異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第2章 異世界教と異世界教

第12話 異世界の理(後編)

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 足元に転がるブロンズ色の球。
「なんだこれ、10円玉みたいな感触だな」
 
 そういえば琢磨くんが話してたっけ。

 体の中に吸い込むようなイメージをするとフッっと消失、取り出すイメージをすると手の平に収まる。

 出し入れ自由自在。あの時琢磨くんと憲久君が言っていたお金……確かに硬貨しかない。

 僕がイメージした金額に相当する球が出てくる。素材や感触が日本円と類似性が高い。お札に当たる金額にも球が割り振られているようで高価そうな素材が使われていた。

 不思議な出来事に興奮、何度も出し入れしているうちにふと現実に戻った。

「異世界リンゴ!」

 こんなことをしている場合ではない。異世界に行くためにリンゴを採らないと。

 この間の女性はいない。リンゴの実る木を必死に揺らしてもピクリともしない。

「もしかしてさっきの硬貨たまはフラグか!」
 ブロンズ色の球を取り出して枝に向かって投げつけた。
 大きく外れ葉を揺らす。

「やっぱり当たるわけないか」

 何度か挑戦するも都合よくリンゴを落とせるはずもなく……偶然にもリンゴに向かった球は、反射するように弾き返し100発100中で投擲とうてき者にあざを作った。

「ダメかぁぁ……! あっ、遠くの景色が見えるようになったことがフラグで普通に採るだけでいけたりして」

 考え方がラノベ脳に向かってしまうことに落ち込みながらリンゴに手を伸ばした。

 * * *

「は!?」
 意識が戻った場所は自室。周りの風景で失敗したことに気づく。その後数日かけて色々試したが上手くいくことはなかった。

 そんなある日、日課となったラノベを読んでいるととある能力に目がいった。

 ──レールガンを題材にした作品。

「こんな能力があったらリンゴの枝をピンポイントに狙えるんじゃないか!」

 エデン……異世界……琢磨くんや憲久くんは異世界リンゴを食べて能力を手に入れたんだ。もしかしたら僕にも何らかの能力が身についているのかもしれないぞ。
 
 右手を前方に突き出す。
「聖なるいかづちよ我の問いかけに応え裁きを与えたまえ」
 頭に浮かんだフレーズをラノベの主人公張りに叫んだ。

 …………

 込み上げる恥ずかしさが数秒の時を止める。

「さて次の方法を考えるか」
 恥ずかしさのあまり何事も無かったかのよう振る舞う。

 銃なんか持ってないし……スリングショットは……いやダメだ。そもそもエデンに物を持っていけない。

「あー!」
 大声を出してベッドから飛び降り大きな音を響かせる。
「何やってるのー!」
 下の階から木霊のように反響した怒号が返ってきた。
 慌てて口を抑えてベッドに座る。

 カチッ、カチッ……

 さっきの振動で動き出したのは『ニュートンのゆりかご』。
 吊り下げられた鉄球が5つ並び、端の球を持ち上げて離すと制止した他の球へ衝突して反対側にある球が同じ速さで弧を描いて飛んでいく。

 持ち上げては放し、持ち上げては放す。
 カチカチ音を響かせるニュートンのゆりかご。頭の中にぼやっとしたヒントのようなものがグルグルと渦巻いた。

「ニュートンのゆりかごのを応用したいい方法はないかな……」

 いくら頭で考えても何も浮かばない。それでどころか思考がぐちゃぐちゃするばかり。文明の利器であるスマートフォンを開いて調べてみた。

「ガウス銃……にコイル銃か」
「それでガウス銃は磁石で……コイル銃は磁石と電流を使うのか」

 さっき試したレールガンの実験で電流が出ないことは分かっている。まあ磁石だってそんな都合よく出るはずがないよな。

 サラサラと湧き出る黒い砂。

「なんか出た……」

 手の平に生み出された黒い砂。ビックリして手をひっくり返すとパラパラと落ちてスマートフォンケースのカバーを留めるマグネットに貼りついた。

「これは砂鉄……か……」

 色々と実験をしてみると磁力が自在にいじれることが分かった。
 ネット情報を元に、ニュートンのゆりかごを分解して、ガウス銃を手の中で再現してみたがどうもうまくいかない。

 ──実験すること数日。

 試行錯誤の結果、親指の爪を強い磁力を付与した砂鉄で覆い、指を弾く時に一気にS極とN極を反転させることで何十倍もの威力で放てることが分かった。

「やったぁ、あとはキチンと狙いを付けられるように少しずつ磁力をあげて練習しよう……でも家の中は止めておかないと」

 実験の結果を物語る惨状へと変わり果てたボロボロの部屋を見て思うのであった。
 
* * *

 場所はエデン、ここなら誰の邪魔も入らないし誰にも迷惑をかけることもない。

「よし、やるぞ!」

 狙いが付けられるようになると、枝に当ててリンゴ落とすだけではなく何か合ったときの攻撃手段としても使える。
 異世界であれば硬貨を使えば弾は無限大、硬貨にも砂鉄を纏わせることでどんな素材も球となるのだ。

 偶然か必然か硬貨の価値が高いほど威力が強い。磁力の強度調整、狙いの練習、できることは沢山ある。
 森の木や枝を的にして練習を続けた。練習すれば練習するほど精度も上がり手に馴染んでくる。自分自身が強くなっているようで嬉しい。

『森をいじめちゃメーなの』

 !?。木の上にぼやっとしたもの。っと認識したと思ったら既にその場にはいなかった。

「もしかして木の精か……いや、か」

 唐突に沸き上がる虚しさ。言葉にしたことの後悔。唯一の救いが周りに誰もいないということ。

「そういえば、エデンって生き物を見ないな。これだけ自然が多ければ見かけてもよさそうなものだけど」

『あんたなんかに見えるわけないのー』

「ん?」
 風に乗って流れてくる声、どこから聞こえてくるんだ。

「君は誰なんだ。良かったら姿を見せてくれないか」

『あなた、マサンの実を食べてるんだね~。もしかしたそのうち会うことがあるかもしれないよ~。い~い森をいじめたらメーだからね~』

 その声は風と共に遠くに飛んでいった。


「よし!」
 異世界リンゴの実る木に向かって歩みを進める。今度こそうまくいく自信があった。心配なのは僕が採ったことにならないかという点だけ。

 狙うは枝、威力を弱めに打ち込んで揺れた反動で実を落とす。

 1発2発3発……なかなか狙い通りにいかない。他の枝を揺らして葉を落としまくった。
「また木の精に怒られないよな」

 そんな不安を胸にリンゴを狙う、少しずつ目標に近づいて入るが葉を落とし弾かれて痣を作り……数日後……異世界リンゴを落とすことに成功した。

 そして僕は2度目の異世界に旅立つのであった。


《ちなみに》

 失敗した日は異世界リンゴを採って沙羅に渡した。
 硬貨を打ち込んで外した分のお金はしっかりと通帳から減っていた。どういう仕組なのか不思議に思いながらも、取り出した弾はやっぱりお金だという確信へと変わった。
 
 そして硬貨をはじくこの技を『フリックバレット』と名付けた。厨二病的な名前をかっこいいと思うようになったラノベ脳に少し落ち込んだのであった。

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