異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第3章 王道の異世界ファンタジー

第28話 危機一髪

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「朔弥くん、これを使うの」
 ミヅキが取り出したのは銅色の通貨ギラ。木陰からの投擲とうてき
 うまい! 気配を悟られずに風上に投げた。

 ファサッ──。音を立てて落下したギラに反応するウルフリッドは一気に飛びかかった。寸分の狂いもなく獲物を狙う。
 瞬間。ミヅキが地面を蹴って一気に間合いを詰めた。
 ウルフレッドは頭だけ向けるが宙空で態勢を立て直すことが出来ずミヅキの拳が顔面に炸裂!

「フレイムナックール」

 拳を中心に一瞬で炎が燃え広がってウルフレッドが消失。ボフンと煙を出して肉と皮へと変わった。黒く焦げた皮、黒く焦げ香ばしい匂いを発する肉へと……

「朔弥さんやりましたー。素材は燃えちゃいましたけど……。獣に炎はダメっていうのを忘れてました」
 ペロリと舌を出すミヅキ。

「すごいな」
 木陰に隠れて草を握りしめていただけだったことが恥ずかしい。しかし憧れていたモンスター討伐達成にテンションが上がってしまい根拠のない自信が湧いてくる。もしかして獣って弱いんじゃ……僕もできるかも……。

「えへへ、ありがとうございます。あと2匹、この調子で倒しちゃいましょう」

 雫の刀に比べたらのろいもんなぁ。ミヅキみたいに拳でもいけちゃうんじゃない……って、あれ? 雫の刀を受けたことなんて無いよな、危ないからダメって対峙したことも無かったはず……おかしいぞ、記憶と出てくる言葉の差異はなんだ。不安になってしまう。

「うふふ、そんな不安そうにしなくても大丈夫ですよ。ウルフレッドは今のようにわたしが一匹づつ倒しますから。その代わり明日から特訓ですからねー」
 鬼教官のような仕草のミヅキ、ニコニコしながら「えへへー、頑張りましょう」と和ませてくれた。
 
 ガサッガサッ

 茂みをかき分け出てきたのは3匹のウルフレッド。涎を垂らしながら僕たちを囲うように移動、その目は鋭くひどく警戒している。

「ウルフレッドを倒すと仲間が駆けつけるんでした。1匹づつだったらなんとかなるけど3匹じゃあ……そうだ! わたしが囮になるから逃げて下さい」

 彼女の言葉にカーっと頭に血がのぼる。

「そんなこと出来るわけ無い。軽はずみに受けてしまった僕の依頼せいでこんなことになってるんだよ」
 足元に落ちている太目の枝を拾い上げて構えた。

「分かりました。やるだけやってすきをみて逃げましょう」
「どこまで出来るか分からないけど僕も戦うよ」

 さっきまでの自信が嘘のように消失していた。足の震えを我慢するので精一杯。唯一の希望は転移の時に神様が何らかの力を与えてくれてるだろうという根拠のない要素だけ。


「ファイアーナックル」
 ミヅキの拳から火球がウルフレッドに向かって放たれた。素早い動きで火球は避けられる。が、着弾と同時に爆発、強い爆風がウルフレッドを吹き飛ばした。

「ミヅキ、上」
 爆発音と同時に2匹のウルフレッドがミヅキに飛びかかっていた。
 技後の硬直状態のミヅキ。辛うじて1匹目の牙を紙一重で避けたが、もう一匹の爪がミヅキの腹をえぐった。

「うぐっ」
 片膝を付いて腹を抑える、大量の血が流れ出した。
 頭がパニック。ミヅキを治療しないと……いやいや先ずは狼を追い払わないと……早くしないと死んじゃう……。

