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第70話 その9「好きな子と鎌倉の町を散策しよう」(3) at 1995/5/31
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「――というわけですからね。いいですか?」
校外活動の時でさえもいつもの白衣を羽織っている荻島センセイは、集まった一同の顔を順番に見つめながら言い聞かせるように改めてそう言った。通りがかった地元の人たちがセンセイの風変わりなファッションに小首を傾げているが、本人はちっとも気にならないらしい。
「十六時〇〇分には、もう一度ここ、大船駅に集合してもらいます。そこで点呼をとって全員揃っていることが確認できたら、帰りは全員揃って学校に戻りますよー。帰りは時間厳守です」
最後のひとことは、九時の集合時間に遅刻してきた小山田たちに向けた念押しだ。時間前には到着していたようだが、他のメンバーを残して小山田と吉川だけで大船の町をぶらついているうちに時間が過ぎてしまったらしい。曰く、『どこも開店前だった』。そりゃそうだろう。
ふてくされた態度で大袈裟に肩をすくめてみせる小山田だったが、珍しく黙ったままだ。
「学校に戻ってから、見回りの先生方から本日の報告と注意を含めた反省会があります。あくまで学習活動だということを忘れずに、地元の方々にご迷惑をかけることのないよう、節度を保って見学してください。一週間後のレポート提出ができるよう、しっかり取材してください」
「「「はい」」」
「では、この後――」
荻島センセイは白衣の袖をまくり、銀のダイバーズウォッチを見つめて眉根を寄せた。
「九時三〇分になったら、各自準備のできたところから出発してください。……あ、そうそう。各班のリーダー、現在の時間をセンセイの時計と合わせておきましょうか。リーダー、集合」
集まった七人のリーダーの中には、当然のように小山田と室生の顔もあった。露骨に威嚇するような攻撃的な表情を小山田がしたのは想定内だったけれど、室生の態度もよそよそしい。
(ほら、ムロってロコのことが好きみたいだから、ちょっと気に入らなかったみたいだよ?)
渋田も言っていたっけ。室生がロコのことを好きだったという『過去』は僕だって知っているけれど、この程度のことで室生たち『イケメングループ』まで敵に回すのは割に合わない。何しろ、僕が無理矢理引き抜いたとかではなく、勝手にロコの方から飛び出してきたのだから。
「どの班が最初に帰ってくるか、競争だな?」
にやり、と口元を吊り上げて小山田が言ったが、僕は他の連中とは違って首を振る。
「ウチの班は降りるよ。競争はしない。時間を有効に使って、じっくりと見学してくるから」
「勝手にしろ、腰抜けのナプキン王子様はよ?」
「……なあ? いい加減、その呼び名はやめにしないか?」
「いーや。やめないね。へへっ」
僕が嫌だというよりも、毎回その呼び名を耳にするたびクラスの女子たちが恥じたように視線を泳がせ落ち着かなげにしているのが気になっているだけだ。しかし、逆効果だったらしい。
「……」
最近気づいたことだが、荻島センセイも今のクラスの状態はちゃんと把握しているようだ。しかし、今のところ動くつもりはないらしい。職務怠慢だと思いたくはないが、面倒事を避けているのか、少し様子を見るつもりなのか。それともまさか――僕に期待して任せているのか。
(さすがにそこまで歴史を変えてしまうつもりはないんだけど……階級最底辺だった僕が、さ)
確か今いる一九九五年は、昨年十一月に愛知県で起きたいじめ自殺事件をきっかけに、学校における『いじめ問題』が社会問題としてマスコミに大きく取り上げられていた頃だ。だから、学校側も迂闊に放置したり見て見ぬフリはできない。そういう風潮にあったはずである。
(まいったな……。面倒なことになる前に、小山田たちとは何とか折り合いをつけないと……)
態度には微塵も出さずに、心の中でだけ、やれやれ、と肩をすくめて首を振る僕であった。
