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第94話 テニスコートで応援を at 1995/6/25
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「ご、ごめんね、スミちゃん。急に誘ったりしてさ……」
「ううん、あたしも予定なかったから。ケ、ケンタ君から誘ってもらえると思ってなかったし」
今日は日曜日だ。
僕と純美子は町田駅の一つ隣、成瀬駅から徒歩一五分の『成瀬クリーンセンターテニスコート』の観客席にいた。観客席とは言って世界大会のように階段状のアリーナがあるわけではなく、コートを取り囲む高い緑のネットの近くに必要な分だけパイプ椅子が並べてある、極めて質素で簡易的なものだ。
「あの……どうしてあたしを誘ってくれたの?」
「そ、それは……えっと……」
心の奥を探るような、ちょっぴり何かを期待しているような、潤んだ純美子の大きな瞳に見つめられ、僕はたちまち落ち着きと言うべき言葉を失ってドギマギしてしまった。
でも、まさかホントのことは言えない。
佐倉君から『ぜひ二人で応援に来てくれませんか?』と言われた時、まっさきに声を掛けたのが渋田だったこととか、その渋田から『えっと……モリケンって馬鹿なの?』って呆れられたこととか、『じゃあ五十嵐君は――』と言いかけた僕を慈愛溢れるアルカイックスマイルでスルーした五十嵐君のこととかは絶対にここで口にすべきではないのだ。うん。
代わりに精一杯の笑顔らしきものを顔中に浮かべると、僕はこう答えてあげた。
「ぼっ、僕が誘いたかったからさ、スミちゃんを。それにスミちゃん、テニス部だったよね?」
「うん! 覚えててくれたんだー! で……誘いたかったんだー……。ちょっと嬉しいな……」
「ほ、ほら、僕、全然テニスのこと知らなくってさ! 知ってる人と観ればわかるのかなって」
あ、あれ?
急にスミちゃんの様子が?
さっきまで白桃みたいなピンク色だったのに、今はなんだか熟れすぎたトマトみたいで――。
「ど、どうしたのかなー? 急に黙っちゃって……あ、そうだ! 何か飲み物でも――うげっ」
「もうっ! 自分でっ! 買ってくるからいいですっ!」
痛たたたたた……。
どうして今、足思いっきり踏まれたのかな!?
僕、女心がちっとも理解できないです……。
ぷりぷり怒りながら遠ざかっていく純美子の後ろ姿を苦笑まじりに見つめる。いつもとは違うストラップタイプで底の厚めな黒の革靴は、オトナになりたくってちょっと背伸びしているみたいだ。ロリータファッション寄りの足元は、くるぶし丈で折り返した白いソックス。彩りを添えるフリルがかわいい。でも、ス、スカートの丈、ちょっと短すぎないかな? そわそわ。
そうやって純美子を見つめていると妙に落ち着かない気分になるのに、どうしても目を離せずにいると、遠くからリズミカルに駆け寄る足音が僕をようやく正気に戻してくれた。
「あ――来てくれたんですね、古ノ森リーダー! あの……河東さんも一緒……ですよね?」
「……ああ、佐倉君。ごめん! 今ぼーっとしてて、あんまり話聞いてなかったんだけど?」
「あは、あはははは……」
「ん? なんかいつもと雰囲気が違う気が……。そのウェアのせいかな。似合ってるじゃん」
ほんの一瞬、あれ? なんでスカートじゃないの? って思っちゃったのはヒミツである。
「そ、そうですか? 嬉しいです。えへへ……」
「それでさ、今日はどういうカンジの試合をするのかな?」
「えっと――」
佐倉君はどう説明したものかと顎に指を添えて空を見上げた。どうみても女の子の仕草。
「わかりやすく言うと……国内のランキング選手が競ってポイントを奪い合う、みたいな?」
「ええっ!? それって、まるでプロテニスプレイヤーみたいじゃんか!」
「いえいえ、それは大袈裟ですってば。登録費さえ払えば、誰でも選手になれるんですから」
「えーっ! かえでちゃんって、ジュニア登録してるんだねー! すごーい! 本格的ー!」
えっと。さすがに学校の外では『かえでちゃん』呼びはやめてあげて……。あと、僕の分も買ってきてくれたのはとっても嬉しいんだけど、ほっぺたじゃ飲めないよ? 冷たいんだけど。
