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第45話 鮮血に染まる乙女ゴコロ事件(3) at 1995/4/26
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「おい、ダッチ? これだけは言っておく――いや、言わせてくれ」
あえて小山田のことをあだ名で呼んだのは、親しみを持たせるためではなく上も下もない対等だということを明らかにするためだった。案の定、小山田の顔が見る間に赤黒く染まる。
「てめえ……!」
「まあ、聞けよ」
僕は気楽な調子で応じながらも、小山田の憤怒の炎を灯した双眸からかたときも視線をそらすことなく語りかけた。
「もちろんダッチだけじゃない、悪ノリしてる他の連中もだ。……なあ、こんなことやめないか? 興味がある? 恥ずかしい? 照れ臭い? 理由はそれぞれで、わざわざ追及する気もないけれど、こんなの、みんな不愉快になって気分が悪くなるだけで、誰も得をしないだろ?」
「はン! 俺はたまらなくおもしれえけどな!」
「……これが、お前の好きな女の子の物だったとしてもか?」
小馬鹿にしたように下卑た笑みを浮かべていた小山田の表情が凍りついた。
「その子の心に一生残る嫌な記憶を刻みつけることになってもか? それでもまだ、おもしれえ、って言いながら、はしゃいでられるのか、お前は? 大した奴だな。さすがだよ、ダッチ」
僕は力の抜けた小山田の手に触れ、ゆっくり振り解いた。そして背を向けしゃがみこむと、無人の机のまわりにぶちまけられたゴミをひとつひとつ拾い上げてはゴミ箱の中に戻していく。
「僕たちは、まだ半分子供で、半分大人だ。多少羽目を外したところで、こっぴどく叱られはするけれど最終的には許される、そういう年頃だ。けどな? 同じクラスの連中はそうじゃない。同じように歳をとり、同じように大人になっていく。心に受けた傷を抱えたまま、ね」
用心して割れたガラスの破片を拾い上げると、それも一緒にゴミ箱に投げ込んだ。
「意外とさ……大人になっても、何十年経っても思い出すんだよ。嫌な記憶、忘れたい思い出、そんな古傷がひょっこり顔を出してズキズキ痛むんだ。いつまで経っても消えない、忘れられないんだよ。やった方はけろっとしてすぐに忘れちまう。罪の意識なんてこれっぽっちもない」
僕は最後に丸められた生理用品を手にとると、ついてしまったホコリを優しく払ってからこう続けた。
「気に入らないんだろうな? ムシャクシャしてるんだろうな? イライラして、ムカムカしてるんだろうな? けどな、もうこういう下らないことはやめて欲しい。誰かを貶めて傷つけないと生まれてこないジョークだなんて、可哀想すぎてちっとも笑えないんだよ。ゴミ以下だ」
ぼすん――。
セリフの最後にあわせて、小山田から目をそらさず手の中の生理用品をゴミ箱に落とした。
小山田はじっと僕を見つめ返している。しかし、その瞳の奥に宿るのは、めらめらと燃え上がる炎のようだった。なにかほんの些細なきっかけで、たちまち噴き出してきそうな炎だった。
けれど僕は、構わず背中を向けると、もう一度ゴミ箱をしっかりと抱え直した。
「それじゃあ僕、ちょっと捨ててくるよ」
がら――ぴしり。
間もなく授業が始まろうというタイミングでひとり立つ廊下は、静かで、静かすぎて、おかげで頭に昇りかけていた血が徐々に静まるのがはっきりと感じられた。僕は張り詰めていたものを押し出すように、ふぅーっと長く息を吐き出すと、その場に立ち尽くしたまま目を閉じる。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(……はぁ。現実乖離率、結構上がったんだろうなあ……。けれど、二度目は嫌だったから)
