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第79話 衣替えバンザイ! at 1995/6/5
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「――って感じだったんだ」
「へぇー! ……で?」
「で? とは?」
「とは? じゃなくって。……で?」
校外活動の翌日、六月一日は学校が休みとなり、土日を含めて三連休明けの今日は月曜日だ。僕は、登校するなりいつもとは逆に渋田の席の方へお邪魔して、鎌倉での出来事をのろけ半分のつもりでちょっぴり自慢げに話したりなんかしていたのだけれど、渋田からの執拗な問いかけに困惑っするばかりだった。すると、渋田は声を潜めつつ荒げるという器用なことをする。
『だーかーらーっ! 五十嵐君、佐倉ちゃんの部活勧誘はどうなったのかーって聞いてんの!』
『………………あ』
そ、そうだった。
すっかり忘れてた……。
「はぁ……。その顔は、すっかり忘れてた、って顔だね?」
「ううう、面目ない……」
二十六年ぶりの校外活動が予想以上に楽しすぎて、我らが『電算論理研究部』の『で』の字も出てこないくらい満喫してしまった。せっかくのチャンスだったのに……。
しかし逆に考えてみれば、思わず大事な大事な本題を忘れてしまうほど一緒に楽しむことができたメンバーだったという証明でもある。それは、中間テスト対策の勉強会に二人が参加してくれていた時から感じていたことでもあり、それを今回再認識できたということだろう。
「でも、二人なら問題ないと思う。ある意味対照的だけれど、とってもいい奴らだったし」
「それは、モリケンの話を聞いてたら、僕にも伝わってきたけどね」
渋田はそううなずきながら続ける。
「けどさ? 僕らの『電算論理研究部』に入ってくれるかどうかはまったく別の話じゃん?」
「だよなあ……。結局、いつも二人がすぐ帰っちゃう理由の方も聞きそびれちゃったし」
僕のセリフに、渋田はやれやれと呆れた顔で首を振った。教室内をざっと見渡したところ、残念なことに五十嵐君と佐倉君の姿はまだ見えなかった。代わりに、むすり、とした顔付きの小山田と目が合ってしまい、慌てて目をそらす。
「? どしたの? ダッチとなんかあったの?」
「ああ……ちょっと、ね?」
連休明けで、しかも月曜日だというのに、小山田がこんな早い時間から登校しているというのはプレミア付きのレア中のレアだ。かといって、特に何かしている風でもする風でもなく、手持ち無沙汰の状態で机の上にどっかと組んだ足を投げ出し、ゆらゆらと椅子を揺らしていた。
「はいはい。あたしが来たわよー。モリケン、そこどいて」
「おっはよー、サトチン! 衣替えバンザイ! 夏っていいよねっ!」
「衣替えったって……ブレザーなしベストなしの、ワイシャツリボンタイのスカート姿じゃん」
「それがいいんじゃないですかぁー! ね? ね? モリケン?」
「わかんないって……。うぉっ! すぐどくから! 押すな押すなっ!」
咲都子が登校してきたことで、やむなく強制退場を喰らった僕。すごすごと自分の席へ戻ると、隣には咲都子と同じく夏の装いに着替えた純美子がなぜか少し照れたように座っていた。
「お早う、スミちゃん! 衣替えバンザイ! 夏っていいよねっ!」
「もうっ! 言うと思った! さっき見てたもん!」
違うんだ違うんです。
気づいた時にはもう勝手に口からセリフが飛び出してたんです。
でも、シブチンの言うとおりかもしれない。
頬を赤らめてぷいっとそっぽを向いている純美子の真っ白なワイシャツ姿は、ある種神々しささえ感じるほどだった。たぶん、僕が着ているのと同じ、ごく普通の白い生地のはずなのに、こんなに輝いて見えるだなんてまるで魔法だ。二年生を表す緑色の、女子ならではのリボンタイだって、普段はウチの制服ってイケてないなと思っていたはずなのに凄くキュートだ。蝶結びにされたリボンタイの端っこが、純美子の胸の隆起に沿ってゆるやかに流れ落ちている。
い、いかんいかん、あんまりジロジロ見てたら――。