「あ、はい! ――呼ばれちゃいました。じゃ、僕、行ってきますね! 応援お願いします!」
「ううん、あたしも予定なかったから。ケ、ケンタ君から誘ってもらえると思ってなかったし」
今日は日曜日だ。
僕と純美子は町田駅の一つ隣、成瀬駅から徒歩一五分の『成瀬クリーンセンターテニスコート』の観客席にいた。観客席とは言って世界大会のように階段状のアリーナがあるわけではなく、コートを取り囲む高い緑のネットの近くに必要な分だけパイプ椅子が並べてある、極めて質素で簡易的なものだ。
「あの……どうしてあたしを誘ってくれたの?」
「そ、それは……えっと……」
心の奥を探るような、ちょっぴり何かを期待しているような、潤んだ純美子の大きな瞳に見つめられ、僕はたちまち落ち着きと言うべき言葉を失ってドギマギしてしまった。
でも、まさかホントのことは言えない。
佐倉君から『ぜひ二人で応援に来てくれませんか?』と言われた時、まっさきに声を掛けたのが渋田だったこととか、その渋田から『えっと……モリケンって馬鹿なの?』って呆れられたこととか、『じゃあ五十嵐君は――』と言いかけた僕を慈愛溢れるアルカイックスマイルでスルーした五十嵐君のこととかは絶対にここで口にすべきではないのだ。うん。
代わりに精一杯の笑顔らしきものを顔中に浮かべると、僕はこう答えてあげた。
「ぼっ、僕が誘いたかったからさ、スミちゃんを。それにスミちゃん、テニス部だったよね?」
「うん! 覚えててくれたんだー! で……誘いたかったんだー……。ちょっと嬉しいな……」
「ほ、ほら、僕、全然テニスのこと知らなくってさ! 知ってる人と観ればわかるのかなって」
あ、あれ?
急にスミちゃんの様子が?
さっきまで白桃みたいなピンク色だったのに、今はなんだか熟れすぎたトマトみたいで――。
「ど、どうしたのかなー? 急に黙っちゃって……あ、そうだ! 何か飲み物でも――うげっ」
「もうっ! 自分でっ! 買ってくるからいいですっ!」
痛たたたたた……。
どうして今、足思いっきり踏まれたのかな!?
僕、女心がちっとも理解できないです……。
ぷりぷり怒りながら遠ざかっていく純美子の後ろ姿を苦笑まじりに見つめる。いつもとは違うストラップタイプで底の厚めな黒の革靴は、オトナになりたくってちょっと背伸びしているみたいだ。ロリータファッション寄りの足元は、くるぶし丈で折り返した白いソックス。彩りを添えるフリルがかわいい。でも、ス、スカートの丈、ちょっと短すぎないかな? そわそわ。
そうやって純美子を見つめていると妙に落ち着かない気分になるのに、どうしても目を離せずにいると、遠くからリズミカルに駆け寄る足音が僕をようやく正気に戻してくれた。
「あ――来てくれたんですね、古ノ森リーダー! あの……河東さんも一緒……ですよね?」
「……ああ、佐倉君。ごめん! 今ぼーっとしてて、あんまり話聞いてなかったんだけど?」
「あは、あはははは……」
「ん? なんかいつもと雰囲気が違う気が……。そのウェアのせいかな。似合ってるじゃん」
ほんの一瞬、あれ? なんでスカートじゃないの? って思っちゃったのはヒミツである。
「そ、そうですか? 嬉しいです。えへへ……」
「それでさ、今日はどういうカンジの試合をするのかな?」
「えっと――」
佐倉君はどう説明したものかと顎に指を添えて空を見上げた。どうみても女の子の仕草。
「わかりやすく言うと……国内のランキング選手が競ってポイントを奪い合う、みたいな?」
「ええっ!? それって、まるでプロテニスプレイヤーみたいじゃんか!」
「いえいえ、それは大袈裟ですってば。登録費さえ払えば、誰でも選手になれるんですから」
「えーっ! かえでちゃんって、ジュニア登録してるんだねー! すごーい! 本格的ー!」
えっと。さすがに学校の外では『かえでちゃん』呼びはやめてあげて……。あと、僕の分も買ってきてくれたのはとっても嬉しいんだけど、ほっぺたじゃ飲めないよ? 冷たいんだけど。
「あ、はい! ――呼ばれちゃいました。じゃ、僕、行ってきますね! 応援お願いします!」
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