異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第2章 異世界教と異世界教

第15話 伝説の長老

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「わたしはウタハ・ニード、森の都シェッセルの長老です」
 天然で年上のお姉さんと言う感じ。

「あんなに強いんだったら異世界教を潰せるんじゃないですか」
 素朴な疑問だった。この町最強の騎士団といわれるウィル隊を全滅させた能力を見破った力、長老と言うくらいだから物凄い体力がないとか……

「サクラ、それには訳があるの。長老はこの世界で伝説の英雄パーティーを担った一人。世界を滅ぼすほどの力をもつ彼女たちは『戦わずの誓い』があるんだって」
「そうなのです。イザと言う時はみんなを守るつもりではいますがおいそれと手を出せない、私たちは『戦わずの誓い』を交わしているんです」

 ラノベで聞くような設定。伝説の戦士……◯トの血をひく者……こんな状況なのに心がワクワクしてしまう。

「サクラさんがここにいるということは何らかのマサンの実を口にしたということですよね」
「マサンの実?」
「神より与えられし果実です。この世界に生まれた者はパライソの実を口にする。この世界に来るものはマサンの実を口にするというわけです」

「長老、パライソの実ってシーラで取ってくる雫で実る果実ですよね」

 サマンの実? パライソの実? シーラ? 良くわからない用語が並ぶ。

「シーラはシェッセルから北東に行った祠、世界を知る意味で見学のつもりで行ってみると良いでしょう」
「サクラ、それじゃあお昼を食べたら出発しましょう。それまで少しは武器を使えるように訓練しなくっちゃね」

「サクラさんの同行はウィルたちに頼みましょう。雫さん、あなたはここに残って私と稽古ですよ」
「やったぁー。族長に稽古をつけてもらえるなんて嬉しいわぁ」

* * *

 今、シェッセルのとある建物にいた。雫の訓練を受けるために、この町にある木造の訓練場に来ていた。体育館を少し広くした程度の広さ。

「いくわよサクラ」

 襲いくる雫の刀。

 キーン、カーン、キーン、キーン、カーン、キーン、カーン

 受けやすい場所を狙ってくれている。しかし……でもどんどんスピードが早く……

「うわぁー」
 
 大きく地面に尻もち。剣は弾かれ宙を舞って目の前に突き刺さる。

「いててて……」

 突き刺さった剣を杖がわりに立ち上がって引き抜いた。

「この剣って凄いね、全然刃こぼれしてないよ」

「光輝様が前に言っていたわ。こっちの世界は素材をどう活かすか、いかに強化するかに特化した技術革新を進めているんだって。あっちの世界はいかに便利な世の中にするかを競ってたなぁって」

「そういえば道も頑丈だったもんね。……それにしても流石は雫だな、居合術師範なだけはあるよ」

 僕の言葉に首をかしげる雫。

「居合術? 刀が妙に手に馴染むような感じがあったけど居合術なんてやったのねー私」
「小さい頃から巻藁やいろんなものを切ってたよ」

 僕は剣を鞘に納めて見様見真似で一気に引き抜いて宙空を切り裂いた。
 雫は「居合抜きってやつだね」と僕の真似するように居合斬りを試すと……空を切り裂く音ととも振動が伝わってきた。

 雫は「ふむっ」と考え込むと動きを確認しながら居合斬りの練習を始めた。
 僕の存在感が消失したように「これなら」とか「ここで力を抜けば」とぶつぶつ言っている。

「よし! これなら」
 雫の顔つきが変わった。目標を睨みつけ細く吹き抜ける息遣い、ゆっくりと落ちていく肩。次の瞬間、すさまじい殺気とともに刃が鞘から解き放たれた。

 無音……風も衣擦れの音もしない。雫の残心。
 思わずその姿に見惚れてしまう。

「あ、雫、凄い」

 ゆっくり体を戻す雫。

「凄い凄い」と叫び、近くに駆け寄ると「さすが雫だ、昔は…………」これまで僕が見てきた彼女の凄さを一心不乱に喋りまくった。

「わたしがそんなことを……もっと強くなれる……」

 黄金の光りが雫を包んだ。その光はとても力強く……感じたことのある光。そうだ『黄金のリンゴ禁断の果実』と同じ感覚だ。

 雫はゆっくりと柄を握り居合斬りの体制になった。

「サクラ、ちょっと離れてて」
 今までにない自信に満ちた声、僕はゆっくりと後ずさって離れると彼女の中から沸き上がる息吹のようなものを心に感じた。

「ゴクリ」
 息を飲み込む。
 雫はゆっくりと居合斬りの体制になると、体中のエネルギーが柄を握る手に集まっていく。

 次の瞬間、既に雫は残心状態……であることを認識した瞬間『ドゴン!』と巨大な音。思わず音に引っ張られ、目線を一気に動かした……先。

 床に突き刺さっていた鉄パイプが分断され地面にずり落ちた音。砂埃を巻き上げ白くモヤが広がっている。さらにその先、鉄パイプの分断面と並行に壁が線状に切り裂かれ、外から吹き込む風が髪を揺らした。

「これが……わたしの力……」

 刃を舐めるように見つめて驚く雫。幾分か刀とともに右腕も震えている。

「凄かったね、スキル、鎌鼬かまいたちって感じだね!」

 ラノベ脳の発想、驚きよりワクワク。恐怖より感動が先に立つ。
 異世界で虐げられてきたが、ちょっとしたキッカケで力を呼び起こす。そして『ザマァ』に続いたらまさしく主人公。そんな場面を目の当たりにして興奮しないわけが無い。

 が、雫は浮かない表情をしていた。

「この不思議な力は不味い。異世界教にはない力だ」
「何が不味いの? スキルを得たってことは異世界教徒として普通に生活できるんじゃない?」
「そうもいかないんだ。異世界教は異世界教であるためのスキルを持っている。今の鎌鼬かまいたちっぽい技はありえなんだ」
 雫の言っていることが分からない。特別な点ということに関しては同じはず……僕の周りにはハテナしか浮かばなかった。

「異世界教の力は水・火・風・土の四元素がベースになっているんだ」
「じゃあ鎌鼬かまいたちって感じだったから風の力なんじゃないの?」
 雫はゆっくりと首を振る。
「違うんだ、どちらかというと体の中にあるエネルギーを発射した感覚。光輝様の力に近いかもしれない」

 考えてみればこっちの世界に来た原因は光輝も雫も黄金のリンゴだ。同じ能力が備わっていても不思議はない。

「じゃあ──」
「サクラ、光輝様は特別なんだ。異世界教徒の力は四元素でなくてはならない。それ以外は異端として捕らえられソウジャ様の判断に委ねられる」
「そんな理不尽な」
「それが力を持つものに従うということ……」
 雫は唇を噛む。そんな彼女の醸し出す雰囲気に「そっか……」としか言えなかった。

「サクラも気をつけるんだ。君もきっと異端な能力を持っているはず。どこに異世界教のスパイが潜んでいるのか分からない……もし自分の能力が分かっても異世界教徒には見せないほうが良いかもしれない」

 雫は満面の笑みを浮かべると更に口を開いた。
「以前より身体能力が飛躍的に上がったのが分かる。これで十分だ」
 そう言い残して訓練場を出ていった。

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