「もうっ……ケンタ君のえっち。そんなに見つめられたら、恥ずかしいよぅ……」
「へぇー! ……で?」
「で? とは?」
「とは? じゃなくって。……で?」
校外活動の翌日、六月一日は学校が休みとなり、土日を含めて三連休明けの今日は月曜日だ。僕は、登校するなりいつもとは逆に渋田の席の方へお邪魔して、鎌倉での出来事をのろけ半分のつもりでちょっぴり自慢げに話したりなんかしていたのだけれど、渋田からの執拗な問いかけに困惑っするばかりだった。すると、渋田は声を潜めつつ荒げるという器用なことをする。
『だーかーらーっ! 五十嵐君、佐倉ちゃんの部活勧誘はどうなったのかーって聞いてんの!』
『………………あ』
そ、そうだった。
すっかり忘れてた……。
「はぁ……。その顔は、すっかり忘れてた、って顔だね?」
「ううう、面目ない……」
二十六年ぶりの校外活動が予想以上に楽しすぎて、我らが『電算論理研究部』の『で』の字も出てこないくらい満喫してしまった。せっかくのチャンスだったのに……。
しかし逆に考えてみれば、思わず大事な大事な本題を忘れてしまうほど一緒に楽しむことができたメンバーだったという証明でもある。それは、中間テスト対策の勉強会に二人が参加してくれていた時から感じていたことでもあり、それを今回再認識できたということだろう。
「でも、二人なら問題ないと思う。ある意味対照的だけれど、とってもいい奴らだったし」
「それは、モリケンの話を聞いてたら、僕にも伝わってきたけどね」
渋田はそううなずきながら続ける。
「けどさ? 僕らの『電算論理研究部』に入ってくれるかどうかはまったく別の話じゃん?」
「だよなあ……。結局、いつも二人がすぐ帰っちゃう理由の方も聞きそびれちゃったし」
僕のセリフに、渋田はやれやれと呆れた顔で首を振った。教室内をざっと見渡したところ、残念なことに五十嵐君と佐倉君の姿はまだ見えなかった。代わりに、むすり、とした顔付きの小山田と目が合ってしまい、慌てて目をそらす。
「? どしたの? ダッチとなんかあったの?」
「ああ……ちょっと、ね?」
連休明けで、しかも月曜日だというのに、小山田がこんな早い時間から登校しているというのはプレミア付きのレア中のレアだ。かといって、特に何かしている風でもする風でもなく、手持ち無沙汰の状態で机の上にどっかと組んだ足を投げ出し、ゆらゆらと椅子を揺らしていた。
「はいはい。あたしが来たわよー。モリケン、そこどいて」
「おっはよー、サトチン! 衣替えバンザイ! 夏っていいよねっ!」
「衣替えったって……ブレザーなしベストなしの、ワイシャツリボンタイのスカート姿じゃん」
「それがいいんじゃないですかぁー! ね? ね? モリケン?」
「わかんないって……。うぉっ! すぐどくから! 押すな押すなっ!」
咲都子が登校してきたことで、やむなく強制退場を喰らった僕。すごすごと自分の席へ戻ると、隣には咲都子と同じく夏の装いに着替えた純美子がなぜか少し照れたように座っていた。
「お早う、スミちゃん! 衣替えバンザイ! 夏っていいよねっ!」
「もうっ! 言うと思った! さっき見てたもん!」
違うんだ違うんです。
気づいた時にはもう勝手に口からセリフが飛び出してたんです。
でも、シブチンの言うとおりかもしれない。
頬を赤らめてぷいっとそっぽを向いている純美子の真っ白なワイシャツ姿は、ある種神々しささえ感じるほどだった。たぶん、僕が着ているのと同じ、ごく普通の白い生地のはずなのに、こんなに輝いて見えるだなんてまるで魔法だ。二年生を表す緑色の、女子ならではのリボンタイだって、普段はウチの制服ってイケてないなと思っていたはずなのに凄くキュートだ。蝶結びにされたリボンタイの端っこが、純美子の胸の隆起に沿ってゆるやかに流れ落ちている。
い、いかんいかん、あんまりジロジロ見てたら――。
「もうっ……ケンタ君のえっち。そんなに見つめられたら、恥ずかしいよぅ……」
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