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第93話 かえでちゃん♂の事情 at 1995/6/21
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「で、だ――」
結局、昨日は観劇帰りの一件でうやむやの無茶苦茶になってしまったので、日を変えてようやく本題に入ることになった。場所は、もちろん『電算論理研究部』の部室である。
「佐倉君の入部条件の、『一人前の男にして欲しい』っての、くわしく話してくれるかな?」
「は、はい。そ、そうですよね」
佐倉君は座布団の上でしゃきっと背筋を伸ばした。
「僕には、男らしさ、が足りないんです。そのせいで、家でも学校でも、まわりからからかわれることが多くって……。い、いえ! イジメられたり、ってことではないんですけれど……」
佐倉君のハナシを要約するとこうだ。
佐倉家は、両親と四人の子供たちの六人暮らし。佐倉君の上にお姉さんが二人いて、下に妹が一人いる。お父さんは長い間単身赴任で、アメリカ・シカゴで暮らしているそうだ。そのため、小さい頃から女性四人に囲まれて生活していた佐倉君なのだが、決して家族仲は悪くない。いや、むしろ家族仲は良い。
しかし、その家族仲が異常に良すぎるのが一つの原因らしい。
「僕、小さい頃から、自分が男だと気づかないまま育ったんです。二人の姉さんのお下がりを着せられることなんてしょっちゅうで、平気でスカートを履いて遊びに行ったりしてたんです」
「しゃ、写真はないの? ね? ね?」
「そこ、シブチン、うるさい! ……自分が男なんだと自覚したのは、いつ頃だったのかな?」
「小学校に上がった頃です。さすがに健康診断やら制服やらプールやらで……気づきますよね」
ふーん。
佐倉君、小学校で制服があっただなんて、意外といいとこのお坊ちゃんなのかも。
「それでも最初の頃は、なんで僕はこっち側なんだろう? って、とっても不思議で。小さいながらも人前で、男子の前で着替えるのがとっても恥ずかしくって嫌で……。ほら、低学年のうちは男女一緒に着替えるじゃないですか。でも、成長していくうちに、あれ? もしかして、一緒に着替えている時に、女の子から気持ち悪がられてるのは僕の方かも? って気づいて」
心は女の子側だった佐倉君だが、同じクラスの女の子にしてみたら、多少女の子っぽい部分があるにしても、やっぱり彼が正真正銘男の子であることに変わりはないのだから仕方ない。
「高学年になった頃には、なんとか気持ちも切り替えられて、普通に戻れました。けれど、まだ心のどこかに、『自分が女の子だと信じて疑わなかった頃の僕』がいるみたいなんです」
「ふうん。なるほどね……」
僕は深くうなずいた。
そして聞いてみる。
「その小さかった頃の佐倉君が、今になってもときたまひょこり顔を出す、ってことなのかな? でも、だからといって、そんなに厄介な面倒事は起こらなさそうな気がするけど?」
「こっ、怖がりだったり、すぐ涙ぐんじゃったりとか、そういうのは全然いいんですよ!」
あ、いいんだ、それは。
ちなみに、今もちょっと瞳がウルウルしている佐倉君。
「そういう繊細な感性なんだって、自分を納得させてますし! でも……男子から告白されたりとか、き、着替え中の盗撮写真が出回ってたりとか……そういうのはちょっとやだなって」
「えー……。おい、シブチン? そのあたり、ホントなのか?」
「前にも言ったでしょうが。『かえでちゃんFC』っていう闇の組織もあるらしいからねー」
「闇の組織って……はぁ……」
途端に非合法な印象を受けるヤバい連中になったけれど、要は表立って活動する組織じゃなくって、裏で密かに動いている、ってことだろう。恐らく、着替え中の盗撮写真とかいうのも、裏で彼らが手配し、流通しているに違いない。
だが、彼らを探し出して潰したところで、また似たようなことが起こるのは目に見えている。佐倉君本人が変わりでもしない限り、同じような連中が、似たようなことを始めるだろう。もう一方の、男子から告白される、というのもそうだ。佐倉君が変わらなければ何も変わらない。
とはいうものの。
「だから、一人前の男になりたい、ってことなのか。でもさ……ホントにそれでいいのかな?」
「………………え? それってどういう――?」
