異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第2章 異世界教と異世界教

第11話 異世界の理(前編)

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 放課後支部に向かって自転車を走らせていた。

 異世界から戻った後、うまく話しを聞こうと琢磨くんを誘い出したのだ。
 
 支部につくとルーセットさんがお茶を出してくれる。リラックス効果がありそうなお茶を一口飲む。

「朔弥くん、話しってなんだい?」  

 授業中にシミュレーションはしてきた、あまり深く考えすぎずに興味本位を全面に押し出せばいいんだ。大丈夫、大丈夫、大丈夫。
 
「最近教徒が増えてきたからね。みんなが異世界でどんな生活をしているのか気になってね。結衣のことも心配だし」

「異世界リンゴを教祖から貰うのが大変すぎて異世界のことまで気が回らないのかと思ってたよ。明智さんもそう言ってたしな! よし、任せろ。俺が教えてやる」
 両手でテーブルをドンッと強く叩いて立ち上がた。その目は子供のようにキラキラさせている。僕の反応を待つことなく興奮しながら話し始めた。

「実はな、光輝様が探していた女の子が見つかったんだよ。それも聖女様としてな」
「結衣……が、聖女様?」
 昨日の経験でその事を知っていた。が、全て知らないフリを通そうと決めていた。

「そうなんだよ。異世界では女性が国のトップになるんだ。俺たち異世界教がある都市はソウジャ様、他の国での女王候補のひとりが聖女結衣ってわけだ」

 訳が分からない。なんで……何から聞いて良いのか……頭がクラクラする。

「光輝様の話しによると聖女結衣は探している結衣じゃないって言うんだ」
 掌を口角に当ててヒソヒソ話し出す琢磨。続けて「この話しは異世界教の幹部しか知らないから内緒な」と添えた。

「そうだ……雫はどうした? 光輝の助けにはずなんだけど」
 視線を中空に動かし考え始める琢磨。

「ああ、朔弥くんは雫の知り合いだったな。来てるよ……ただな、光輝様の命令でエンブレリースポットを監視しているんだ」
「エンブレリースポット?」
「まぁ、異世界教にとって大事な場所らしいな。詳しくは知らないけどそこに秘密が隠されてるとかなんとか……。まあ、雫は大して強くもないし警備程度しか使えないからな」

 雫が強くない? 憤慨しそうになるがグッと抑える。沙羅の言葉は一体……光輝を助けるために行ったんじゃ……そんな僕の気持ちを知らず楽しそうに話を続ける琢磨。

 異世界では想像した通りの町並み、お金がこっちと共有されている……これは前に聞いた。異世界リンゴで向こうに行った者は常に異世界に居られないこと……どちらの世界でも記憶は不思議と途切れることがないということ。色々な情報を話してくれた。

「あら朔弥、いらしてたのね」
 扉の奥から出てきたのは沙羅。

「あ、ソウジャ様」
 琢磨の言葉……一瞬で血の気が引いた。

「あら、私は沙羅ですわよ」
 笑顔で一言。どことなく緊張感が漂う。沙羅は続けて口を開いた。
「朔弥に余計なことを言わないでもらって良いかしら。彼はモイセスとの橋渡しをする大事な人なの。心を乱して異世界リンゴがいただけなくなったらどうするの」

 慌てて頭を下げる琢磨。
「すいません、つい朔弥くんならと思って」

「いえ、いいんですの。朔弥は私と同じ神子ですから。ただ、私と違って異世界教にとって大切な人なの。異世界教を大きくするためにも出来るだけ心を揉むようなことをさせたくないの」

「分かりました。それじゃあ俺は帰ります」
 あたふた帰り支度をする琢磨。さっさと支部を出ていった。

 琢磨くんの『ソウジャ様』という言葉が頭から離れない。
 『異世界教の教祖であるソウジャ様と光輝様』雫は確かにこう言っていた。

「朔弥、琢磨くんの言葉は気にしなくて良いのよ。異世界教で起こった煩わしいことは全て私に任せて。あなたは光輝と結衣、そして雫さんを助け出すための異世界リンゴを生み出すことに集中して」
「で、でも……僕だけ遊んでるわけには」
「一生遊んで暮らしても有り余るお金が溜まったんだから好きに使って大丈夫なのよ」
「なにか協力できることはないかな……」

「あなたの精神状態がいちばん大事なの。みんなのことは私が何とかするから彼女でも作って……ひとりとは言わず2人でも3人でも好きにしたらいいわ……なーんてね」
 ウィンクしてニコリと笑う沙羅。
 考えていなくても女の子に囲まれる妄想が浮かんでしまうのはさがなのだろうか。

「それと朔弥、異世界リンゴは食べちゃダメよ。採った人本人は食べられないからこそのルールよ。イレギュラーで食べることになっても試しちゃだめよ。ひとりでも多くの仲間を光輝の元に送り届けてあげましょ」
 沙羅の言葉に不信感を覚えた。何かを隠しているようにしか思えない。もう一度……もう一度異世界に行って情報を得たい。

 待てよ……沙羅の言葉『採った人本人は食べられない』。そうか、あの時に『異世界リンゴ』を食べられたのは僕が採った訳じゃないから……つまり僕が採らないで食べる方法を考えれば。

 焦る気持ちは試したくなったからこそだろう。
「分かった。じゃあ僕は帰るね」

 家に帰ろうと立ち上がった瞬間沙羅に声をかけられた。

「もし、もしもよ。何かのキッカケで異世界に引っ張られることがあったら、不思議な石碑を見つけても絶対に触ったらだめよ。あれは特別な物だから……私たちにはまだ過ぎたるものだわ」

「それって──」
 僕の言葉を待つことなく彼女は奥へと消えていった。

 沙羅は僕が異世界に行ったことを知っている……?
 いや、そんなはずはない。でも彼女は僕が知らないことを知っている。つまりエデンでなんらかのイレギュラーがあることを知っているのかもしれない。

 * * *

 自宅に戻ると直ぐにエデンへと向かった。

「信じられない……」
 この間訪れた時に見た荘厳な大自然、陸地の先に見える空……「ここは浮いているのか?」

 出口を求めて走り回って記憶、森の中を彷徨いどうすることも出来なかった記憶……あの時に『異世界リンゴ』を持っていなかったらどうなっていたんだろう。
 ブルリと冷たいものが背筋せすじを駆け抜け体を震わせる。

「リンゴは……」
 立派な樹木に実る異世界リンゴがひとつ。この間は何者かが揺らして落ちた実を食べたら異世界に行けた。
「それなら」
 幹に両手を当てて力を込めてゆすってみる……

 が、

 ピクリとも動かない。

「やっぱりダメかぁ……」
 大の字になって空を見上げた。青い空……気持ちい風が吹き抜け心が癒される。

「あれ……あの空……」
 見慣れた空だと思っていたがよく見ると違和感。なんとなく透けているようなどこかに繋がっているような不思議な空間だった。

 日常とは違う場所だと改めて感じる。
「そういえばお金……」
 琢磨くんと憲久くんの言葉。

○。○。○。○。
「凄いよな、あっちでお金を稼げばこっちのお金も増えてるんだもんな」
「琢磨はがっつきすぎだよ。僕は必要最低限で十分、それよりも念じるだけで出し入れできるのは便利だよな」
○。○。○。○。
 
「まさかなぁ……お金よ出てこい」

 叫んでから恥ずかしくなる。
 無意識に頭を掻くと足元にガサッと草葉の陰に何かが落ちた音。そこにはブロンズ色の小さな玉がゆらゆら揺れていた。

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