異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第3章 王道の異世界ファンタジー

第31話 推し

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「剣の腕は悪いが目だけはいいのう」

 笑っちゃうくらいに剣を振るだけで軸がブレる。振りぬいた刃を切り返すだけで体がフラフラ、気を抜くと勢いを殺しきれずに腰がついてこない。

「うーん、圧倒的にSTRが足りないのかなー」
 思わず出てしまうラノベ脳。

「えすてぃー……なんだって? 何を訳分からないことを言っておる。筋力も経験も知識も全部ダメ、肩も力が入りすぎ。目だけは良いがな」

 何もそこまで言わなくても……ユピアと稽古すると弱さが際立つ。
 例えるなら小学生のサッカー。ワーっとみんなが一斉にボールを追いかけているような幼い攻撃。

「攻撃が単調すぎ。まぁ避けるのはうまいけど」
 
 神に与えられたのは目の良さなのか……素早さに自信があるというユピアの攻撃を受けることも避けることも出来ている。

 今まで引き立て役だった僕にピッタリの能力かもしれないば。勉強でも部活でも遊びにしても……か。特に光輝とは良く比較されたもんなぁ……。

 つまりだ。僕の能力を上手く使って相手を攪乱かくらんして主人公にうまく攻撃してもらう隙を作れということか。

 おっと危ない。うまくユピアの攻撃を避ける。

「本当にサクヤは避けるのはうまいのう」
「もう、そんな何回も言わないでよー」

 旅の中でユピアの特訓を受け続けた。いつしかウルフレッドなら1対1サシで倒せるまでになっていた。

 よし、ミヅキに一歩近づいたぞー。さらにミヅキに近づく手段を考えないとならないな……「そうだ!」

 ミヅキのピンチを救った『フリックバレット』を併用してはどうだろう。

 空いている左手でフリックバレットが使えれば遠距離攻撃手段になるじゃないか。避けるのが得意な僕が盾を持っても活かせない。なんかカッコいいぞ!!

 ハナの針を武器するうちに強度が増し軽量化されている。なんとなくだけどこの世界のことを知るほどに良いものになっているような……そんな事よりも練習しないと。

「サクヤ、さっきから左指で何を弾いておる」

 練習のため1ギラ硬貨を指で弾いていた。フリックバレットの力を使わず弾いていただけだったので1円玉が防具の上から当たった程度なので気にならなかったはず。

「ああ、コレは僕が考えたフリックバレットって技なんだ。ギラを弾いて相手を怯ませたり……前にウルフレッドを倒したことがあったから使えるかなぁっと思って」

「なぬ、ギラを弾いてウルフレッドを倒しただと、陽動したり投げつける者はおるが獣を倒すなんてありえんだろう」
 
 ユピアは10ギラ硬化を取り出すと僕へ放り投げた。

「正面にある木にコブが付いているだろ。そこに向かってそのなんとかバレットを思いっきりってみせい」

 いつものように硬貨に砂鉄を纏わせ強力な磁場を作り出す。指を弾くと同時に磁場を反転させて弾き出した。持てる最大の力を使って。

「よし」
「なにが良しだ、早くってみせい」
「もうちました」

 ユピアは引っ張られたように素早くコブに顔を向ける……コブには硬貨と同じサイズのあながあけられていた。

「ギャー」
 遠くから聞こえる潰されたカエルのような太い悲鳴。

「サクヤ、行くぞ!」
 もしかしてさっきのフリックバレットが人に当たったんじゃないよな……ウルフレッドを倒したほどの技だ、人にケガさせてたら……いやいやそれどころか……死。悪い妄想しか浮かばない。

 距離にして30メートルほど森を奥に入ったところ。

 そこにはラノベ系で見かけるような貴族の馬車が止まっていた。3頭引きだろうか、2頭は怯え動こうとはせず、もう1頭は地面に倒れピクリとも動かなかった。
 その隣で太った男が右腕を抑え倒れ、隣では声をかけている正装した初老の男がいた。どうやらさっきの叫び声はこの太った男のものだろう。
 
「どうしたんだ、大丈夫か!」
 ユピアが躊躇なく初老の男に話しかけた。

「はい、馬がいきなり倒れまして……」

 倒れている馬はこめかみから体液を流して死んでいる。そこには10ギラ硬貨大の孔が空いていた。

 ヤ……ヤバイ! 一気に血の気が引いた。自分でも顔が青くなっているだろうことがわかるほどに。

「何があった。その馬の姿……普通とは思えんが」

 ユピアが声をあげた。
 普通と違う? よく見ると明らかに他の2頭とは違う。額から湾曲した角が伸び体毛は黒く変色……いや体毛というより装甲みたいだ。

 太った男は右腕を抑えながら口を開いた。

「路を走っていたらこの馬の目が赤く光ったんだ。そしたら粘土のようにこんな姿に変わってな……森の奥へと急に走り出したんだ」
「目が光るなんておとぎ話じゃあるまいし」

