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第6章 過去の友達

第72話 逆に気になる……気持ち

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「俺達の負けだな」
 アルゴは斧を背中に戻した。

 10ギラ硬貨を握りしめ周囲を見回す琢磨は犯人を探しているようだ。そんな琢磨くんと目があった。

「私たちの負けね、あんな攻撃が直撃したら体が真っ二つだったわよ」
「そうだな、俺の剣だけで済んで良かったよ」
「誰だか知らんが助けられたな。帰るぞ」

 アルゴたちはリングを後にして会場から出ていった。
 近くの冒険者がヒソヒソ「あの攻撃はやばいぞ、オリハルコン製のリングを破壊するなんて……」聞こえてくる。

 リングに触れてみるとハナの社でもらった鉱石のひとつ、強度はミスリルより上のようだ。ラノベでも見るオリハルコンという有名な素材だった。

「朔弥くん、まさかこんな所で会うとは思わなかったよ、あとでゆっくり話しでもしようぜ」

 こうしてエキシビジョンマッチは幕を閉じた。有名な冒険者を圧倒的な強さで倒した勇者パーティ、周囲からは聖女結衣の所属するウッドバーレンのメルギンス将軍が協力すれば太刀打ちできる国なんてないんじゃないかという話題で盛り上がっていた。


 バチアニアの広場に大きく空いた穴、何者かによって準備されていた地下迷宮と巨大な地震によって偶然繋がったおかげで手の施しようがなくなる前に魔物たちを駆逐出来た。
 その事実は国によって伏せられ、過去に天災を巻き起こした魔物の軍勢を討伐した勇者が所属する国として広まったのであった。

 ◆ ◆ ◆


 翌日、ルルとナナは彩衣に任せて宮殿に来ていた。
 兵士を通じて琢磨くんから話しがしたいと申し出があったからだ。

 ユランダ・メシアに呼び出されて部屋で待っていたことを思い出す。あのあと琢磨くんにリンゴのことを聞かれた後に沙羅に地下へ落されたんだったよなぁ。そうだ……雫……なんであんなことに。
 全ての記憶は残っている。しかし、異世界教関連の繋がりは切断されているようで、キッカケがないと引っ張り出せない……。

 コンッコン──

 扉を開けて入ってきたのは琢磨くん。この国の雰囲気に合った服装に着替えていた。

「まさか朔弥くんがこっちの世界に来てるとは思わなかったよ」
「そっか、琢磨くんは知らなかったんだね」
 そう、沙羅が言っていた。僕が異世界教徒だった事実は消しておくと……だから琢磨くんも知らないことになっているというわけか。

「朔弥くんは光輝はるかぜくんや結衣いずもさんが行方不明になった後に姿を消したからね。ビックリしたよ」
「まぁ、なんとかこっちでやってるといった感じだ。たまたま立ち寄ったバチアニアで琢磨くんと会うとはねぇ」

 雑談をしていると、時折チキュウの話題が出ては懐かしくなる。

「そういえば琢磨くんは異世界教を抜けてまでバチアニアを守ったって噂されているよ」
「ああ、実は異世界教をクビになったんだよ、これは内緒な」
「えぇ、なんでまた……」
「覚えてないんだけど、異世界教の秘密を喋っちゃったみたいなんだよ。ちょっとそんなのを繰り返しちまってな」

 これってユランダ・メシアで僕に秘密を話してしまったってことだろう。

「覚えてないって?」
「ああ、異世界教はな、脱退者に一切のペナルティーを与えないんだ。抜けたければ自由にどうぞってな。ただ、条件として内部情報を忘れる治療を受けなきゃなんねぇけど。まぁ、余計なことを知ってて命を狙われるよりずっと良いけどな」

 確かに……口の軽い琢磨くんが秘密を知ったまま野に放たれたとあっては異世界教も気が気ではないだろう。

「でも良かったね琢磨くん、勇者になれて。ずっと前に勇者になりたいって言ってたものね」
「え!? なんで朔弥くんが僕の夢を知ってるんだ。誰にも言ったことなかったのに……」

 あ、しまった。初めて異世界リンゴを渡した時*5話に聞いたんだった。

「い、いや……前に琢磨くんが誰かに話してたのを聞いたんだよ……」
「そっかー、誰かに話したかなー。俺は口が固いんだけどなぁ」

 琢磨くんは自分のことを口が固いと思ってたのか……。同級生では有名だった『彼にだけはここだけの話しをしてはダメだ』という暗黙の了解まで出来ていたのに。

「そ、そうだね。え、えっと……あの一緒にいた人たちって友達?」
「ああ、中学の時の友達だな。憲久と俊介と光流は俺のラノベ仲間なんだよ。詳しい事情は覚えてないが彼らはだいぶ後に異世界教に入ったんだ。気づいたら3人共記憶を消ちりょうされた後だったからな。まぁ、彼らも勇者になりたかったのかもな」

 ガッツリ消されてるんだな。田中さんサナンは結構覚えてたんだけどなぁ……それほど信用されていなかったってことか。

「でも、本当に勇者になったんだから凄いよ」
「まぁ、国のお抱え勇者だけど自由に動けるからありがたい。兵士になったわけじゃないから必要な時にお声がかかるって感じだな」
「バチアニアも安泰だね。なんだっけ……ファン……フォン?」
「フォールディングファンだよ。扇子って意味なんだけどな、アダマンチウム並の強度を持った土の刃を扇状に発生させるんだ。広範囲技だから広いところじゃないと使えないけど」

 アダマンチウムってハナの社でもらった鉱石か。オリハルコンより固い鉱石だったんだな。

「僕はこっちの世界ではサクラって名乗ってるんだ。サクヤって国があるようで変えたほうがいいって勧められたんだ」
「ああ、あったな。確か……ウッドバーレンと同盟を結んでいるんだっけか。まぁ、その方がいいかもなっ! この国で縁もゆかりもないやつがバチアニアなんて名乗ってたらトラブルになりそうだ」
「ウッドバーレンって言えば聖女結衣ってどう考えても行方不明になった結衣だと思うんだけど、琢磨くんはどう思う?」
「前にウッドバーレンで神子討伐作戦ってのがあってな、3人で一般部隊として参加したんだが作戦終了後に話す機会があって聞いたんだ。結衣いずもさん?って、違うようなこと言われたぞ」

 えっ……琢磨くん達はあの神子討伐作戦に参加してたのか。全然気付かなかった。

「噂では聞いたことあるけど……神子を退けるなんて凄い人がいるって噂が流れてたよ」
 情報を聞き出すためとは言え、知らないフリして口の軽い琢磨くんに喋らせているようで気が引ける。

「ああ、本当は俺も本体組に入る筈だったんだけどな。なんだか色々と作戦があるだとかで一般隊に配属されたよ。まぁ、その縁があってこの国で勇者やってるんだけどな」
「へぇ~、そんな大掛かりな作戦があったんだね。でもそんなに凄い作戦に参加できるなんて凄いじゃん」
「良く知らないけどサクラって子利用するような事を聞いたけど……おっ、朔弥くんの名前と一緒だな……女の子って言ってたけど」

 色々聞いて分かったのは、どうやらウッドバーレンでの神子討伐は色々な国や人々の思惑が複雑に絡み合った結果遂行されたようだ。

 隠す気が無いのか、琢磨くんのレベルまで教えてもらった。彼のレベルは52、残りふたりのレベルは共に45だそうだ。

 これ以上聞き取って上層部にバレでもしたら……折角勇者になったのにまたクビになってしまうのではないかと逆に心配してしまう。

 これ以上は止めとこう……そう思うのであった。

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