異世界教へようこそ ─ Welcome to Different dimension religion─

ひより那

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第5章 3組の双子

第59話 奈落は地獄か天国か

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 闇に繋る滑り台を降りて……いや、落ちていく。

「わぁー」
 
 巨大な音とともに震える建物、2発目の隕石メテオが落ちたのだろう。埃とともに小石がパラパラと降り注ぎ、勢いよく滑り落ちる僕の顔にバシバシ当たる。

 彩衣を守らないと。
 ジゲンフォーのバッグから取り出した毛布を彩衣に被せて降り注ぐ石から身を守る。

 どれだけ落ちていくんだろう、螺旋の滑り台を1分以上滑っている。
 不思議な事に摩擦で体が熱くなることはない。大火傷する心配はないが、もしおろし金のような地面が来たらと思うと……考えただけで背筋が凍る。

「サクラ、もうすぐ落ちる」

 ──ズドーン。

 滑り台からダイブ。地面に叩きつけられた。

「グフッ」

 更に僕の上に彩衣が落ちる。

「グフォッ」

 お約束のように僕の背中に正座する彩衣。

「サクラ、感謝」

 冷たそうな石に囲まれた閉塞された広い空間、どこからともなく青い光が当たりを照らしている。薄暗いこの場所を見回すと、この部屋を理解させるものが目の前の壁についていた。

「鉄格子……なんでこんなところに」

 周りにはなにもない、ただぽつんと僕たちが佇んでいるだけ。
 落ちてきた場所を戻ることは出来ない。何も悪いことをしていない僕たちが牢に閉じ込められたのだ。

 格子も壁もアダマンタイト鉱石で作った剣ではビクともしない。この素材も刃と同じアダマンタイト鉱石なのであろう。
 確かにそう考えると彩衣の隕石メテオを直撃しても壊れないはずだ。

「サクラ、骨」
 彩衣の指差す方向に視線を移す。うぉー、白骨死体だ……何年、いやどれほど放置されていたのだろう。衣類は既に風化し白骨も節々が傷んでる。

「て、すごい量だな」
 目がなれてきたのか全体を見回すとかなりの白骨死体が転がっていた。

「死体、耳、尻尾」

 なんだ……全て人形ひとがたの白骨だし全部に動物の様な耳と尻尾がついている。

 頭に浮かぶのはラクナシア。獣人たちの墓場なのか……一体この施設は何なんだ。

「彩衣、とりあえずここから出ようか」
 出る方法は思いついている。セレンとの訓練で覚えた物質を変形させる能力。これを使えば格子を抜けられる。


 よし、思った通りだ。この素材は貴重って言っていたし、格子の素材アダマンタイトをバックの中にどんどん詰めて……って、バックに違和感、手を入れた感覚がいつもと違う。
 そうか! 中身がなくなっている。どういう理屈かは分からないが空っぽ。いくら念じても何も出てこない。

 残っているのは、マルコ神殿でもらった魔水晶とリュウコウで補充しておいた食料だけ。あとは腰にぶら下げている水袋と剣か……「そうか! 僕が手に入れたもの以外は消えてしまっているのか」

 くよくよしても仕方がない、水があるだけマシ。そうしたらこのアダマンタイト鉱石をなるべく沢山詰め込んでおかないとな。

 コツコツ格子を扱いやすいようチップに変化させてバックの中にしまっていく。

「サクラ、なんか見つけた」

 彩衣の手に握られているのは一枚のロール紙、こういうのを羊皮紙というのだろうか……A4サイズ大で皮のような感触のもの。

「これは……」

 何も書かれている様子はない。あれ? 隅っこに魔法陣らしきマークが……。

「アクティブマップ、価値は0」

 価値は0って、ただの紙か……いやまてよ。もしかしたらすっごいお宝だったりして……。いくら表裏を確認しても小さな魔法陣が書かれているだけ。

「この魔方陣はなんなんだろう」

 そっと触れてみる。僕の体から力を少しづつ吸い取られているような感覚を覚えた。ヤバイ、呪いのアイテムか!? ん?
 脳内に広がる周辺マップ、中央には青い点が2つ、あちこちに赤や黄色の点が散見している。もしかして……僕の魔法力を代償に地図を見せてくれるのか。でもこの点は……。

