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第147話 僕らの『がっしゅく!』二日目(4) at 1995/7/28
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数分後、最大船速でボート乗り場へと帰港した僕らは、ほど近い位置にある遊覧船の桟橋へと脇目もふらず駆けつけていた。
「もう到着してるよ、ケンタ君!」
すでに「山中桟橋乗り場」には優雅な白鳥の姿を模した「プリンセス・オデット号」が到着しており、降りようとする乗客に先んじて二人の乗務員が担架を使って要救護者を慎重に運んでいた。ん? その隣に付き添っているのは――!
「ハ、ハカセッ! 一体なにが――!」
「あ……あ……」
「ハカセ――五十嵐弓之助っ! 男の子だろ、しっかりしろ!!」
ただ茫然と立ち尽くし、魂が抜けたかのように呆けているだけの五十嵐君に厳しい口調の檄をとばすと、はっ! とそのうつろな瞳に生気がわずか戻った。しかし、すぐに表情が曇る。
「古ノ森リーダー……僕の……僕の責任です。どうして気づいてあげられなかったのか……!」
「誰の責任でもない! 勝手に背負うな!! ……状況を整理して話してくれるか?」
「は――はい!」
姿勢を正した五十嵐君は、斜め十五度に傾いだままだった丸眼鏡を一瞬の動作で素早く正しい位置へと戻すと、ごくり、と唾を飲み下してから淀みない普段の口調で話し始めた。
「ツッキーが突然体調を崩してしまい、僕ひとりでは対処しきれなかったため、乗務員の方々にご協力いただいているという状況です。携行薬の服用により、いくぶん回復したようですが」
「ツッキーが!?」
僕らの目の前を担架が通り過ぎる。額に氷枕、カラダの上には毛布がかけられていたが、たしかに垣間見える淡いピンク色のロリータ服には見覚えがあった。ときおり荒い息が聴こえる。
「ごめ……んなさい……。本当に……ごめん……なさい……。迷惑を……かけてしまって……」
その合間を縫うようにか細い声が、何度も何度も、繰り返し繰り返し、僕らのもとへ届いた。
「あたしが……太陽の光を浴びたいって言ったから……せっかく連れて行ってくれたのに……」
水無月さんがどうしてそんなに何度も謝っているのか、その訳がたった一言でわかった。そして、彼女のセリフを耳に悔やむような表情を浮かべ、口元を引き結んだ五十嵐君の堅い顔で。
「僕は……僕はただ、ツッキーが喜ぶ顔が見たかったのです。僕と同じ、部活合宿なんて一度も経験したことのないツッキーに心に残る思い出を贈りたかったのです。けれどそれは……!」
「……君は間違ってないよ、ハカセ」
「彼女が望んだから……甲板へとエスコートしたのです。こんなに喜んでいるのだから、きっと大丈夫だろうと。……僕も嬉しかったのだと思います。だから……だから見逃してしまった」
「……間違いなんかじゃないんだよ」
「ずっと……ずっと見ていたのに、ツッキーの表情を。……いいえ、違いますね。見ていたのではなく、見とれてしまっていたのです。だからこそ、気づけるはずだった。だったのに……」
「ハ・カ・セ・ッ・!!」
思わず叫びを上げて細い両肩をがしりと掴むと、丸眼鏡の奥の細い瞳からは涙が溢れていた。僕は目を反らすことなく真っ直ぐに、五十嵐君の瞳の奥の奥をしっかりと見つめて言った。
「……いいか、ハカセ? ツッキーは誰に謝っていると思う? ハカセにだ! そしてハカセは誰に謝ってるんだ? ツッキーにだろ!? その言葉は、ちゃんと本人に、直接伝えなきゃダメだ! ダメなんだよ! ここで僕たちに伝えても、言い訳と後悔にしかならないだろ!?」
一言、一言を細いカラダに叩きこむように僕は言い聞かせる。
すると、瞳に光が戻った。
「そう……です。そうですよね」
「よかった」
僕はそこでにやりと笑ってみせた。
「わかったらそばについてやれ。ツッキーの人見知りは知ってるだろ? きっと大丈夫だから」
「……わかりました、古ノ森リーダー! すみませんが、先にコテージに戻っててください!」
「もう到着してるよ、ケンタ君!」
すでに「山中桟橋乗り場」には優雅な白鳥の姿を模した「プリンセス・オデット号」が到着しており、降りようとする乗客に先んじて二人の乗務員が担架を使って要救護者を慎重に運んでいた。ん? その隣に付き添っているのは――!