『グルルルル』
 爆風で叩きつけられていたウルフレッドが起き上がってミヅキに飛びかかった。
 避ける術の無いミヅキ、腹を押さえたまま動けない。

 僕に出来ることは……僕に出来ることは……刹那、記憶の引き出しを開けまくり最善の策を探し出す。まるでスローモーションの世界を生きているように。

『グギャァァ』
 ドサリと地面に落ちるウルフレッド、腹に小さな風穴空けて絶命した。僕の右手が硬貨ギラはじいていたのだ。

「フリックバレット……か」
 手に馴染むこの感覚。記憶の片隅にあった『遠くの物を取る手段』『攻撃手段』という引き出しを見つけたのだ。

「さ、朔弥……逃げて」
 既に腹をうずくまって倒れているミヅキ。早く病院に連れて行かないと。

 事情などお構いなしにジワリジワリと近寄ってくる。
 必死だったのだろう、ギラを引くよりミヅキの前で大の字になって立ち塞がった。

「ミヅキ、ごめんな」
  
 ドッカーン──巨大な爆発音。

 2匹のウルフレッドは音と共に粉砕、素材が何一つ残らないほどに。

 え、あれ? 一体何が……

「朔弥さん、次が来ますからその前にこの場を離れましょう」

 腹を抑えてはいるが走れるミヅキの容体に安堵、なんとか森を出ることができた。

 なんとか路にたどり着けたー。この黄土色の路は獣が寄ってこれない魔法が練り込まれている。

「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫」
「無事で良かった。たくさん血を流していたから……本当に無事でよかった」
 守れなかった悔しさ。無力な僕が情けない。
 
「長老に助けられたわね」

 腹をさするミヅキ、どうやら出血は治まったようだ。

「さっきの爆発?」
「さすが長老の魔法よ……これで依頼も達成できたしジンに戻りましょう」

 路を外れることなくジンへ戻った。
 様々な感情が入り混じり、美しく豊かな自然も目に入らない。期待に胸を膨らませていた行きとは見える景色がまったく違っていた。

 そんな落ち込む僕を気遣ってかミヅキはそっと手をつないでくれた。

「朔弥さん、わたし長老へのお礼と傷薬を買いに行ってくるから先にギルドで討伐報告をしておいてくださいね」

 笑顔でミヅキは走り出す。その姿に一気に力が抜ける……そんな彼女の姿が見えなくなるまで後姿を見つめていた。


「サクヤだったかしら、ちょっとこっちへ来てちょうだい」
 声をかけてきたのは長老。

「はい」
 何だろう。人気のないところに向かっているような。普段なら長老とはいえこんなに可愛い子に声をかけられたらドキドキしてしまうだろうが、今はそんな状況ではない。ただただ胸にくすぶる不安に抗うだけだった。

「君、この街を出なさい」
 長老から出たのは信じられない言葉。思わず耳を疑ってしまう。

 衝撃……思わず「はい?」と聞き返してしまう。

「この街を出なさいって言ったの。教えておくけどミヅキちゃんはウタハの聖人だったんのよ」
「聖人ですか」──何のことだか分からないが聞き返せない。

「記憶を無くしてここにたどり着いたということはよっぽどのことがあったんだろうね。そんなミヅキには平和に過ごして欲しいの」

 長老の言っていることは分かる。僕の気持ちは……ミヅキの気持ちは……いや、僕の気持ちはどうでもいい。ミヅキが幸せに暮らせるなら……でも僕がいたほうが……いやミヅキを見てきた長老が言うならそうなんだろう。

「はい……」
「ミヅキちゃんは頑張っちゃうからね、君とどんな繋がりがあるのかは知らないけど君のために無理しちゃうのね、さっき大きな怪我をしたでしょう。気丈にふるまっているけど死んでいてもおかしくない傷よ」

 ミヅキの怪我が頭に浮かぶ。あの状況で長老が助けてくれなかったら……思い返すだけで震えが止まらない。

「わ、分かりました。今夜ここを発ちます」
「物分りが良くて助かるよ。まずはこの街ジンの北にシャンプって街があるからギルドを訪ねな。これを渡すといいよ」

 1枚の封筒を手渡された。

「助けてくれてありがとうございました。色々経験を積んで長老のように強くなって戻ってきます」
 深くお辞儀をした。

「朔弥さーん、ちょうろーう」
 手をフリフリ走ってくるミヅキ。

「おー、ミヅキちゃん、彼に呼び止められてね、ちょうど礼を言われてたところだ」
「長老、ありがとうございました。二度とこんなことが無いように朔弥と特訓してこの街が平和を守ります。ねっ朔弥も一緒に頑張ろうね」

 力強くガッツポーズするミヅキ。

「う、うん」
「ほら、元気元気、そんな小さい声じゃ特訓に耐えられないよ」
 にこやかなミヅキの笑顔に罪悪感しか無い。

「ミヅキちゃん、街のことは兵士たちに任せて好きなことをしていいのよ」
「わたしは憧れの長老のように強くなってこの街を守りたいんです」

 ミヅキの笑顔が眩しかった。
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