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第124話 恋は戦争(3) at 1995/7/16
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『す、すごいね……お洒落でステキなお店……』
純美子は僕の耳に唇を寄せ、押し殺した声で囁きかけた。
『……ね、スミちゃん?』
『ん? なあに?』
そこで僕は吸い込まれそうになるきら星瞬く純美子の瞳をまっすぐ見つめながら噴き出した。
「ぷっ……もうここ、図書館じゃないんだから、そんなにくっつかなくっても聞こえるよ?」
「あっ……そっか……。も、もうっ! ちょっと意地悪したでしょ、ケンタ君!?」
純美子がボリュームを上げたとたん、豆を焙煎中のマスターが、おほん、と低い咳払いをして、僕たちは慌てて姿勢を正して座り直した。喫茶店だからって、騒いでいいというわけじゃない。
「……ぶぅー」
「ご、ごめんごめん。別に意地悪とかじゃないよ、スミちゃん? そ、その……もっと……もっとくっついていたかった、とでもいいますか……えへへ」
「そう……なの?」
「うん。そう、なんだ」
ここ『珈琲舎ロッセ』は町田で最初の珈琲専門店である。JORNAを通り過ぎ、バスターミナルまで続くターミナルロードの端の方にひっそりと建っている、知る人ぞ知る名店だ。
専門店と名乗るだけあって、その種類の豊富さや、味のこだわり、自家焙煎ならではの深みと香ばしさは随一である。昭和四十五年からの歴史を感じさせる店内は、お世辞にも品が良いとは表しにくいものの、このレトロスペクティブな風情がなにより僕は好きなのだった。
「このあと、どこか行きたいところある、スミちゃん?」
「えっと。その………………ごめん、考えてなかった」
そう言って、借りたばかりの四冊の本を、ぎゅっ、と抱きしめるように僕を見る純美子。鎖骨あたりからゆるやかに広がっているデコルテがあらわになったスクエアな襟元がなんともなまめかしすぎて思わず目を反らしてしまった。普段の制服姿とは違って刺激が……強すぎる。
「そ、そのう……もしよければ、だけど……」
強すぎるんだけど……見たいものは見たいんだよなあ――ちらっ。むむ、無防備すぎない?
「散歩、しない? ここからだと、芹ヶ谷公園が近いんだけど」
「芹ヶ谷公園……? あたし、行ったことないかも」
「じゃあきっと喜んでもらえると思うよ! 緑がいっぱいで、彫刻があちこちにあるんだ。版画美術館もあるんだよ。とっても静かで、心が落ち着く、そんなところ。行ってみたい?」
「うん! そうしよっか!」
僕らはマスターに手を挙げて合図し、追加でチーズトーストとサンドウィッチを頼んで腹ごしらえをすることにした。ここのチーズトーストは、なんといってもチーズの量が物凄い。二人でシェアすれば、ちょうどいい昼食になった。どうしてもと渋る純美子をなだめすかし、会計は僕ひとりで支払っておくことにする。このくらい、貯め込んでいたお年玉の見せどころだ。
「ね? ちょっとだけ――ちょっとだけ、このお店、見てもいい?」
「もちろん。何か気になるものでも見つけたの、スミちゃん?」
とりたてて急ぐ用事もない僕らは、途中目についた女性をターゲットにしたかわいらしい雑貨店なんぞを覗きながら、文学館通りの急な坂を上がって町田街道を越えていき、『芹ヶ谷公園』へとのんびり辿り着いた。意外なことにすでに陽は傾き、時刻は三時を回っていた。
「わぁ! 凄いね、ここ!」
レンガ敷きの南口アプローチ園路を進み、青々と生い茂る木々の間を通り抜けていった僕らを迎えたのは、この公園の象徴ともいうべき『虹と水の広場』だ。
十六メートルもの高さから、巨大なシーソーのように揺れる二本のステンレス鋼の端から、怒涛のごとく、どどど、と水が流れ降り注ぐそのさまには圧倒される。そう、これもまたひとつの彫刻であり、作品なのだった。
よくある噴水のオブジェと同じく決まった時間にだけこうして水を使った演出をするのだけれど、タイミングがよかった――ツキが向いてきたみたいだぞ!