「ハ、ハカセッ! 一体なにが――!」
「あ……あ……」
「ハカセ――五十嵐弓之助っ! 男の子だろ、しっかりしろ!!」
ただ茫然と立ち尽くし、魂が抜けたかのように呆けているだけの五十嵐君に厳しい口調の檄をとばすと、はっ! とそのうつろな瞳に生気がわずか戻った。しかし、すぐに表情が曇る。
「古ノ森リーダー……僕の……僕の責任です。どうして気づいてあげられなかったのか……!」
「誰の責任でもない! 勝手に背負うな!! ……状況を整理して話してくれるか?」
「は――はい!」
姿勢を正した五十嵐君は、斜め十五度に傾いだままだった丸眼鏡を一瞬の動作で素早く正しい位置へと戻すと、ごくり、と唾を飲み下してから淀みない普段の口調で話し始めた。
「ツッキーが突然体調を崩してしまい、僕ひとりでは対処しきれなかったため、乗務員の方々にご協力いただいているという状況です。携行薬の服用により、いくぶん回復したようですが」
「ツッキーが!?」
僕らの目の前を担架が通り過ぎる。額に氷枕、カラダの上には毛布がかけられていたが、たしかに垣間見える淡いピンク色のロリータ服には見覚えがあった。ときおり荒い息が聴こえる。
「ごめ……んなさい……。本当に……ごめん……なさい……。迷惑を……かけてしまって……」
その合間を縫うようにか細い声が、何度も何度も、繰り返し繰り返し、僕らのもとへ届いた。
「あたしが……太陽の光を浴びたいって言ったから……せっかく連れて行ってくれたのに……」
水無月さんがどうしてそんなに何度も謝っているのか、その訳がたった一言でわかった。そして、彼女のセリフを耳に悔やむような表情を浮かべ、口元を引き結んだ五十嵐君の堅い顔で。
「僕は……僕はただ、ツッキーが喜ぶ顔が見たかったのです。僕と同じ、部活合宿なんて一度も経験したことのないツッキーに心に残る思い出を贈りたかったのです。けれどそれは……!」
「……君は間違ってないよ、ハカセ」
「彼女が望んだから……甲板へとエスコートしたのです。こんなに喜んでいるのだから、きっと大丈夫だろうと。……僕も嬉しかったのだと思います。だから……だから見逃してしまった」
「……間違いなんかじゃないんだよ」
「ずっと……ずっと見ていたのに、ツッキーの表情を。……いいえ、違いますね。見ていたのではなく、見とれてしまっていたのです。だからこそ、気づけるはずだった。だったのに……」
「ハ・カ・セ・ッ・!!」
思わず叫びを上げて細い両肩をがしりと掴むと、丸眼鏡の奥の細い瞳からは涙が溢れていた。僕は目を反らすことなく真っ直ぐに、五十嵐君の瞳の奥の奥をしっかりと見つめて言った。
「……いいか、ハカセ? ツッキーは誰に謝っていると思う? ハカセにだ! そしてハカセは誰に謝ってるんだ? ツッキーにだろ!? その言葉は、ちゃんと本人に、直接伝えなきゃダメだ! ダメなんだよ! ここで僕たちに伝えても、言い訳と後悔にしかならないだろ!?」
一言、一言を細いカラダに叩きこむように僕は言い聞かせる。
すると、瞳に光が戻った。
「そう……です。そうですよね」
「よかった」
僕はそこでにやりと笑ってみせた。
「わかったらそばについてやれ。ツッキーの人見知りは知ってるだろ? きっと大丈夫だから」
「……わかりました、古ノ森リーダー! すみませんが、先にコテージに戻っててください!」
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