176 / 539
第175話 かえでちゃん奪還作戦(3) at 1995/8/6
しおりを挟む
と、いうわけで。
「どういうことなのか、ちゃんとこの人たちにも説明してもらいますからね、お姉ちゃんたち?」
「はい……」
案外あっさりと佐倉君およびその姉二名を捕まえることができた。というのも、どうやら次女らしき瓶底メガネの根暗女(失礼)は運動がニガテらしく、本来抱えて逃げるはずだった佐倉君に、逆に抱えられるようにしてもなお、その足はあきれるほど遅かったのである。
しかし、佐倉君のとびきりキュートでとんでもなく目立つ恰好を考えると、あまり人目につく場所での事情聴取は避けたい。さりとて、あの姿のまま一緒に家まで帰らせるのも酷だ。
なので、かなりご迷惑で申し訳ないのだけれど、僕らは珈琲舎『ロッセ』にお邪魔していた。
「……」
マスターは無言の視線を僕たちに向けたまま黙々と豆の焙煎をしている。さほど馴染みというわけでもないのに無理言って人払いまでしてもらった。背後からの圧が凄すぎて僕倒れそう。
「みかん……お前、相当怒っているな? いや、なぜ怒っているのだね?」
平謝りの姿勢からわずかに身を起こし、そろりと窺うように尋ねたのは、黒のパンツスーツ姿のいかにもできるビジネスウーマン的容姿をした長身の女性だ。たぶんこの人が長女さんなのだと思われるが……一見誠実そうにみえて、反面なんともいえないうさん臭さが漂っていた。
「もしかして、せりちゃんは自分がしでかしたことの大きさ、善し悪しが理解できてないの?」
「ははは! 善悪だなどと、そんな大袈裟な――」
いきおい、笑い飛ばして済まそうとしたらしい長女――佐倉せりさん(仮)は、微動だにせず冷たい視線を送り続けるみかんちゃんの顔を見て、うっ、と口ごもり、視線を泳がせた。
「しのぶちゃんもだよ? いくらせりちゃんにそそのかされたからって、ダメなものはダメ!」
「あぅ……ご、ごめん、なさい……。みかんちゃん、お、お姉ちゃんを嫌いにならないで……」
その隣に座る瓶底メガネの根の暗そうな次女――佐倉しのぶさん(仮)は、話の矛先が自分に向いた途端にあわあわと慌て出し、夏に着るにはかなり暑苦しいだいぶ袖の長いよれよれの白いロンTの手を伸ばすと、ビブラートがかった涙声でみかんちゃんにすがりつこうとした。
「え、えっと。ま、待ってよ、みかんちゃん!」
そこで、話に割って入ったのは、意外にも佐倉君――つまり長男、佐倉かえでちゃんだった。
「ふ、二人に無理なお願いをしたのは僕なの! だ、だから、怒られるべきなのは僕なんだ!」
「………………それって、どういう意味?」
「ぼ、僕が二人に『かわいく見えるメイクとヘア・スタイリング方法を教えて』って頼んだの」
「「――!?」」
僕とロコは、佐倉君の告白に、思わず顔を見合わせた。
佐倉君は、僕ら『電算理論研究部』の文化祭での出し物を成功に導くために、佐倉君なりのやり方で真剣に向き合っていたのかもしれない。佐倉君の受け持ちは、衣装及びメイク担当だ。
しかし、それで納得してくれるほど、みかんちゃんは甘くはなかった。
じろり、と見つめる。
「たとえ、かえでちゃんの言うとおりだったとしても、こんなことまでする必要ないでしょ!」
「ははは! こんなこと、とは、ずいぶんな言草だな、みかん? このあたしたちはだな――」
「『かえでちゃんを女の子のアイドルに仕立て上げて、あわよくばデビューさせようとした』」
みかんちゃんは僕に、こくり、とうなずいてみせた。それに応えるように、さっきの仮設イベント会場に置き去りにされていた手作りのパネルを渡す。そこには、みかんちゃんの推察を裏付けるように『ミラクル☆キュートでボーイッシュ! 奇跡の新人、葉桜ふぅ・デビュー直前イベント!』と、まるで印刷されたようなカラフルなフォントででかでかと書かれていた。
それを突き付けられ、長女・せりさんは額に脂汗を浮かべ、次女・しのぶさんはうつむいた。
「む、無論、冗談に決まっているだろう! かえでちゃんはあたしたちの大事なおも――弟だぞ?」
……おい。
今この人、『大事なおもちゃ』って言いかけたぞ!
