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第167話 『電算論理研究部』、奔走す(2) at 1995/8/1
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「さて、と――」
渋田には悪いが、咲都子の提案はとても魅力的だ。あのまま進めてもらうことにする。僕から仮承認を得た咲都子は、意気揚々と嫌がる渋田をひきずりながら買い出しに出かけていった。
「と、ところで……ツッキー?」
ほんの少しの同情とともに二人を見送った僕は、『98』の置いてある文机の前でうなっている水無月さんを見つけてそっと尋ねた。爪をかじりながら、いつもに増して真剣な顔をしている。
「あ、ぶ、部長……! お、お疲れ様……です……!」
「お疲れ、って。今来たばかりで何もしてないよ。で……なんでそんな怖い顔してるんだい?」
「そ、それは……え、えっと……」
口元にある右手を慌てて後ろに隠してしまうと、水無月さんは表情をやわらげて微笑んだ。
「ち、ちょっと気になる記述を見つけてしまったので……ど、どう書き換えようかなって……」
「え? どこどこ?」
「こ、ここです」
水無月さんがおそるおそる指さしたモニターの一点を見つめる僕。ふむ、プログラム的にはまったく問題ないのだけれど、確かにどこか引っかかる記述になっている。気づかなかった。
「ふーむ、なるほどね……。いいよ、ツッキーの思う通りに書き換えていいから。任せるよ!」
「えっ……! い、いいんです?」
「もちろんだよ、ツッキー」
僕は、慌てふためく水無月さんの細くて小さい肩をぽんぽんと叩いてから続けて言った。
「ツッキーの役目は、デバッグとテスト……つまり、品質管理なんだ。キミがオーケーを出さなければ、どんな優れたプログラムだろうと世には出せない。最後の守護神ってわけなのさ」
「守護……神、ですか……?」
「そう! いや、ツッキーは女の子だから、守護女神って方がいいかもね。頼りにしてるよ!」
最初は、きょとん、と呆けていた水無月さんだったけれど、徐々にその顔に決意とチカラが満ちてきた。眉をしかめ、口を引き結んでへの字に曲げると、ふん! と可愛い鼻息が出た。
「わ! わかりました! やってみます、あたしっ!」
「ははは! お手柔らかにお願いします、ツッキー女神様」
そしてそのまま隣の、これまたいつもの無表情をさらに研ぎ澄まし、刃物のように鋭く目の前の図を見つめたまま微動だにしない五十嵐君に声をかけようとして――これはかけづらい。
「……なんでしょうか、古ノ森リーダー?」
「あ。声かけても大丈夫なんだね、ハカセ」
見えているし聴こえてもいるらしいけれど、ぴくりとも動かないのはさすがの集中力だ。僕は少し大袈裟めにカラダを揺らし、五十嵐君の目の前に置かれている図をちょんと指さした。
「えっと……それ、なんだい?」
「この図のことですか? ご覧のとおり、設計図ですよ。借りるのは視聴覚室でしたよね?」
「うん、そうだけど……って! どうりで見たことあるなーと思ったら、そういうことか!」
白い薄紙に、濃紺の線。いわゆる青図、青焼きという手法で描かれた図面内のレイアウトは、確かに視聴覚室のものに違いない。
だが、ここから何をしようというのだろう。
それに――。
「……誤解なきように申しあげますが。これは他の誰でもない、僕自身の手で描いたものです」
五十嵐君は僕の思考を読み取ったかのように決然と言い放った。僕はちらりとでも疑念を抱いてしまったことを恥ずかしく感じると同時に、五十嵐君の真剣な表情を見て嬉しくなる。
「到底プロにはかないませんし、お見せできるレベルでもないのでしょう。ただ僕は、やるからにはすべて自分自身の手でやりたいのです。だから、教わってきました。図面の書き方を」
「……マジ!? それを使ってどうする気なのさ」
