた後にあんな経験をしたら信じてしまうだろう。

 いや……それよりも僕はやらなくてはならないことがある。雫のこと……あの世界のことを知らなくてはならない。

 スマホを取り出して琢磨くんの連絡先をタップする。

「朔弥くんどうしたの。電話してくるなんて珍しいね」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど放課後に支部へ来てもらっていいかな」
「いいぜ、おっけー」

 琢磨くんを呼び出すことには成功。あとは放課後までに怪しまれないような質問方法を考えなければならない。普通に興味本位で聞けばいいだけなのだが、後ろめたさが不安を煽ってくる。

「とりあえず用心に越したことはない」

 そう心に言い聞かせた。
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