「では、そろそろみなさん出発してください。くれぐれも気をつけてくださいね」
「「「はい」」」
校外活動の時でさえもいつもの白衣を羽織っている荻島センセイは、集まった一同の顔を順番に見つめながら言い聞かせるように改めてそう言った。通りがかった地元の人たちがセンセイの風変わりなファッションに小首を傾げているが、本人はちっとも気にならないらしい。
「十六時〇〇分には、もう一度ここ、大船駅に集合してもらいます。そこで点呼をとって全員揃っていることが確認できたら、帰りは全員揃って学校に戻りますよー。帰りは時間厳守です」
最後のひとことは、九時の集合時間に遅刻してきた小山田たちに向けた念押しだ。時間前には到着していたようだが、他のメンバーを残して小山田と吉川だけで大船の町をぶらついているうちに時間が過ぎてしまったらしい。曰く、『どこも開店前だった』。そりゃそうだろう。
ふてくされた態度で大袈裟に肩をすくめてみせる小山田だったが、珍しく黙ったままだ。
「学校に戻ってから、見回りの先生方から本日の報告と注意を含めた反省会があります。あくまで学習活動だということを忘れずに、地元の方々にご迷惑をかけることのないよう、節度を保って見学してください。一週間後のレポート提出ができるよう、しっかり取材してください」
「「「はい」」」
「では、この後――」
荻島センセイは白衣の袖をまくり、銀のダイバーズウォッチを見つめて眉根を寄せた。
「九時三〇分になったら、各自準備のできたところから出発してください。……あ、そうそう。各班のリーダー、現在の時間をセンセイの時計と合わせておきましょうか。リーダー、集合」
集まった七人のリーダーの中には、当然のように小山田と室生の顔もあった。露骨に威嚇するような攻撃的な表情を小山田がしたのは想定内だったけれど、室生の態度もよそよそしい。
(ほら、ムロってロコのことが好きみたいだから、ちょっと気に入らなかったみたいだよ?)
渋田も言っていたっけ。室生がロコのことを好きだったという『過去』は僕だって知っているけれど、この程度のことで室生たち『イケメングループ』まで敵に回すのは割に合わない。何しろ、僕が無理矢理引き抜いたとかではなく、勝手にロコの方から飛び出してきたのだから。
「どの班が最初に帰ってくるか、競争だな?」
にやり、と口元を吊り上げて小山田が言ったが、僕は他の連中とは違って首を振る。
「ウチの班は降りるよ。競争はしない。時間を有効に使って、じっくりと見学してくるから」
「勝手にしろ、腰抜けのナプキン王子様はよ?」
「……なあ? いい加減、その呼び名はやめにしないか?」
「いーや。やめないね。へへっ」
僕が嫌だというよりも、毎回その呼び名を耳にするたびクラスの女子たちが恥じたように視線を泳がせ落ち着かなげにしているのが気になっているだけだ。しかし、逆効果だったらしい。
「……」
最近気づいたことだが、荻島センセイも今のクラスの状態はちゃんと把握しているようだ。しかし、今のところ動くつもりはないらしい。職務怠慢だと思いたくはないが、面倒事を避けているのか、少し様子を見るつもりなのか。それともまさか――僕に期待して任せているのか。
(さすがにそこまで歴史を変えてしまうつもりはないんだけど……階級最底辺だった僕が、さ)
確か今いる一九九五年は、昨年十一月に愛知県で起きたいじめ自殺事件をきっかけに、学校における『いじめ問題』が社会問題としてマスコミに大きく取り上げられていた頃だ。だから、学校側も迂闊に放置したり見て見ぬフリはできない。そういう風潮にあったはずである。
(まいったな……。面倒なことになる前に、小山田たちとは何とか折り合いをつけないと……)
態度には微塵も出さずに、心の中でだけ、やれやれ、と肩をすくめて首を振る僕であった。
「では、そろそろみなさん出発してください。くれぐれも気をつけてくださいね」
「「「はい」」」
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