「これを基に、五〇分の一の視聴覚室を再現します。それをベースに舞台道具を準備するのです」
渋田には悪いが、咲都子の提案はとても魅力的だ。あのまま進めてもらうことにする。僕から仮承認を得た咲都子は、意気揚々と嫌がる渋田をひきずりながら買い出しに出かけていった。
「と、ところで……ツッキー?」
ほんの少しの同情とともに二人を見送った僕は、『98』の置いてある文机の前でうなっている水無月さんを見つけてそっと尋ねた。爪をかじりながら、いつもに増して真剣な顔をしている。
「あ、ぶ、部長……! お、お疲れ様……です……!」
「お疲れ、って。今来たばかりで何もしてないよ。で……なんでそんな怖い顔してるんだい?」
「そ、それは……え、えっと……」
口元にある右手を慌てて後ろに隠してしまうと、水無月さんは表情をやわらげて微笑んだ。
「ち、ちょっと気になる記述を見つけてしまったので……ど、どう書き換えようかなって……」
「え? どこどこ?」
「こ、ここです」
水無月さんがおそるおそる指さしたモニターの一点を見つめる僕。ふむ、プログラム的にはまったく問題ないのだけれど、確かにどこか引っかかる記述になっている。気づかなかった。
「ふーむ、なるほどね……。いいよ、ツッキーの思う通りに書き換えていいから。任せるよ!」
「えっ……! い、いいんです?」
「もちろんだよ、ツッキー」
僕は、慌てふためく水無月さんの細くて小さい肩をぽんぽんと叩いてから続けて言った。
「ツッキーの役目は、デバッグとテスト……つまり、品質管理なんだ。キミがオーケーを出さなければ、どんな優れたプログラムだろうと世には出せない。最後の守護神ってわけなのさ」
「守護……神、ですか……?」
「そう! いや、ツッキーは女の子だから、守護女神って方がいいかもね。頼りにしてるよ!」
最初は、きょとん、と呆けていた水無月さんだったけれど、徐々にその顔に決意とチカラが満ちてきた。眉をしかめ、口を引き結んでへの字に曲げると、ふん! と可愛い鼻息が出た。
「わ! わかりました! やってみます、あたしっ!」
「ははは! お手柔らかにお願いします、ツッキー女神様」
そしてそのまま隣の、これまたいつもの無表情をさらに研ぎ澄まし、刃物のように鋭く目の前の図を見つめたまま微動だにしない五十嵐君に声をかけようとして――これはかけづらい。
「……なんでしょうか、古ノ森リーダー?」
「あ。声かけても大丈夫なんだね、ハカセ」
見えているし聴こえてもいるらしいけれど、ぴくりとも動かないのはさすがの集中力だ。僕は少し大袈裟めにカラダを揺らし、五十嵐君の目の前に置かれている図をちょんと指さした。
「えっと……それ、なんだい?」
「この図のことですか? ご覧のとおり、設計図ですよ。借りるのは視聴覚室でしたよね?」
「うん、そうだけど……って! どうりで見たことあるなーと思ったら、そういうことか!」
白い薄紙に、濃紺の線。いわゆる青図、青焼きという手法で描かれた図面内のレイアウトは、確かに視聴覚室のものに違いない。
だが、ここから何をしようというのだろう。
それに――。
「……誤解なきように申しあげますが。これは他の誰でもない、僕自身の手で描いたものです」
五十嵐君は僕の思考を読み取ったかのように決然と言い放った。僕はちらりとでも疑念を抱いてしまったことを恥ずかしく感じると同時に、五十嵐君の真剣な表情を見て嬉しくなる。
「到底プロにはかないませんし、お見せできるレベルでもないのでしょう。ただ僕は、やるからにはすべて自分自身の手でやりたいのです。だから、教わってきました。図面の書き方を」
「……マジ!? それを使ってどうする気なのさ」
「これを基に、五〇分の一の視聴覚室を再現します。それをベースに舞台道具を準備するのです」
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