「変えちゃっていいのかな、ってこと。佐倉君は、佐倉君らしくいるべきだと思うんだ、僕は」
結局、昨日は観劇帰りの一件でうやむやの無茶苦茶になってしまったので、日を変えてようやく本題に入ることになった。場所は、もちろん『電算論理研究部』の部室である。
「佐倉君の入部条件の、『一人前の男にして欲しい』っての、くわしく話してくれるかな?」
「は、はい。そ、そうですよね」
佐倉君は座布団の上でしゃきっと背筋を伸ばした。
「僕には、男らしさ、が足りないんです。そのせいで、家でも学校でも、まわりからからかわれることが多くって……。い、いえ! イジメられたり、ってことではないんですけれど……」
佐倉君のハナシを要約するとこうだ。
佐倉家は、両親と四人の子供たちの六人暮らし。佐倉君の上にお姉さんが二人いて、下に妹が一人いる。お父さんは長い間単身赴任で、アメリカ・シカゴで暮らしているそうだ。そのため、小さい頃から女性四人に囲まれて生活していた佐倉君なのだが、決して家族仲は悪くない。いや、むしろ家族仲は良い。
しかし、その家族仲が異常に良すぎるのが一つの原因らしい。
「僕、小さい頃から、自分が男だと気づかないまま育ったんです。二人の姉さんのお下がりを着せられることなんてしょっちゅうで、平気でスカートを履いて遊びに行ったりしてたんです」
「しゃ、写真はないの? ね? ね?」
「そこ、シブチン、うるさい! ……自分が男なんだと自覚したのは、いつ頃だったのかな?」
「小学校に上がった頃です。さすがに健康診断やら制服やらプールやらで……気づきますよね」
ふーん。
佐倉君、小学校で制服があっただなんて、意外といいとこのお坊ちゃんなのかも。
「それでも最初の頃は、なんで僕はこっち側なんだろう? って、とっても不思議で。小さいながらも人前で、男子の前で着替えるのがとっても恥ずかしくって嫌で……。ほら、低学年のうちは男女一緒に着替えるじゃないですか。でも、成長していくうちに、あれ? もしかして、一緒に着替えている時に、女の子から気持ち悪がられてるのは僕の方かも? って気づいて」
心は女の子側だった佐倉君だが、同じクラスの女の子にしてみたら、多少女の子っぽい部分があるにしても、やっぱり彼が正真正銘男の子であることに変わりはないのだから仕方ない。
「高学年になった頃には、なんとか気持ちも切り替えられて、普通に戻れました。けれど、まだ心のどこかに、『自分が女の子だと信じて疑わなかった頃の僕』がいるみたいなんです」
「ふうん。なるほどね……」
僕は深くうなずいた。
そして聞いてみる。
「その小さかった頃の佐倉君が、今になってもときたまひょこり顔を出す、ってことなのかな? でも、だからといって、そんなに厄介な面倒事は起こらなさそうな気がするけど?」
「こっ、怖がりだったり、すぐ涙ぐんじゃったりとか、そういうのは全然いいんですよ!」
あ、いいんだ、それは。
ちなみに、今もちょっと瞳がウルウルしている佐倉君。
「そういう繊細な感性なんだって、自分を納得させてますし! でも……男子から告白されたりとか、き、着替え中の盗撮写真が出回ってたりとか……そういうのはちょっとやだなって」
「えー……。おい、シブチン? そのあたり、ホントなのか?」
「前にも言ったでしょうが。『かえでちゃんFC』っていう闇の組織もあるらしいからねー」
「闇の組織って……はぁ……」
途端に非合法な印象を受けるヤバい連中になったけれど、要は表立って活動する組織じゃなくって、裏で密かに動いている、ってことだろう。恐らく、着替え中の盗撮写真とかいうのも、裏で彼らが手配し、流通しているに違いない。
だが、彼らを探し出して潰したところで、また似たようなことが起こるのは目に見えている。佐倉君本人が変わりでもしない限り、同じような連中が、似たようなことを始めるだろう。もう一方の、男子から告白される、というのもそうだ。佐倉君が変わらなければ何も変わらない。
とはいうものの。
「だから、一人前の男になりたい、ってことなのか。でもさ……ホントにそれでいいのかな?」
「………………え? それってどういう――?」
「変えちゃっていいのかな、ってこと。佐倉君は、佐倉君らしくいるべきだと思うんだ、僕は」
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