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第3話 始業式(二周目) at 1995/4/7
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「行くしかないか……はぁ」
しかし、まさか四〇にもなって制服を着るだなんて思いもしなかった。とんだ羞恥プレイだ。見慣れた、というか、記憶に深く刻まれていた校舎を目の前にして、校門目前で溜息をつく。
我が母校・西町田中学校は、木曽根・咲山というふたつの巨大団地群に挟まれるように建っていた。木曽根団地一つとってみても『イー1号棟』にはじまり『イー24号棟』まで続いたかと思うと次は『ロー1号棟』という具合に変化していき、最終的には『トー16号棟』まであるところからも、その巨大さ、規模感が想像できるだろう。五階建ての一棟一棟には、実に六〇世帯が入居している。もう一方の咲山団地も同程度の規模を有しており、周辺には小学校が三、四校もあった。そこに通う年頃の子供たちを一手に引き受けたのが、この西町田中学校だ。
制服は、紺色のブレザーに同色のスラックス。ネクタイは学年ごとに異なり、二年生の俺は濃緑色をベースにしたストライプのものを締めていた。というか、ネクタイなんて締めるのもひさしぶりで支度に時間を喰ってしまった。窮屈な首元に人差し指を引っかけて少しゆるめると、わいわいきゃあきゃあと騒々しい連中に混じって昇降口へと向かった。かすかに残る記憶が正しければ、年度の始まりにはそこにクラス分け表が貼り出されているはずだったからだ。
「二年十一組は、っと……」
本当に過去に戻ったというのなら、俺の名前は当然そこになければならない。要領が悪くて探すのに手間取っている連中の間をすり抜けるようにして、迷うことなくそこへと急いだ。
「あった。やっぱりだ」
だが、おかしい。何かが妙にひっかかる。
その時、実家に届いていた同窓会の案内状に書かれていた文面が、不意に脳裏に浮かんだ。
『四〇歳という人生の節目に、我ら二年十一組の仲間たち、総勢四十二名で集まりましょう!』
「四十三名……ひとり多いぞ? どういうことだよ、これ?」
同窓会の幹事が書き間違えたんだろうか? いいや、さすがにそんなことはない。すっかりいい歳になったオトナがこういう致命的なミスをすると、いちいちうるさく言い出す奴もいるから事前に内容チェックくらいするだろうし、そもそも卒業アルバムを見れば一目瞭然だ。
――と、突然。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
「はぁ……誰だよ、ったく。こっちはそれどころじゃ――」
反射的にブレザーの内ポケットから愛用の、型落ちのスマートフォンを取り出そうとして、
(い、いやいやいや! なんで俺、この時代にスマホなんて持ってるんだよ!?)
ポケットの中に差し入れた右手を慌てて引き抜く俺。しかし、まわりの連中は執拗に鳴り響くバイブ音にも気づく様子がまるでなかった。仕方なく昇降口の人の群れから少し離れた場所まで早足で移動してから、取り出したスマホに恐る恐る耳を当ててみる。
「……もしもし?」
『ようやく出てくれたな』
女の声だ。もっと言えば、まだ幼さの残る少女の声だった。
『心配するな。まわりの奴らにはそれは認識されない。この時代にはないはずのシロモノだからな』
「お――お前、一体誰だ? 何者なんだ? 何が目的なんだよ!?」
心配ない、と言われたところで、とてもそんな気にはなれない。思わず口をついて飛び出しそうになった大声をなんとか潜めて囁くように尋ねると、少女には似つかわしい横柄さで言った。
『お望みどおりもう一度やり直すチャンスをやろうというのさ。感謝してくれてもいいぞ?』
「勝手なこと言いやがって! ふざけるなよ! 元の世界に戻してくれ! 今すぐに!」
『ほう、もしかすると勘違いだったということか? あんな現実に、本当に戻りたいのかね?』
だが俺は――いや僕は、鋭く胸をえぐった女の問いに、答えることができなかったのだった。
しかし、まさか四〇にもなって制服を着るだなんて思いもしなかった。とんだ羞恥プレイだ。見慣れた、というか、記憶に深く刻まれていた校舎を目の前にして、校門目前で溜息をつく。
我が母校・西町田中学校は、木曽根・咲山というふたつの巨大団地群に挟まれるように建っていた。木曽根団地一つとってみても『イー1号棟』にはじまり『イー24号棟』まで続いたかと思うと次は『ロー1号棟』という具合に変化していき、最終的には『トー16号棟』まであるところからも、その巨大さ、規模感が想像できるだろう。五階建ての一棟一棟には、実に六〇世帯が入居している。もう一方の咲山団地も同程度の規模を有しており、周辺には小学校が三、四校もあった。そこに通う年頃の子供たちを一手に引き受けたのが、この西町田中学校だ。
制服は、紺色のブレザーに同色のスラックス。ネクタイは学年ごとに異なり、二年生の俺は濃緑色をベースにしたストライプのものを締めていた。というか、ネクタイなんて締めるのもひさしぶりで支度に時間を喰ってしまった。窮屈な首元に人差し指を引っかけて少しゆるめると、わいわいきゃあきゃあと騒々しい連中に混じって昇降口へと向かった。かすかに残る記憶が正しければ、年度の始まりにはそこにクラス分け表が貼り出されているはずだったからだ。
「二年十一組は、っと……」
本当に過去に戻ったというのなら、俺の名前は当然そこになければならない。要領が悪くて探すのに手間取っている連中の間をすり抜けるようにして、迷うことなくそこへと急いだ。
「あった。やっぱりだ」
だが、おかしい。何かが妙にひっかかる。
その時、実家に届いていた同窓会の案内状に書かれていた文面が、不意に脳裏に浮かんだ。
『四〇歳という人生の節目に、我ら二年十一組の仲間たち、総勢四十二名で集まりましょう!』
「四十三名……ひとり多いぞ? どういうことだよ、これ?」
同窓会の幹事が書き間違えたんだろうか? いいや、さすがにそんなことはない。すっかりいい歳になったオトナがこういう致命的なミスをすると、いちいちうるさく言い出す奴もいるから事前に内容チェックくらいするだろうし、そもそも卒業アルバムを見れば一目瞭然だ。
――と、突然。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
「はぁ……誰だよ、ったく。こっちはそれどころじゃ――」
反射的にブレザーの内ポケットから愛用の、型落ちのスマートフォンを取り出そうとして、
(い、いやいやいや! なんで俺、この時代にスマホなんて持ってるんだよ!?)
ポケットの中に差し入れた右手を慌てて引き抜く俺。しかし、まわりの連中は執拗に鳴り響くバイブ音にも気づく様子がまるでなかった。仕方なく昇降口の人の群れから少し離れた場所まで早足で移動してから、取り出したスマホに恐る恐る耳を当ててみる。
「……もしもし?」
『ようやく出てくれたな』
女の声だ。もっと言えば、まだ幼さの残る少女の声だった。
『心配するな。まわりの奴らにはそれは認識されない。この時代にはないはずのシロモノだからな』
「お――お前、一体誰だ? 何者なんだ? 何が目的なんだよ!?」
心配ない、と言われたところで、とてもそんな気にはなれない。思わず口をついて飛び出しそうになった大声をなんとか潜めて囁くように尋ねると、少女には似つかわしい横柄さで言った。
『お望みどおりもう一度やり直すチャンスをやろうというのさ。感謝してくれてもいいぞ?』
「勝手なこと言いやがって! ふざけるなよ! 元の世界に戻してくれ! 今すぐに!」
『ほう、もしかすると勘違いだったということか? あんな現実に、本当に戻りたいのかね?』
だが俺は――いや僕は、鋭く胸をえぐった女の問いに、答えることができなかったのだった。
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