 ちょっと動いてみると地図の青い点が同じように動き彩衣を動かすともうひとつの青い点が動く……。
 青は味方か……ということは赤は敵かな。近くにひとつ、この通路を抜けた先にある。

「彩衣、この先に敵がいるようだ。もしかしたら戦闘になるかもしれない」

 ハナのハリを使って彩衣に武器を作っておこう。えっと、剣……いや斧。でもすっごい魔法を使ったから杖とかがいいのかな。

「サクラ、がんばれ!」

 両手でガッツポーズをする彩衣。いやいやいや、元神子たちに彩衣を鍛えるように言われている。でも未知の生き物といきなり戦わせて良いものだろうか。

「とりあえず今回は僕が戦ってみるよ」

 精神武器を取り出す。アダマンタイト鉱石で作った自慢の剣だ。

「凄いぞ、武器、出現」

 両手を大きく広げて大げさに驚く彩衣、「私、出来るか」と目をキラキラさせた。

「胸の前で何かを掴むように握るとこの世界では精神武器という自分に合った武器が出るんだよ」
「こうか」

 くうを掴むよう握る彩衣。現れた武器は右手にメタリックな赤と青の模様が入った銃、そして左手にはメタリックな緑と茶色い模様が入った銃、流線型の美しい近未来的な2丁拳銃だった。

 カッコいい……この感覚が噂の厨二病心をくすぐられるというやつか。

「ふむふむ、分かるぞ、使い方。こうして……こういう流れで使えば……」

 彩衣の喋りが普通になっている。昔からそうだ、集中しているときや驚いた時はきちんとした言葉になる。なんでかまでは分からないけど。

「彩衣……大丈夫か?」

 かれこれ10分以上ぶつぶつ言いながら銃を眺めては撃つ真似をしている。いくら声をかけても耳に入らない……無視されているようにすら感じる。

 ボンッ── 小さく破裂するような音とともに銃口から発射された弾。スピード的には僕が普段使うフリックバレットと同程度、周囲を一瞬照らした。

 遠くから獣の叫び声が微かに木霊する。マップを確認すると……赤い点が消えている……もしかして。

「彩衣、行くよ」

 彼女の手を握って赤い点があったところに走った。まさかそんなことが……
 僕に手を引かれながら彩衣が口を開いた。

「赤青、ブレザイム、緑茶、モスビート、名前つけた、相棒」

 そういえば、彩衣は気に入った物には名前を付けてたな。鉛筆には『もっくん』とか消しゴムには『いっくん』とか。サクサクパインの実にまで名前を付けてたっけ。
 彼女が名前を付けたってことはよっぽど気に入ったのだろう。

「いた」
 そこに転がっているのは肉、ぷっくりとした美味しそうな見た目をしている。

「サクラ、腹減ったぞ」

 彩衣が肉を拾い上げると「ウッデストクラバットの肉、0G」といつものアイテム説明。

「うっですとくらばっと? なんだそのモンスターは。見たことも聞いたこともない」
「焼くぞ」

 牢の中から燃料となりそうなものを探したが何もない。なにか……「って、そうだ……試してみるか」。僕にはアイデアがあった。

 僕の精神武器であるハナのハリを作り出し丸太として変形させる。それをアダマンタイト鉱石の剣で薪を作る。
「それじゃあ、焼くよ」
 リリス長老にもらった炎媒介チャッカンファイアー、ポケットから取り出して火を点けた。

 ……肉の塊が焼ける濃厚な匂いが辺りに広がる。何故だろう……この匂いを嗅ぐと心が落ち着くような気がした。

 
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