純美子は僕の耳に唇を寄せ、押し殺した声で囁きかけた。
『……ね、スミちゃん?』
『ん? なあに?』
そこで僕は吸い込まれそうになるきら星瞬く純美子の瞳をまっすぐ見つめながら噴き出した。
「ぷっ……もうここ、図書館じゃないんだから、そんなにくっつかなくっても聞こえるよ?」
「あっ……そっか……。も、もうっ! ちょっと意地悪したでしょ、ケンタ君!?」
純美子がボリュームを上げたとたん、豆を焙煎中のマスターが、おほん、と低い咳払いをして、僕たちは慌てて姿勢を正して座り直した。喫茶店だからって、騒いでいいというわけじゃない。
「……ぶぅー」
「ご、ごめんごめん。別に意地悪とかじゃないよ、スミちゃん? そ、その……もっと……もっとくっついていたかった、とでもいいますか……えへへ」
「そう……なの?」
「うん。そう、なんだ」
ここ『珈琲舎ロッセ』は町田で最初の珈琲専門店である。JORNAを通り過ぎ、バスターミナルまで続くターミナルロードの端の方にひっそりと建っている、知る人ぞ知る名店だ。
専門店と名乗るだけあって、その種類の豊富さや、味のこだわり、自家焙煎ならではの深みと香ばしさは随一である。昭和四十五年からの歴史を感じさせる店内は、お世辞にも品が良いとは表しにくいものの、このレトロスペクティブな風情がなにより僕は好きなのだった。
「このあと、どこか行きたいところある、スミちゃん?」
「えっと。その………………ごめん、考えてなかった」
そう言って、借りたばかりの四冊の本を、ぎゅっ、と抱きしめるように僕を見る純美子。鎖骨あたりからゆるやかに広がっているデコルテがあらわになったスクエアな襟元がなんともなまめかしすぎて思わず目を反らしてしまった。普段の制服姿とは違って刺激が……強すぎる。
「そ、そのう……もしよければ、だけど……」
強すぎるんだけど……見たいものは見たいんだよなあ――ちらっ。むむ、無防備すぎない?
「散歩、しない? ここからだと、芹ヶ谷公園が近いんだけど」
「芹ヶ谷公園……? あたし、行ったことないかも」
「じゃあきっと喜んでもらえると思うよ! 緑がいっぱいで、彫刻があちこちにあるんだ。版画美術館もあるんだよ。とっても静かで、心が落ち着く、そんなところ。行ってみたい?」
「うん! そうしよっか!」
僕らはマスターに手を挙げて合図し、追加でチーズトーストとサンドウィッチを頼んで腹ごしらえをすることにした。ここのチーズトーストは、なんといってもチーズの量が物凄い。二人でシェアすれば、ちょうどいい昼食になった。どうしてもと渋る純美子をなだめすかし、会計は僕ひとりで支払っておくことにする。このくらい、貯め込んでいたお年玉の見せどころだ。
「ね? ちょっとだけ――ちょっとだけ、このお店、見てもいい?」
「もちろん。何か気になるものでも見つけたの、スミちゃん?」
とりたてて急ぐ用事もない僕らは、途中目についた女性をターゲットにしたかわいらしい雑貨店なんぞを覗きながら、文学館通りの急な坂を上がって町田街道を越えていき、『芹ヶ谷公園』へとのんびり辿り着いた。意外なことにすでに陽は傾き、時刻は三時を回っていた。
「わぁ! 凄いね、ここ!」
レンガ敷きの南口アプローチ園路を進み、青々と生い茂る木々の間を通り抜けていった僕らを迎えたのは、この公園の象徴ともいうべき『虹と水の広場』だ。
十六メートルもの高さから、巨大なシーソーのように揺れる二本のステンレス鋼の端から、怒涛のごとく、どどど、と水が流れ降り注ぐそのさまには圧倒される。そう、これもまたひとつの彫刻であり、作品なのだった。
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