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第172話 それっていわゆるヤバいアレ at 1995/8/6
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「あの……突然のお願い、聞いてくださって感謝します、古ノ森さん」
「ま、まあ、うん、感謝されるほどでもないっていうか……」
自分よりはるかに小さいみかんちゃん――聞けば、まだ小学校四年生らしい――から、バスの車内という公衆の面前でていねいに礼儀正しいお辞儀をされてしまうと、恥ずかしい、というよりなんだか法を犯しているような気分にすらなる。慌てて手を振り、即刻やめてもらった。
「そもそも僕、まだくわしい話聞かされてないんだけどね……? 一体僕たちとどこに行こうっていうんだい、みかんちゃん? そろそろ教えてくれないかな、どこに連れて行く気なのか」
「お姉ちゃんたちとかえでちゃんは、町田の駅前にいるはずなんです」
「へ、へー。……で? 買い物でもしてるのかな?」
要領を得ない会話に呆れたように、みかんちゃんは僕ではなくロコの方に視線を向けて言う。
「……この人、鈍感ですね」
「ま、まあねー。割とそう」
「うぉうぃっ! それはどういう意味だよ、ロコ!?」
「しっ! バスの車内ですっ。お静かにお願いします」
「あ……スミマセン」
短い潜め声で僕を嗜めたみかんちゃんは、心を落ち着かせるためか、両手で大事そうに抱えたペットボトルの水を一口、くぴり、と飲んだ。ちなみに買わされたのは僕である。さらにちなみにつけくわえると、この子のバス代も僕持ちだ。なんというか、しっかりした子である。
「ふう……。では、お二人とも、こちらに来てくださいませんか?」
「お、おう」
みかんちゃんに座る気がなさそうだったので僕らも立っていたのだが、このバスは幸運にも空いていて、最後部の座席には誰も座っていなかった。そこまで袖を引かれるままついていく。
僕とロコとでみかんちゃんを挟むように座ると、小さな手が僕らの首根っこを掴まえて引いた。
「あたし、かえでちゃんを助けてください、ってお願いしましたよね? お買い物に付き合わされている程度だったら、そんな無茶なお願いしませんよ! 馬鹿なんですか馬鹿ですか!?」
「ごめんって……。ゼロ距離で幼女から罵倒されるとかなりへこむんだけど」
「むしろ、それで喜ぶような歪んだ性癖をお持ちでなくてよかったです」
シニカルな響きをともなってかわいらしい口から飛び出してきた単語に少々面喰ったものの、最近の小学生はませているに違いない、と勝手に納得して話の続きをせがむように合図を送った。
「……それよりも、です。あたしは、お二人がかえでちゃんの味方だと信じて相談してます。でも、絶対に裏切らないとは思えません。これから話す内容は他言しないと約束できますか?」
瞬間的に、僕とロコの視線が交差した。
お互い、真剣な目で、こくり、とうなずきあう。
「誰にも言わない。だってかえで君は、僕らの部活仲間で、大事な友だちなんだ。裏切らない」
「あたしもそう。かえでちゃんを泣かせたりしないし、悲しませたりはしないって約束するわ」
「わかりました。信じますからね」
うなずくみかんちゃんは、僕らの首筋にそえた小さな手にチカラをこめ、さらに引き寄せた。
「あたしの大好きなかえでちゃんは、今日も二人のお姉ちゃんの策略にハマってとんでもないことをさせられているんです……。あたしはそれを、何としてでもやめさせたいんです!!」
「と……とんでもないこと、って一体どんな……?」
「そ、それは……ですね……」
みかんちゃんは急に歯切れ悪く口ごもると、たちまち顔をピンク色に染め上げた。
「お――女の子の恰好をさせられて、お客さんを集めて、お金をもらったり、売ったりです!」
「………………え!?」
おいおいおいおい!
とんでもないことに巻き込まれているぞ、これ!
まさか……実のお姉さんたちだろ!?
でも、みかんちゃんの話が本当だったとしたら……。
「ど、どうする、ケンタ?」
「どうするも何もない! そんな馬鹿げたこと、僕たちでやめさせて、佐倉君を救い出す!」
「ま、まあ、うん、感謝されるほどでもないっていうか……」
自分よりはるかに小さいみかんちゃん――聞けば、まだ小学校四年生らしい――から、バスの車内という公衆の面前でていねいに礼儀正しいお辞儀をされてしまうと、恥ずかしい、というよりなんだか法を犯しているような気分にすらなる。慌てて手を振り、即刻やめてもらった。
「そもそも僕、まだくわしい話聞かされてないんだけどね……? 一体僕たちとどこに行こうっていうんだい、みかんちゃん? そろそろ教えてくれないかな、どこに連れて行く気なのか」
「お姉ちゃんたちとかえでちゃんは、町田の駅前にいるはずなんです」
「へ、へー。……で? 買い物でもしてるのかな?」
要領を得ない会話に呆れたように、みかんちゃんは僕ではなくロコの方に視線を向けて言う。
「……この人、鈍感ですね」
「ま、まあねー。割とそう」
「うぉうぃっ! それはどういう意味だよ、ロコ!?」
「しっ! バスの車内ですっ。お静かにお願いします」
「あ……スミマセン」
短い潜め声で僕を嗜めたみかんちゃんは、心を落ち着かせるためか、両手で大事そうに抱えたペットボトルの水を一口、くぴり、と飲んだ。ちなみに買わされたのは僕である。さらにちなみにつけくわえると、この子のバス代も僕持ちだ。なんというか、しっかりした子である。
「ふう……。では、お二人とも、こちらに来てくださいませんか?」
「お、おう」
みかんちゃんに座る気がなさそうだったので僕らも立っていたのだが、このバスは幸運にも空いていて、最後部の座席には誰も座っていなかった。そこまで袖を引かれるままついていく。
僕とロコとでみかんちゃんを挟むように座ると、小さな手が僕らの首根っこを掴まえて引いた。
「あたし、かえでちゃんを助けてください、ってお願いしましたよね? お買い物に付き合わされている程度だったら、そんな無茶なお願いしませんよ! 馬鹿なんですか馬鹿ですか!?」
「ごめんって……。ゼロ距離で幼女から罵倒されるとかなりへこむんだけど」
「むしろ、それで喜ぶような歪んだ性癖をお持ちでなくてよかったです」
シニカルな響きをともなってかわいらしい口から飛び出してきた単語に少々面喰ったものの、最近の小学生はませているに違いない、と勝手に納得して話の続きをせがむように合図を送った。
「……それよりも、です。あたしは、お二人がかえでちゃんの味方だと信じて相談してます。でも、絶対に裏切らないとは思えません。これから話す内容は他言しないと約束できますか?」
瞬間的に、僕とロコの視線が交差した。
お互い、真剣な目で、こくり、とうなずきあう。
「誰にも言わない。だってかえで君は、僕らの部活仲間で、大事な友だちなんだ。裏切らない」
「あたしもそう。かえでちゃんを泣かせたりしないし、悲しませたりはしないって約束するわ」
「わかりました。信じますからね」
うなずくみかんちゃんは、僕らの首筋にそえた小さな手にチカラをこめ、さらに引き寄せた。
「あたしの大好きなかえでちゃんは、今日も二人のお姉ちゃんの策略にハマってとんでもないことをさせられているんです……。あたしはそれを、何としてでもやめさせたいんです!!」
「と……とんでもないこと、って一体どんな……?」
「そ、それは……ですね……」
みかんちゃんは急に歯切れ悪く口ごもると、たちまち顔をピンク色に染め上げた。
「お――女の子の恰好をさせられて、お客さんを集めて、お金をもらったり、売ったりです!」
「………………え!?」
おいおいおいおい!
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まさか……実のお姉さんたちだろ!?
でも、みかんちゃんの話が本当だったとしたら……。
「ど、どうする、ケンタ?」
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