それがわかっているだけに、スマホを取り出すのも億劫になったので帰宅してから見ることにした。今はまず、こいつを焼却炉に入れてこよう。そう思って歩き出そうとした時だった、
「……ちょっと待ちなさいよ、ケンタ。あたしも一緒に行くから」
あえて小山田のことをあだ名で呼んだのは、親しみを持たせるためではなく上も下もない対等だということを明らかにするためだった。案の定、小山田の顔が見る間に赤黒く染まる。
「てめえ……!」
「まあ、聞けよ」
僕は気楽な調子で応じながらも、小山田の憤怒の炎を灯した双眸からかたときも視線をそらすことなく語りかけた。
「もちろんダッチだけじゃない、悪ノリしてる他の連中もだ。……なあ、こんなことやめないか? 興味がある? 恥ずかしい? 照れ臭い? 理由はそれぞれで、わざわざ追及する気もないけれど、こんなの、みんな不愉快になって気分が悪くなるだけで、誰も得をしないだろ?」
「はン! 俺はたまらなくおもしれえけどな!」
「……これが、お前の好きな女の子の物だったとしてもか?」
小馬鹿にしたように下卑た笑みを浮かべていた小山田の表情が凍りついた。
「その子の心に一生残る嫌な記憶を刻みつけることになってもか? それでもまだ、おもしれえ、って言いながら、はしゃいでられるのか、お前は? 大した奴だな。さすがだよ、ダッチ」
僕は力の抜けた小山田の手に触れ、ゆっくり振り解いた。そして背を向けしゃがみこむと、無人の机のまわりにぶちまけられたゴミをひとつひとつ拾い上げてはゴミ箱の中に戻していく。
「僕たちは、まだ半分子供で、半分大人だ。多少羽目を外したところで、こっぴどく叱られはするけれど最終的には許される、そういう年頃だ。けどな? 同じクラスの連中はそうじゃない。同じように歳をとり、同じように大人になっていく。心に受けた傷を抱えたまま、ね」
用心して割れたガラスの破片を拾い上げると、それも一緒にゴミ箱に投げ込んだ。
「意外とさ……大人になっても、何十年経っても思い出すんだよ。嫌な記憶、忘れたい思い出、そんな古傷がひょっこり顔を出してズキズキ痛むんだ。いつまで経っても消えない、忘れられないんだよ。やった方はけろっとしてすぐに忘れちまう。罪の意識なんてこれっぽっちもない」
僕は最後に丸められた生理用品を手にとると、ついてしまったホコリを優しく払ってからこう続けた。
「気に入らないんだろうな? ムシャクシャしてるんだろうな? イライラして、ムカムカしてるんだろうな? けどな、もうこういう下らないことはやめて欲しい。誰かを貶めて傷つけないと生まれてこないジョークだなんて、可哀想すぎてちっとも笑えないんだよ。ゴミ以下だ」
ぼすん――。
セリフの最後にあわせて、小山田から目をそらさず手の中の生理用品をゴミ箱に落とした。
小山田はじっと僕を見つめ返している。しかし、その瞳の奥に宿るのは、めらめらと燃え上がる炎のようだった。なにかほんの些細なきっかけで、たちまち噴き出してきそうな炎だった。
けれど僕は、構わず背中を向けると、もう一度ゴミ箱をしっかりと抱え直した。
「それじゃあ僕、ちょっと捨ててくるよ」
がら――ぴしり。
間もなく授業が始まろうというタイミングでひとり立つ廊下は、静かで、静かすぎて、おかげで頭に昇りかけていた血が徐々に静まるのがはっきりと感じられた。僕は張り詰めていたものを押し出すように、ふぅーっと長く息を吐き出すと、その場に立ち尽くしたまま目を閉じる。
ヴーッ。ヴーッ。ヴーッ。
(……はぁ。現実乖離率、結構上がったんだろうなあ……。けれど、二度目は嫌だったから)
それがわかっているだけに、スマホを取り出すのも億劫になったので帰宅してから見ることにした。今はまず、こいつを焼却炉に入れてこよう。そう思って歩き出そうとした時だった、
「……ちょっと待ちなさいよ、ケンタ。あたしも一緒に行くから」
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