「と・も・か・く・っ・! こんなことはすぐやめて、おうちに帰りますよっ! さあっ!!」
「どういうことなのか、ちゃんとこの人たちにも説明してもらいますからね、お姉ちゃんたち?」
「はい……」
案外あっさりと佐倉君およびその姉二名を捕まえることができた。というのも、どうやら次女らしき瓶底メガネの根暗女(失礼)は運動がニガテらしく、本来抱えて逃げるはずだった佐倉君に、逆に抱えられるようにしてもなお、その足はあきれるほど遅かったのである。
しかし、佐倉君のとびきりキュートでとんでもなく目立つ恰好を考えると、あまり人目につく場所での事情聴取は避けたい。さりとて、あの姿のまま一緒に家まで帰らせるのも酷だ。
なので、かなりご迷惑で申し訳ないのだけれど、僕らは珈琲舎『ロッセ』にお邪魔していた。
「……」
マスターは無言の視線を僕たちに向けたまま黙々と豆の焙煎をしている。さほど馴染みというわけでもないのに無理言って人払いまでしてもらった。背後からの圧が凄すぎて僕倒れそう。
「みかん……お前、相当怒っているな? いや、なぜ怒っているのだね?」
平謝りの姿勢からわずかに身を起こし、そろりと窺うように尋ねたのは、黒のパンツスーツ姿のいかにもできるビジネスウーマン的容姿をした長身の女性だ。たぶんこの人が長女さんなのだと思われるが……一見誠実そうにみえて、反面なんともいえないうさん臭さが漂っていた。
「もしかして、せりちゃんは自分がしでかしたことの大きさ、善し悪しが理解できてないの?」
「ははは! 善悪だなどと、そんな大袈裟な――」
いきおい、笑い飛ばして済まそうとしたらしい長女――佐倉せりさん(仮)は、微動だにせず冷たい視線を送り続けるみかんちゃんの顔を見て、うっ、と口ごもり、視線を泳がせた。
「しのぶちゃんもだよ? いくらせりちゃんにそそのかされたからって、ダメなものはダメ!」
「あぅ……ご、ごめん、なさい……。みかんちゃん、お、お姉ちゃんを嫌いにならないで……」
その隣に座る瓶底メガネの根の暗そうな次女――佐倉しのぶさん(仮)は、話の矛先が自分に向いた途端にあわあわと慌て出し、夏に着るにはかなり暑苦しいだいぶ袖の長いよれよれの白いロンTの手を伸ばすと、ビブラートがかった涙声でみかんちゃんにすがりつこうとした。
「え、えっと。ま、待ってよ、みかんちゃん!」
そこで、話に割って入ったのは、意外にも佐倉君――つまり長男、佐倉かえでちゃんだった。
「ふ、二人に無理なお願いをしたのは僕なの! だ、だから、怒られるべきなのは僕なんだ!」
「………………それって、どういう意味?」
「ぼ、僕が二人に『かわいく見えるメイクとヘア・スタイリング方法を教えて』って頼んだの」
「「――!?」」
僕とロコは、佐倉君の告白に、思わず顔を見合わせた。
佐倉君は、僕ら『電算理論研究部』の文化祭での出し物を成功に導くために、佐倉君なりのやり方で真剣に向き合っていたのかもしれない。佐倉君の受け持ちは、衣装及びメイク担当だ。
しかし、それで納得してくれるほど、みかんちゃんは甘くはなかった。
じろり、と見つめる。
「たとえ、かえでちゃんの言うとおりだったとしても、こんなことまでする必要ないでしょ!」
「ははは! こんなこと、とは、ずいぶんな言草だな、みかん? このあたしたちはだな――」
「『かえでちゃんを女の子のアイドルに仕立て上げて、あわよくばデビューさせようとした』」
みかんちゃんは僕に、こくり、とうなずいてみせた。それに応えるように、さっきの仮設イベント会場に置き去りにされていた手作りのパネルを渡す。そこには、みかんちゃんの推察を裏付けるように『ミラクル☆キュートでボーイッシュ! 奇跡の新人、葉桜ふぅ・デビュー直前イベント!』と、まるで印刷されたようなカラフルなフォントででかでかと書かれていた。
それを突き付けられ、長女・せりさんは額に脂汗を浮かべ、次女・しのぶさんはうつむいた。
「む、無論、冗談に決まっているだろう! かえでちゃんはあたしたちの大事なおも――弟だぞ?」
……おい。
今この人、『大事なおもちゃ』って言いかけたぞ!
「と・も・か・く・っ・! こんなことはすぐやめて、おうちに帰りますよっ! さあっ!!」
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
ルピナス
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の藍沢直人は後輩の宮原彩花と一緒に、学校の寮の2人部屋で暮らしている。彩花にとって直人は不良達から救ってくれた大好きな先輩。しかし、直人にとって彩花は不良達から救ったことを機に一緒に住んでいる後輩の女の子。直人が一定の距離を保とうとすることに耐えられなくなった彩花は、ある日の夜、手錠を使って直人を束縛しようとする。
そして、直人のクラスメイトである吉岡渚からの告白をきっかけに直人、彩花、渚の恋物語が激しく動き始める。
物語の鍵は、人の心とルピナスの花。たくさんの人達の気持ちが温かく、甘く、そして切なく交錯する青春ラブストーリーシリーズ。
※特別編-入れ替わりの夏-は『ハナノカオリ』のキャラクターが登場しています。
※1日3話ずつ更新する予定です。
陰キャの陰キャによる陽に限りなく近い陰キャのための救済措置〜俺の3年間が青くなってしまった件〜
136君
青春
俺に青春など必要ない。
新高校1年生の俺、由良久志はたまたま隣の席になった有田さんと、なんだかんだで同居することに!?
絶対に他には言えない俺の秘密を知ってしまった彼女は、勿論秘密にすることはなく…
本当の思いは自分の奥底に隠して繰り広げる青春ラブコメ!
なろう、カクヨムでも連載中!
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330647702492601
なろう→https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n5319hy/
静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について
おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である
そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。
なんと、彼女は学園のマドンナだった……!
こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。
彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。
そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。
そして助けられた少女もまた……。
二人の青春、そして成長物語をご覧ください。
※中盤から甘々にご注意を。
※性描写ありは保険です。
他サイトにも掲載しております。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる