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第34話 与えられたチャンス at 1995/4/20
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「だりぃー……」
「やだよねー」
教室のあちらこちらからそんな声が聴こえてくる。どちらかといえば、男子より女子の方がげんなりして元気のない顔をしているようだ。
その理由は、今日が健康診断の日だからである。
「はい! じゃあ男子はここで、女子は隣の十二組で体操服に着替えて保険室に移動すること」
荻島センセイの指示とともにガタガタと椅子が騒がしく鳴きはじめ、色とりどりの体操着入れを抱えた女子が重い足取りで教室を出ていった。廊下から聴こえてくるのは十二組の担任、音楽の柴山由美子センセイだろう。この西町田中学校が初勤務となるまだ若い先生で、155センチとかなり小柄ながらも、高音域の良く通る声をしていた。
「おー、ダッチじゃーん」
「うーっす」
じき十一組は野郎だらけとなり、途端に夏草のような息苦しさが充満した。まだ二クラス合同で行う体育授業はなかったが、小山田のような『有名人』ともなれば見知りの連中は多い。
「あの、古ノ森君……だったよね? 保健委員は先に集まるらしいから。先行くよ」
「ああ。サンキュー」
今のは――十二組の佐々井だったっけ。委員会で一度顔を合わせた気がする。急ぐとしよう。
「シブチン、保健委員の呼び出しがあったから先に行ってるよ」
「ああ、うん。オッケー」
教室の前のドアから出るついでに、まだのんびり着替えている渋田に一声かけておく。
純美子と二人でお見舞いに行った次の日、野方咲都子は宣言どおりに登校した。
昨日までの不調が嘘のように顔色も良く元気そうに見えたが、さて昼休憩をどうしたものかとひそひそ囁き合いながら悩んでいるうちに、渋田と咲都子の方から『あれ? 今日は一緒に食べないの?』と声をかけられ、僕たちは拍子抜けする思いだった。それぞれ持ち寄ったお弁当を食べつつ、いつものようにいろんな話をしたりしていたが、多少ぎこちなさはあれど、渋田と咲都子は互いを必要以上に避けることもなく、かといって近づきすぎることもなく、至って普通に見えた。
(ま、とりあえずはめでたしめでたし、ってとこかぁ……)
今回の件で、むやみに歴史を改変するのは危険な行為だ、と学ぶことができたのは大きい。
正確に言えば、たとえ行きつく先が史実と同じだとしても、それを早めたり、遅らせたりすれば無理が生じてしまう――いわば『歪み』が生まれてしまうってことだ。そしてその『歪み』は、たわめばたわんだ分だけ大きく跳ね返ってくる。地震の原理などに似ているようなのだ。
実は咲都子の見舞いに行ったあの日、僕のスマホは『DRR』の通知で鳴りっぱなしだった。
結局、あの一件で増加した現実との乖離率は合計6パーセントになった。だが、この数値がどれだけ異常なものなのか、少し前のことを思い出して欲しい。『四〇歳の僕がリトライした』で8パーセントの増加。その違いはわずか2パーセント。つまり、危険度では大差ないってことだ。
しかし、である。
そこで『ああ、何も変化を生み出さないように、おとなしく静かに、平穏に過ごすべきだ』などとはこれっぽっちも思わないのが、この僕、古ノ森健太なのだった。
(むしろ、何も変わらなければあの現実に逆戻り、ってことだろ……? そんなのごめんだ)
この上なく幸せで、豊かに恵まれた状況から中学時代に戻ってきたわけじゃない。逆にいえば、与えられたこの一年間で、何かを大きく変えることができなければ元の木阿弥だ。
(同じ分だけ『変える』のなら、やったことより、やってないことの方がいいに決まってる)
つまりは、そういうことだ。
「保健委員の人―!? 早く集まってねー!!」
「は、はい! 今行きまーす!」
「やだよねー」
教室のあちらこちらからそんな声が聴こえてくる。どちらかといえば、男子より女子の方がげんなりして元気のない顔をしているようだ。
その理由は、今日が健康診断の日だからである。
「はい! じゃあ男子はここで、女子は隣の十二組で体操服に着替えて保険室に移動すること」
荻島センセイの指示とともにガタガタと椅子が騒がしく鳴きはじめ、色とりどりの体操着入れを抱えた女子が重い足取りで教室を出ていった。廊下から聴こえてくるのは十二組の担任、音楽の柴山由美子センセイだろう。この西町田中学校が初勤務となるまだ若い先生で、155センチとかなり小柄ながらも、高音域の良く通る声をしていた。
「おー、ダッチじゃーん」
「うーっす」
じき十一組は野郎だらけとなり、途端に夏草のような息苦しさが充満した。まだ二クラス合同で行う体育授業はなかったが、小山田のような『有名人』ともなれば見知りの連中は多い。
「あの、古ノ森君……だったよね? 保健委員は先に集まるらしいから。先行くよ」
「ああ。サンキュー」
今のは――十二組の佐々井だったっけ。委員会で一度顔を合わせた気がする。急ぐとしよう。
「シブチン、保健委員の呼び出しがあったから先に行ってるよ」
「ああ、うん。オッケー」
教室の前のドアから出るついでに、まだのんびり着替えている渋田に一声かけておく。
純美子と二人でお見舞いに行った次の日、野方咲都子は宣言どおりに登校した。
昨日までの不調が嘘のように顔色も良く元気そうに見えたが、さて昼休憩をどうしたものかとひそひそ囁き合いながら悩んでいるうちに、渋田と咲都子の方から『あれ? 今日は一緒に食べないの?』と声をかけられ、僕たちは拍子抜けする思いだった。それぞれ持ち寄ったお弁当を食べつつ、いつものようにいろんな話をしたりしていたが、多少ぎこちなさはあれど、渋田と咲都子は互いを必要以上に避けることもなく、かといって近づきすぎることもなく、至って普通に見えた。
(ま、とりあえずはめでたしめでたし、ってとこかぁ……)
今回の件で、むやみに歴史を改変するのは危険な行為だ、と学ぶことができたのは大きい。
正確に言えば、たとえ行きつく先が史実と同じだとしても、それを早めたり、遅らせたりすれば無理が生じてしまう――いわば『歪み』が生まれてしまうってことだ。そしてその『歪み』は、たわめばたわんだ分だけ大きく跳ね返ってくる。地震の原理などに似ているようなのだ。
実は咲都子の見舞いに行ったあの日、僕のスマホは『DRR』の通知で鳴りっぱなしだった。
結局、あの一件で増加した現実との乖離率は合計6パーセントになった。だが、この数値がどれだけ異常なものなのか、少し前のことを思い出して欲しい。『四〇歳の僕がリトライした』で8パーセントの増加。その違いはわずか2パーセント。つまり、危険度では大差ないってことだ。
しかし、である。
そこで『ああ、何も変化を生み出さないように、おとなしく静かに、平穏に過ごすべきだ』などとはこれっぽっちも思わないのが、この僕、古ノ森健太なのだった。
(むしろ、何も変わらなければあの現実に逆戻り、ってことだろ……? そんなのごめんだ)
この上なく幸せで、豊かに恵まれた状況から中学時代に戻ってきたわけじゃない。逆にいえば、与えられたこの一年間で、何かを大きく変えることができなければ元の木阿弥だ。
(同じ分だけ『変える』のなら、やったことより、やってないことの方がいいに決まってる)
つまりは、そういうことだ。
「保健委員の人―!? 早く集まってねー!!」
「は、はい! 今行きまーす!」
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