95 / 539
第95話 やるじゃん男の娘 at 1995/6/25
しおりを挟む
「いやあ、凄かったなあ。スミちゃんのおかげでルールもなんとなくわかったし」
「うふふふ。ケンタ君、バレーボールやってるじゃない。大体似たようなものだってば」
「それはさすがに……。で、でも――お、おほん――スミちゃんと一緒だとやっぱり何でも楽しいなって思えちゃうから、ふ、不思議だなーって……」
「えーえー。どうせルールブック代わりですよーだっ!」
「ご、ごめんってば、もう……」
ふくれっ面をしてピンク色の舌を突き出してみせる純美子だけど、すっかり機嫌が直ったようで本当によかった。にこにこ笑っている顔を見ているだけでこっちまで楽しくなってくる。
試合の方はどうなったかというと、表彰式もすでに終わり、観客席も僕らの座っているパイプ椅子以外はすっかり片づけられていて、関係者らしき人から『帰る時にはここに戻すように』と置き場の指示を受けている。そして今は、佐倉君が出てくるのを二人で待っているところだ。
「おっ。そろそろ出てくる、かな?」
大会に出場していたらしい選手たちが一名、また一名とロッカールームの方から姿を現した。ほとんどの選手が着替えを済ませ、さっぱりした様子からシャワーで汗を流したのだとわかる。その人波から抜け出すように、メーカーロゴの目立つ黒の大きなラケットバッグをゆさゆさ揺らしながら駆けてくる小柄で線の細い姿が見えた。佐倉君だ。
「はっ! はっ! すみ……ません、お待たせ……しちゃって……!」
「だ、大丈夫だよ。一人じゃないから楽しく待ってられるし。それより着替えなくって平気?」
「で、でも……。あ、ひょっとして僕、あ、汗臭い……です?」
確かに他の選手に比べると、佐倉君は人一倍汗をかいてコートを駆けまわっていた。同じくらいの年頃の選手より、佐倉君は背も低ければ手足も長いとはいえない。それをカバーしているのが足――機動力だ。けれど、その分発汗量も水分補給の回数も、他の選手より多かった。
けど、汗臭いだなんてちっとも思わなかった。ほら――すんすん――こうして鼻を近づけて匂いを嗅いでみても、臭いどころかむしろ爽やかなフローラルの香りがす――うげっ!
「や、やだ……っ! 臭い、嗅がないでくださいよぅ……恥ずかしいです……」
「全然気にならないよー? でも、汗かいたままだと風邪ひいちゃうから、着替えてきたら?」
両手でカラダを掻き抱くようにして、真っ赤になって防御の姿勢をとる佐倉君を安心させるように純美子が言う――僕の脇腹に的確な肘打ちを入れてから、だ――ホントに痛いって!
「じ、じゃ、急いで着替えてきますね! ごめんなさい!」
「ゆっくりでいいよー! ……さて、と」
ぎらり。
「ケンタ君! かえでちゃん、デリケートなんだから、そういうえっちなことは禁止ですっ!」
「ううう……同じ男同士なのに。理不尽がすぎる……」
純美子、仁王立ちである。佐倉君の気持ちを思いやってのことか、はたまた見当違いの嫉妬によるものか。大丈夫。僕、嗜好はノーマルだし。そりゃ、アリ・ナシで言ったらアリだけど。
やがて、純美子の表情からふっと険が抜け、夢見るような顔つきになる。
「にしても……凄いなあ、かえでちゃんって。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「あ、やっぱりスミちゃんにはわかるんだね」
「うん。さっき関係者っぽいお兄さんにも聞いたんだけどね? かえでちゃん、一四歳以下のクラスで五〇位以内に常にランクインしてるんだって。全国で五〇位以内だよ? 凄くない?」
「え……。それ、マジ……?」
予想以上だった。というか、はるかに斜め上だ。そんな将来有望なジュニアテニス選手を『電算論理研究部』とかいう得体のしれない部活に付き合わせて、ホントに大丈夫なんだろうか。
でも、これで授業が終わるとすぐ帰ってしまう理由がわかった。
試合前に配られた大会資料には『町田ローンテニスクラブ』と、佐倉君が所属するクラブ名が書かれていたからだ。木曽根、咲山、棚尾近辺で暮らしている者であれば誰でも知っているであろう名門クラブである。佐倉君はクラブ主催のスクールで強化選手に選出され、日々トレーニングをしているらしい。
(もうそれだけで十分すぎるほどカッコイイんだけどね……知らぬは本人ばかりなり、だな)
「うふふふ。ケンタ君、バレーボールやってるじゃない。大体似たようなものだってば」