 ユピアの言葉に太った男は声を上げた。

「嘘じゃねぇ、急に暴走したんだ。そしたらこの場所で急に赤目の馬こいつが倒れたんだ……おかげで吹っ飛ばされてこのザマだけどな」

 ブランとしている右手を見せつける。どうやらポッキリと骨が折れてしまっているようだ。

「困りましたねぇ、2頭しかいませんが馬車は牽けそうですか」
「すまねぇ、こんな右手じゃあまともに走らせられん、応援を呼んだほうが早いかもしれねぇ」
「こんな所にいたらどんな獣が襲ってくるか分かりませんからねぇ」

 馬車の扉が開き、一人の女性が出てきた。

「姫様、ここはどんな獣が襲ってくるか分かりません。中でお待ちください」

 ユピアより少し背が大きいくらいだろうか、ピンク色の可愛らしい服装をした少女。僕たちの前に立つと丁寧に挨拶をした。
「シャンプ第2王女の『かのん』と申します。この度は危ないところを助けていただきましてありがとうございます」

 いやいや、お姫様ってことはこの馬は王家の馬ってことじゃないか……いや、きっと偶然、偶然……たまたま通りがかっただけ。
「僕たちは偶然に通りがかっただけです、何も(強調)していません」

「お姫様、わたくしたちがなんとかします故、早く馬車にお戻り下さい」
「何を言ってますソウケイ、ラックが怪我をしているのにほっとけません」

 かのんが右腕が折れた男ラックの隣に座ると、ソウケイが「お姫様、地面に直接座るなど──」と言いかけた所で「あなたは黙ってなさい」と強く制され肩を落としていた。

 かのんがラックの患部に両手をかざすと、ぼやっとした緑の優しい光がラックの患部を優しく照らす。
 天国にでもいるかのような恍惚の表情を浮かべるラック、わずかに垂涎が光る。

 汗をかきはじめるかのん。一生懸命に癒そうとしているが光は弱まりラックの腕は垂れ下がったまま。

「わたくしでは力不足ですわ。あなた方、回復薬ポーションを持っていたら譲っていただけませんか」

 ユピアは、僕に小さく「異空間収納の中にあるんだよ、ここじゃあ出せない。サクヤは持ってないのか」と耳打ちした。

 バックの中に手を突っ込んで『回復薬』を念じるとポーションが吸い付いた。

「これを使って下さい」
 赤い液体が入った瓶を手渡す。

「あなたは一体何者ですか、この色のポーションはギラで何とかなるような代物ではないんですよ」

「ちょっとサクヤ、それどうやって手に入れたのよ。これは──」
「さっきの会話からこのポーションが大丈夫なことが分かったよ。ラックさんも辛そうだし使ってあげて」

 苦痛を訴えるラックさんに「これを使って下さい」と手渡した。
「い、いやしかし対価が……それに姫様が癒してくれているのに……」
 と遠慮していたが、「対価なんかいりません」と蓋を開けて無理やり左手に持たせた。

 チラリとかのんに目線を向けるラック、かのんが黙って頷く。

「ありがとう。使わせてもらうよ」

 一気に喉に流し込むラックを見ていると一抹の不安を覚える。周りの反応から凄い薬だということは分かる、でも考えてみれば赤い液体ですよ、それに飲んだだけで回復どころか骨折まで治すなんて怖すぎる。

 ラックの表情が柔らかくなっていく……「治ったぞー」と右手を振り回して叫んだ。

 胸を撫でおろすソウケイ、本当に良かったと感情を表に出すかのん。

「助かったよ、ありがとうな。よーしこれで城に帰れるぞ。姫様、ソウケイさん。予定より大分遅れちゃったからな飛ばすぞ」

 ラックは元気よく立ち上がりフンフン言いながら馬車の準備を始めた。

「サクヤ様、危ないところを助けていただきありがとうございます。今は何もお礼が出来ませんがシャンプに寄った際には必ず城まで来てくださいね」

 僕の両手が彼女の手に包まれる。ほんわかした優しい笑顔に目が離せない、五感のすべてに幸せを感じ、気品あるお姫様の一挙一投足に見入ってしまった。

「おいサクヤ、お姫様たちはもう言ったぞ。いつまで顔を赤くしてるんだ」

 ユピアの声に現実に引き戻された。なんだか不機嫌そうに見えたのは気のせいだろうか。

「お前良くあんな回復薬持ってたな。あれはよっぽどの術士じゃないと作れ出せないポーションなんだよ」
「さっきの感じから凄いポーションってことは分かってたけど……さすがはリリス長老からもらったものだな」

 風のごとく疾さで僕に近づくユピア。今までの特訓でも見せたことない素早さ。

「リリリリリリス様だとー。あの方は神子様(超興奮口調で→)の中でも頭ひとつ抜きん出た魔力の持ち主なんですよ! 何かリリス様の私物を持ってないですか、何かあったら私によこせ」

 ユピアの表情が推しのアイドルグループを見つめる女子そのもの。よっぽど長老に憧れているのだろう。

 ユピアに長老の私物があったらよこせとしつこく言われつつ、首都シャンプに向かって歩き始めた。

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