「それはさすがに……。で、でも――お、おほん――スミちゃんと一緒だとやっぱり何でも楽しいなって思えちゃうから、ふ、不思議だなーって……」
「えーえー。どうせルールブック代わりですよーだっ!」
「ご、ごめんってば、もう……」
ふくれっ面をしてピンク色の舌を突き出してみせる純美子だけど、すっかり機嫌が直ったようで本当によかった。にこにこ笑っている顔を見ているだけでこっちまで楽しくなってくる。
試合の方はどうなったかというと、表彰式もすでに終わり、観客席も僕らの座っているパイプ椅子以外はすっかり片づけられていて、関係者らしき人から『帰る時にはここに戻すように』と置き場の指示を受けている。そして今は、佐倉君が出てくるのを二人で待っているところだ。
「おっ。そろそろ出てくる、かな?」
大会に出場していたらしい選手たちが一名、また一名とロッカールームの方から姿を現した。ほとんどの選手が着替えを済ませ、さっぱりした様子からシャワーで汗を流したのだとわかる。その人波から抜け出すように、メーカーロゴの目立つ黒の大きなラケットバッグをゆさゆさ揺らしながら駆けてくる小柄で線の細い姿が見えた。佐倉君だ。
「はっ! はっ! すみ……ません、お待たせ……しちゃって……!」
「だ、大丈夫だよ。一人じゃないから楽しく待ってられるし。それより着替えなくって平気?」
「で、でも……。あ、ひょっとして僕、あ、汗臭い……です?」
確かに他の選手に比べると、佐倉君は人一倍汗をかいてコートを駆けまわっていた。同じくらいの年頃の選手より、佐倉君は背も低ければ手足も長いとはいえない。それをカバーしているのが足――機動力だ。けれど、その分発汗量も水分補給の回数も、他の選手より多かった。
けど、汗臭いだなんてちっとも思わなかった。ほら――すんすん――こうして鼻を近づけて匂いを嗅いでみても、臭いどころかむしろ爽やかなフローラルの香りがす――うげっ!
「や、やだ……っ! 臭い、嗅がないでくださいよぅ……恥ずかしいです……」
「全然気にならないよー? でも、汗かいたままだと風邪ひいちゃうから、着替えてきたら?」
両手でカラダを掻き抱くようにして、真っ赤になって防御の姿勢をとる佐倉君を安心させるように純美子が言う――僕の脇腹に的確な肘打ちを入れてから、だ――ホントに痛いって!
「じ、じゃ、急いで着替えてきますね! ごめんなさい!」
「ゆっくりでいいよー! ……さて、と」
ぎらり。
「ケンタ君! かえでちゃん、デリケートなんだから、そういうえっちなことは禁止ですっ!」
「ううう……同じ男同士なのに。理不尽がすぎる……」
純美子、仁王立ちである。佐倉君の気持ちを思いやってのことか、はたまた見当違いの嫉妬によるものか。大丈夫。僕、嗜好はノーマルだし。そりゃ、アリ・ナシで言ったらアリだけど。
やがて、純美子の表情からふっと険が抜け、夢見るような顔つきになる。
「にしても……凄いなあ、かえでちゃんって。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「あ、やっぱりスミちゃんにはわかるんだね」
「うん。さっき関係者っぽいお兄さんにも聞いたんだけどね? かえでちゃん、一四歳以下のクラスで五〇位以内に常にランクインしてるんだって。全国で五〇位以内だよ? 凄くない?」
「え……。それ、マジ……?」
予想以上だった。というか、はるかに斜め上だ。そんな将来有望なジュニアテニス選手を『電算論理研究部』とかいう得体のしれない部活に付き合わせて、ホントに大丈夫なんだろうか。
でも、これで授業が終わるとすぐ帰ってしまう理由がわかった。
試合前に配られた大会資料には『町田ローンテニスクラブ』と、佐倉君が所属するクラブ名が書かれていたからだ。木曽根、咲山、棚尾近辺で暮らしている者であれば誰でも知っているであろう名門クラブである。佐倉君はクラブ主催のスクールで強化選手に選出され、日々トレーニングをしているらしい。
(もうそれだけで十分すぎるほどカッコイイんだけどね……知らぬは本人ばかりなり、だな)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編4が完結しました!(2026.2.22)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる